――冬の夕暮れ―― 朝のニュースでやっていた通り、その日は冷え込みが激しかった。 冬のとある帰り道、ひょんな事で一緒に帰ったことが縁となり、二人はなぜかその日から一緒に帰っている仲である。 ひとりの女の子は、金髪のアディリシア・レン・メイザース――。 彼女は話を熱心に聞いている。 その話をしているのが彼だ――。 アディは彼の話が好きだった。なんでもない雑学だが、その口調、テンポ、話している楽しそうな顔――その全てが好きだった。 彼も話しているのは好きだった。 アディは、知っていることは専門家を越えかねない知識はあるが、知らないことはまったくもって知らない。だから、教えるのが楽しくなってしまう。 熱心に耳を傾けている姿も、物事を考える姿も好きだ。 でも、彼は言わない。 言ってしまって、拗れて、今の関係を壊したくないから。 「――であるからして、B点からA点には到達する――」 「…くしゅん」 説明している最中に、小さくアディがくしゃみした。 説明をやめ、覗き込む。 確かに、今日は寒い。 考え出す――。 「大丈夫ですわ。続けなさい、気になって夜寝れなくなったらアナタのせいですわよ?」 説明が途中で止まってしまった事を残念に思い、続けるように促すが、彼は考え込んだまま口を開かない。 「アディリシア。ちょっとごめんね、今日だけは」 そう言って、鞄を持っていないほうの手を握る。 (――!?) アディリシアの心拍数が一気に上がった。 意識するだけで、熱まで上がってきそうである。 寒さなど吹き飛んでしまう。 一瞬、肩を震わせたのを見て、彼は心配になった。 「あぁ、ええと、熱というのは筋肉から生まれるものでね、だから、その女性のが寒がりらしいんだ。でね、うん。…流石に…嫌、だったかな…?」 耳まで真っ赤になってしまった顔を見られたくなくて、鼻を鳴らすと、そっぽを向いた。 「あ、…アナタがお寒いのでしたら!私が、その…毎日手を繋いであげてもよろしくてよ!」 恥ずかしくて、嬉しくて、そう言うのが、精一杯だった。 「えっ?あっ、うん。喜んで!」 彼は笑顔で、アディリシアの手を引いた――。 お互い、頬をピンクに染めて、横に並ぶ。 そんな冬の夕暮れの日常――。 戻る |