待ち焦がれた季節は、春。 『卒業祝いは何がいい? 何でもってわけにゃいかないが、好きな物買ってやるぞ』 ポケットに手を突っ込み、へらり笑いながら言う。 その言葉はあまりにも突然だったので、少女は目を丸くした。 『へ?あの…え?』 聞き返し、挙動不審。 落ち着きなく辺りに視線を彷徨わせて。きっと今、頭の中では欲しい物リストを順にめくっているところだろう。 その様子を見ながら、目を細めた。 自分の薄給を知っているので、無理難題は吹っ掛けて来ないだろうと予想して。 少女が言って来るであろうささやかなものよりは、多少奮発したプレゼントを用意していたり、する。 ポケットの中には、可愛くラッピングされた小箱。 『日…『マグカップ!!』 呼ぼうとした声は、掻き消された。 叫んだ彼女はすこぶる上機嫌。 『好きな物買ってくれるんですよね。じゃあマグカップで!!』 『…お前さん安上がりだなぁ』 右手を少女の頭の上に置き、ぽんぽんと軽く叩いた。 左手はまだポケットの中。 『安上がりでいいんですよーだ。脱☆客用カップ』 眩瞑しそうになった。 自分よりも、よっぽどこの少女の方が地に足ついている。 でも、まぁいいさ。 マグカップと一緒に渡してしまおうか。 誕生石の はまった小さな…指輪。 『あ、合い鍵も下さい』 何処までも、彼女の方が上手。 topへ [管理] |