「あ、雪…」


夜明けが一番寒い

紫紺染めを遥かに残す
パープルの空から
真っ白な。

ケトルからは
まだ湯気が
ゆらゆらと
あらゆる輪郭を揺らして。

目が合った様な
そうでもない様な。

向かって座す兄さんは曖昧に笑んだ。

唇だけは確認出来る。

理知的で冷薄な自信に満ちた様な
時に困った様な微苦笑とか
またどことなく疲れた様に淡く儚く
この人の微笑は
様々な種類のあって
どれも精妙でどれも真意までは読み切れなくて。

僕はそれに思い悩んだりなぞ最早しないのだが。

室内だけは温く

窓硝子を風情良く曇らす結露。

朝焼けがあんなにも鮮やかに。

夜明けが一番底冷えるのは
きっと美しい色彩の女王が非情だからだ。

銀色がゆれた。

窓の向こうで。

室内で。

冷たいまっさらな雪に埋もれて。

暖まった空調にゆらりと輪郭を。


「兄さんは雪の色だね。」


何気なく。

カップに口をつけながら。

ワイルドベリーリーフの入ったセイロン。

湯気が収まって
彼の紫色をした虹彩と合った。

紫紺を薄めて分けて
この人はパープル
僕は紺色。

朝焼けを分割した兄弟なのかもしれない。

そんな空想事を。

それほど綺麗なのだ。

ゆらり。

紅茶の薫り立ちの中
真っ直ぐに。


「お前は昔から雪が好きだったからな。」


ふと開かれた形良い唇。

至って単純に
それだけの意味の言葉だからこそ
再度嚥下してみれば
些か気恥ずかしくもなってしまった。

本当にそれだけだ。

温い程
薫る。

輪郭が柔い。

冷たい窓の向こうの雪は
白銀を
夜明けの彩の元に
しんしんと。

好きだったよ。

好きだ。

黙りこくってまたベリーリーフを口に運べば
暖かな静けさが肯定や受容にも成り得そうで。

どうにも
擽ったさには
参るけれども
何も言えなくなる僕には
丁度良いのかもしれない。

現状をありのまま受け入れる。

ささやかな
空気
気温
視野。

貴方になら全てを委ねられるよ。

言えないけれども。

ふと頬杖をついて
窓の外を眺める横顔を
ちらりと見やり
なるほどこれが幸せか、と。

向こう側にも
こちら側にも
白銀とパープルが
等しく存在して

薫り良い
温かな紅茶を啜りながら
綺麗なそれを見詰めていた。








































20100107

北の大地で穏やかに暮らして欲しい



あきゅろす。
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