浅い眠りの中で
深い夢をみている。

呪詛の様に鎮まらない眼球。
生きたまま呼吸を止めてやる事,深い眠りを与えたかった。
思い起こすのをやめる。

全く正反対の情操しか無いのだと。

いつの間にか雨の降っていて
珍しく察知する事もなく
気付いたら
世界は水の幕に遮断されていた。

豪雨。

どんな風向きであっても行方を思う事は
しかし
やはり無かったのだろう。

自らとは全く質の違う髪に触れる。

雨の降っても普段とさして変わらない漆黒の深み
天候の些細で癖の立つ自分からすれば羨ましい位だ。

辿りたがる指先に
何を?と自問して
丁度撫ぜる形となってしまったので慌てて手を退く。

素手ではなかった筈なのに
妙に感触が離れない。
指の先の神経に。

鼓膜を抜ける雨。
いつまでも連続するので此所に居ると解らなくなる。
ずっと同じ場所に留まる事が解らなくなる。

流れる。

記憶の様に消えてゆくもの。

水が流れる。

何処から何処まで?
生きて欲しいと強く願う程に
死んで欲しくないとは思えなくなる矛盾の様な真実。

皮膚でも肉でも神経でもない,無温の硬質の掌で撫ぜてみた。

瞼の震えたのは豪雨によるものだろう。

きっと今日も起きない。

増えた疵と減った羽ときっと。

そしてすべき事と
してやれる事のあわいで
惑っている今日も。

機械仕掛けの利き腕が
低温の皮膚を哀れむ事。

夢など見ずに眠っていて欲しい。

夢の深さが眠りの深さを奪い呼吸すら浅くしている。

雨が響き渡るのは室内か寝台か体内か皮膚か無機物か
どうにかして
浅いものを遮断してやって
それからどれが遺されるのか
何がしてやれるのか
したくないのか。

残された羽毛はその身体と同じく傷んでいて鋭い雨音に停滞する。

僅かな色艶を未だ保持するそれを
素肌で無いにせよ肉体性の右手指に取り眺めた。

羽毛であるが故に意外なまでに柔らかい。

完全に締め切った窓にも拘らず豪雨の微粒子はいたる所に纏わり付く。

色艶。
ささやかに睫の影の震えた一瞬を捉えて
唇を寄せる術を知らない,まだ。

浅い眠りに深い夢をみている。

誰が?

気圧の変遷を室内にて
寝台の傍らにて察知する。

雨の行方など取るに足らない。

撫ぜてしまう深淵で浅い場所まで引き寄せたい。

願って瞬く。
シーツの白さが雨の音を吸収する。
黒い髪を殊更かすかに撫ぜる。

豪雨のただ中だとは気付けない
呪詛を孕んでいるとは思えない

無機的ながら鮮やかで緩やかな感触が肌下を通った。

口付けの術を知ってみたい。

ふと思い浮かぶと同時にやはり思う事を止めて
豪雨の弱まり
明け方の気配に
眼を閉じる。



これら全て深い眠りと浅い夢に通ずるものであれば。





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笹弥のようなスクザン


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