苦手、だと思っていたのかもしれない。考えが読めないというのが大きい。予測が出来ないのだ。
自分の言葉が伝わっているのかいないのか、それすらわからないこともあって、エドは不安だった。

「なぁ、何で怒ってんの?」
「怒ってない」
「嘘だぁ、ほらここ、皺寄ってんじゃん」

とん、とヨハンの右手人差し指がエドの眉間に押し当てられる。ますます寄った皺を伸ばすように緩く撫で始めたその指を、エドは苛付いた様子で払い除けた。
どうしてこいつはこう、簡単に触れてくるんだ。人の気も知らないで。

「…触るな」
「何で?」
「っ…触られたくないからだよ!」
「何で、触られたくないんだよ。俺のこと嫌い?」
「、…」

不思議そうに問われて、エドは口を噤む。
嫌いなわけではない、と。エドは自分自身で理解していた。むしろ逆だ。
しかしそれを素直に言葉や態度で出すのは性格上出来なかったし、ヨハンの些か軽い態度もそれに拍車を掛けた。
黙り込んだエドの顔を、ヨハンが覗き込む。

「エードー?」
「うるさい!嫌いだお前なんか!」
「…嫌い…なのか」

反射的に怒鳴ると、途端にヨハンの表情は酷く悲しそうに歪んだ。
予想していなかったリアクションに、エドの方も困惑する。悲しそうな顔、なんて見たことが無かった。


「…そっか、じゃあもうくっついたりしねぇよ。悪かったな」
「え、…は…?」
「じゃあな」
「待っ…」

くるりと背を向けられ、思わずエドはその腕を掴んだ。額に嫌な汗がじわりと滲む。今、このまま離してはいけない気がした。
そのまま振り返った蒼い瞳に射抜かれ、エドは怯んだように瞳を揺らす。
ヨハンの考えていることはわからない。自分のことをどう思っているのかわからない。だからいつも不安だった。

「ヨ、ヨハン…」
「何?」

その声が先程までよりひどく素っ気無く聞こえる。
嫌われてしまっただろうか。そう思うと胸が締め付けられるように苦しくなった。自分から突き放したくせに、いざ離れそうになるとこのざまだ。
どう思われているのかわからなくて不安になるなんて、好きだからに決まってる。他の奴になら嫌われたって別に何とも思わない。そんな簡単なことにも気付かず、行き場の無い不安を本人にぶつけて、傷付けてしまった。
僕は馬鹿だ、とエドは自己嫌悪に苛まれた。

「…、……ごめん。さっきのは嘘だ」

それ以上ヨハンの顔を見ていることが出来ず、俯いて告げる。
エドは、こんな状況にならないと素直になれない自分の性格を呪った。

「嘘って?」
「嫌い、っていうの…」
「じゃあ、本当は好き?」
「ッ…ああそうだよ」

自棄になったようにエドは答えた。ヨハンは思わず黙り込む。
返答が無いのを訝しみエドが顔を上げると、ヨハンはそれまでの沈んだ顔が嘘のように、パッと表情を綻ばせた。見慣れた、いつもの笑顔だった。

「俺も好きだぜ!」
「、…知ってるよ」

えー、と不服そうに頬を膨らませるヨハンを見て、思わずエドは笑った。それを見たヨハンも、また笑った。

「なあ。なら、また触ってもいいのか?」
「…少しなら」
「よーし」

にっこりとヨハンが笑った刹那、ちゅ、と軽い音を立てて何かがエドの唇に触れた。柔らかくあたたかいその感触。
言わずもがな、ヨハンの唇である。
目を見開いて硬直したエドをよそに、唇を離したヨハンは嬉しそうに笑った。

「へへ、ちゅーしちった」
「ッな……、ヨハン!」
「何だよ、少しなら良いんだろ?」
「ばっ…場所とか、色々考えろ!」
「あはは!赤くなってるぜエド!」
「うるさいっ!」
「何怒ってんだよー」

赤くなった顔を必死に隠すエドをからかいながら、ヨハンは楽しそうにその頬に口付けた。









End.


―――――

ゆき様からのリク、『ヨハエド甘々』でした。
ヨハエドのエドは思う存分ツンデレで、ちょっと子供なのが理想だったり。
ゆき様のみお持ち帰り自由です。リクありがとうございました!


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