Lovely Days 放課後、野球部きってのモテ男二人が並んで廊下を歩く。 毎日繰り返される行動に二人のファンの女子が廊下に出て待ったり教室の中から顔を覗かせていたりとある意味名物になっている。 そして女子達は思うのだ。「あの一年の男の子が羨ましい」と。 「沢村ー部活行くぞ」 「早くしろコラ」 いつものように一年の沢村の教室にやってきた二人はいつものように声をかける。 沢村は二人が来る頃はすぐに出れる用意をして席に待機しているが、今日はクラスの友人とふざけ合っていて気付かなかった。 先に気付いたクラスメイトの金丸が慌てて沢村の肩を叩く。 「沢村っ!御幸先輩と倉持先輩迎えに来てんぞ!」 「えっ?あっ!」 聞いた沢村はさらに慌てて友人から離れ、荷物を掴んだ。 「金丸っ!後でなっ」 バタバタと二人の先輩の元に駆け寄る沢村の後ろ姿を見て金丸は溜息を吐いた。 「いつもすげぇな、沢村。一軍ともなると毎日先輩のお迎え付きかよ」 「…あー、あれは一軍だからっつーより。沢村だからっつーか…」 「は?」 感心したように言うクラスメイトに本当の事を告げる訳にもいかず、言葉を濁す。 二度目の溜息をつきながら自らも部活に向かう。 (言えねーよ、沢村に変な虫が付かないように鉄壁のガードしてるとか) 「沢村、さっきお前に触ってたクラスの奴、誰?名前は?」 「…名前聞いてどうすんだよ」 「ブラックリストに載るだけだ。タメ口聞いてんじゃねぇ」 左右を御幸と倉持に挟まれ部活に向かう。いつからかこれが当然の事になった。 廊下の端にいる女子から羨望の眼差しを浴びる自分は、男子だ。まったく訳がわからない。 「沢村、俺には気を許してるからこそのタメ口だろ?わかってるって」 歩きながら沢村の肩に回した御幸の腕を倉持が払う。 自分を挟み睨み合う先輩二人にいたたまれなくなる。 「いい加減俺自分で部活行くんで、もう迎えはいいっスよ…」 「「駄目だ」」 左右から凄まれた。今睨み合っていたのにもう結託している。 御幸と倉持双方から告白されたのは結構前の事。 沢村がどうすればいいのかと悩んでいるうちに何が起こったのか共同戦線が張られていた。 「沢村が心を決めるまで抜け駆け無し。そのかわり二人以外が沢村にちょっかいを出すのは許さない」 それが決まり事のようでその為の放課後の鉄壁のガードだ。 (つーか俺の自由は…?) しかし喧嘩で右に出る者のいない先輩と、口の上手さと策で右に出る者のいない先輩を相手に敵うはずもなく。 こうしていつも二人に挟まれている。他の部員数名にも知られてはいるが絶対面白がっているに違いない。 心配しているのは春市くらいだと沢村は思っている。 「おっ。部室今日一番乗りじゃねえ?」 「ちょうどいいや沢村、今のうちに着替えちまえ」 その言葉に沢村は腑に落ちないものを感じる。 (ちょうどいい?このメンツのみで着替える方が俺にとってはヤバくねぇ?) だがどちらにしてもすぐに着替えなければならないし逆らっても仕方ないとボタンに手をかけた。 どうにも視線を感じ振り向くとロッカーにもたれ掛かりこちらを見る御幸、真ん中のベンチに腰掛けてこちらを見る倉持とそれぞれ目が合う。 二人とも唇の端を上げニヤニヤ笑っている。 「見てないで着替えたらどうなんスか!」 「えーだってせっかく沢村が脱ぐのに勿体なーい」 「喚いてねぇでさっさと着替えやがれ」 「ぐ…っ」 こんな状態で堂々と着替えられる人間がいたらお目にかかりたいと思う。 「じっじゃあ絶対触んないで下さいよっ」 「あー無理かも」 「はぁ?何でそんな約束しなきゃなんねーんだよ!?」 「……っとにもう!」 とにかくスピードが命だと手早く脱ぐも、Tシャツを脱ぐ時あらわになった背中にツーッと指が走り思わず声が出た。 「わああっ!」 慌てて振り向くと二人とも先程の状態でニヤついてどちらがやったなんてわからない。 ここで騒ぐと思うツボだと思い、急いで練習着を着た。 「お、俺もう行きますからっ!」 「お前散々走ったみてぇに真っ赤だな」 構わず部室を出ると離れるまで笑い声が聞こえていた。 たまに二人が告白してきたのもからかわれているだけなのではないかと思う。 それならそれで早いところ「嘘でした」と言ってほしい。その方がよっぽどラクだと思った。 翌日の昼休み、沢村はクラスメイト数人と食堂へ行こうと教室を出た。 そこにコンビニ袋をぶら下げた御幸と倉持に出くわした。 「おう沢村、今日は昼飯一緒に食おーぜ」 「オメーの分も買って来たからよ。徴収するけどな」 「ええっ」 コンビニ袋を掲げてヒャハッと笑う倉持と唇の端を上げて笑う御幸に挟まれた。 (……昼休みもかよ……) 寮、部活、放課後と段々と御幸と倉持に侵食されていく。 このままだと昼休みも二人と過ごす時間に取って代わりそうだ。 クラスメイトとの楽しい時間が奪われる事もだが、一番問題なのはそれを心底から嫌がってはいない自分がいることで。 (訳がわからない) 促されるまま歩いて屋上に到着した。扉を開けると少し暖かな心地良い風が頬を撫でる。 「あー、気持ちいいっスね」 「だろ?春と秋だけの楽しみだよな」 「あっ!あの店員のヤロー箸入れ忘れやがった」 座って袋から中身を出そうとした倉持が箸が入ってないと文句を言っている。 「沢村、学食で箸…あーやっぱいいや」 「いいんスか?俺行きますよ」 「いや、ついでにトイレ」 「ええっ?トイレの前に箸貰わないで下さいよっ」 「うっせ、んな事言うとテメェのは先に貰っとくぞ」 「ひでぇ!」 倉持の姿が階下へ続く扉の中へ消えるのを笑いながら見て、振り向くと御幸が真っ直ぐ沢村を見つめていた。 「な、何?」 「いや?別に…」 座っていた御幸はそう言うと後ろに倒れ寝転んだ。 「なあ沢村」 「何だ?」 「お前今のこういう関係、嫌じゃねぇ?」 「え……たまに困るけど嫌って訳じゃ、ねえかな…」 「そうか、よかった」 御幸はそのまましばらく空を見ていて、沢村はどうしていいのか判らず次の言葉を待った。 「…俺、さ。お前の返事を聞きたいと思う反面、まだしばらくこのままでいたいとも思うんだよね」 「………」 「お前が答を出したら俺達のどちらかはお前といられなくなる」 「…あ…」 「情けねぇけど、もしお前が倉持を選んだらと思うと…たまんねえんだよ」 御幸は頭の下に置いていた両手を顔の上で交差した。 その仕種はまるで泣く姿を連想させるようで胸が傷み、思わず手を伸ばそうとした。 「…御幸…」 「沢村ァ、んな詐欺師に引っかかんなよ」 「く、倉持先輩っ。詐欺?え?嘘!?」 戻った倉持がこちらに向かって来ていた。 慌てて御幸を覗き込むと唯一腕に隠れていない唇がニヤリと笑みを形作っている。 「ひでぇっ!最悪だなアンタ!」 「えー?嘘じゃないしーホントの気持ちだもーん」 「「キモイ!」」 そのまま屋上で昼食をとり、沢村は次の授業が移動だからと先に戻った。 戻り際に後でまた迎えに行くからと言うと赤くなり、拗ねたように目を逸らしたまま頷いた。 「はっはっ!倉持、あの顔見た?マジ可愛くねぇ?」 「まあな」 笑い合った後、倉持は仰向けに寝転んで御幸は空を仰ぐように座り直した。 「倉持、さっき言ってた事半分本気だぜ」 「だと思った」 「今楽しいからなぁ。沢村が心決めちまったらやっぱ寂しいと思うかも知んねぇ」 「ヒャハッ、そりゃ俺と沢村がうまく行くのを見るのは寂しいだろうよ」 「何言ってやがる。一人になっちまうお前を気遣っての台詞だっつーの」 お互い不敵な笑みで視線を交わす。 「なぁ、明日から毎日昼飯ん時も拉致ろうぜ」 「いいな、ソレ」 もうしばらくは楽しい日々が過ごせそうだ。 end リクエスト:御→沢←倉 沢村が二人に愛され構われている甘い話 今回はこちらのリクを採用させていただきましたv ご投票下さった方とリクエスト下さった方ありがとうございました! |