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With all my love on our 4th anniversary





「今日で四年だな、沢村」

朝っぱらから、ニヤけた顔でリビングの壁にかけたカレンダーを眺めてた御幸が、嬉しそうに言った。
一緒に暮らし始めた時、互いの予定を書き込めるように余白の多いカレンダーを選んだ。
今はお互いのスケジュールは、適したアプリで管理してる。でもまだ突然の予定やら、共通の予定やらを書き込んだりするために、今年も同じものを買った。
そのカレンダーの今日の部分は空白のまま。
だから、ニヤけてる理由も嬉しそうな意味もまるでわからなかった俺が、「何が?」と聞いてしまったのは仕方ないことだと思う。

出会ったのも、付き合い始めたのも、一緒に暮らし始めたのも季節が違う。
こんな冬の最中に、何か記念になるようなことがあっただろうか。あまりよくないと自覚してる頭をフル回転させてもわからない。
日付けに頓着することはあまりないけど、御幸がそういう記念日的なものが好きだから、ある程度覚えてたつもりだったのに。
朝メシの後、ソファでダラダラしてた俺に突き付けられた記念日問題。
振り向いた御幸の、『わかってはいたけど、ちょっぴり期待してたから残念』みたいな複雑な顔が、ほんの少し、可愛かった。

「だって、こんな時期に何かあったっけ?」
「何かってお前。あったろ、凄え寒かった日に」
「いつの」
「だから四年前つってんだろ」
「ああ、そっか」

四年前の一月って、つき合い始めたばかりの時だ。
何となくソファから起き上がって座り直した。きちんと考えてます、みたいな。
ヒントは無いかとぐるりと部屋の中を見渡した。
高一の終わりに付き合い始めて、卒業してこの部屋で一緒に暮らし始めた。
どちらも、春で。
そんなに大きくはないリビングの、左側にある引き戸を開けたら俺の部屋で、玄関に入ってすぐの廊下の左側のドアが御幸の部屋。右側のドアはバストイレ。
生活リズムが違う時の為にそれぞれの部屋はあるけど、普段は大概御幸の部屋で一緒に眠る。
この部屋を見つけてきたのも御幸だった。
御幸が選んだカーテンとか、二人で選んだ冷蔵庫とか、御幸の家から持ってきちまったテレビとか、想い出は沢山あるけどヒントは無い。
一周見渡して、御幸に戻る。
どんな顔して見てたのか、「困るなよ」と笑いながら俺の座るソファの前にやってきた。

「まあわかんなくて当然かな。二年目と三年目は、自分で勝手に祝っちまった」
「……は?一人で……?」
「一人って言うか、勝手に」
「え?」

記念日を勝手に祝うってどうやって。
御幸が口端を上げて笑いながら、座る俺を囲うようにソファの背もたれに両手をついて覆い被さってきた。

「思い出さねえ?」
「なに、を」
「つき合い始めてすぐ、練習の終わり、もう真っ暗でグラウンドの照明で雪がチラついてるのがわかった」
「……で…?」
「で、二人とも手が冷たくて、ふざけながら息を吹き掛けて温め合って」
「…………あっ」

まさか。

「顔を近付けたら、互いの吐く真っ白な息がかかって」

やめろ。赤面しそうだ。

「お前が『御幸の息で顔が湿った』って。んでおかしくなって、二人して笑いながら、初めての」

そう、そうだ。

「………………キスを、した日か」
「あたり」

御幸はまるで、アリスに出てくる猫みたいな顔でニシシと笑っていて、その頬はほんの少し赤かった。
何だよ、それ。

「…………お、お、」
「お?」

乙女かっ!!
何だよ初めてキスした日って!恥ずかしいよ!恥ずかしいだろ!
顔が熱い、熱すぎる。どれだけ赤くなってんだ俺。
俺は知らなかったけど、御幸は毎年勝手に祝ってたって、どうやって。
そう、どうやって。
覆い被さったままの御幸を見上げた。

「なあ、一人で勝手に祝ってたって……」
「ああ、この日に絶対キスしてた」
「……知らなかった」
「一年目の俺が受験の年も、二年目のお前が受験の年も」
「……へえ」
「去年はもう一緒に暮らしてたから、お前を起こす時から夜寝るまで、それはもうキスしまくった」
「……まじで」
「おう」

またニシシと笑って俺を見る御幸の目が、さっきと違って優しくて。
なあ、四年前のあのキスはアンタにとってそんなに大事なもんだったの。
雪のチラつく中、ふざけて唇をそっと触れ合わせただけのあの日が、そんなに大事な日になったの。
胸のところが苦しくて何だかもう、どうしようもない。

「何で……」
「つき合い始めたばかりの頃、お前が本当に俺と同じ気持ちでいるのか不安だった」
「……え、アンタが……?」
「おう。好きって、他の奴らと同じ好きじゃねえの、恋愛と勘違いしちゃってんじゃねえの、とか」
「そんなの……」
「伝わった、あの日のキスで」

また笑う。
だから今日は特別なんだって、俺だけにくれる優しい顔で。

「今日は平日だけど、朝からずっと一緒に居られるし、一日中くっついてキスしてたいから言ってみた」
「そ、か……」

どうしたらいいのかと、一瞬考えてしまった。
そんな風に想ってくれる御幸に、どんな風にこの一日を過ごさせてやればいい?
すると少し俯いた眉間に、御幸の指があたりグリグリと押された。

「何か、難しく考えてねえ?」
「……いや」
「いつも通りでいんだって。他の記念日と同じ、普通にしてろよ」
「……いつも俺が何もしねえみたいに」
「しねえじゃん!てかそのままで、こん中で今日はそんな日だって、思っててよ」

御幸は声を出して笑いながら、指で俺の胸をトン、と突ついた。

不思議なことに、記念日だと思うと途端に今日が愛しくなる。
日々強くなる想いを持て余して、こんな感情いらないと投げやりになった時もあった。
なのに、想いが通じ合った日、とか。
会えない時間に不安で押し潰されそうになった時、御幸が作ってくれた帰る場所。
そこに二人で暮らし始めた日、とか。
そんな愛しく思える日がもう一日、御幸がこっそり隠し持ってた。

御幸が大事にしてた今日を、これからは二人で大事にしよう。
来年の今日もキスしよう。
そしてこれからも増えるかもしれない大事な日には、特別な祝いなんていらないから、想いを伝えよう。

とりあえず、辛そうな態勢のまま覆い被さってる御幸の首に両手を回して引き寄せて。
俺からの初めての、記念日のためのキスを贈る。





end



















あきゅろす。
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