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――桜の木の下で――



「この学校ともお別れだねぇ」

聖があまりにもしみじみと言うものだから、不思議に思って聞いてみた。
白薔薇さまと呼ばれる聖でもやり残したことはあるのだろうか。

「お姉さまでも何かやり残したことはあるのですか?」

「うん」

即答。
聖のやり残したこと。
それは何なのだろうか。
気になって仕方がないが、聞くのも躊躇われる。
そんな気持ちを顔には出さないようにしていたつもりなのに。
聖はその微妙な表情の変化を見逃さない。
小さく笑うと志摩子においでおいでと手招きをした。
志摩子はそれに従い、聖に近付く。
目で座るよう促されて聖の隣に腰を下ろした。

「志摩子はいい子だね」

急にそんなことを言われて戸惑い、聖から視線を外した瞬間、太股に重みを感じる。

「お、お姉さま?!」

志摩子の太股の上には聖の頭があった。
体は猫のように丸まって頭だけちょこんと志摩子に膝枕されている。
びっくりして立ち上がろうとしたが、立ってしまうと聖の頭が地面にぶつかってしまうと考え、寸前で止めた。

ここにはめったに人は来ない。
とは言っても、一応外だ。
人に見られると、流石にマズイ気がする。

かなり恥ずかしいが、聖が気持ち良さそうに目を閉じているのを見ると、だんだんこのままでもいいかと思えてきた。
そうして、少し落ち着いたところで聖に話しかける。

「あの…お姉さま?」

「やり残したこと」

「……?」

何のことだろう。
考えていくうちにひとつの結論に辿り着く。まさかとは思うが…。

「もしかして、やり残したことというのは…」

「うん、志摩子に膝枕してもらおうって。いやぁ、卒業前にできて良かったよ」

「……制服、汚れますよ?」

「大丈夫」

「……………」

何が大丈夫なのか。
口を開こうとして止めた。
もうすぐ卒業するのだ。
制服はそれまで使えればいい。
あとほんの少ししか使わない。

志摩子の沈黙を拒絶と受け取ったのか、聖が不安気に頭を上げる。

「嫌だった?」

「いえ…」

嫌ではないがやはりこの状態は恥ずかしいわけで。
多少頬をほてらせながら答えた。

「そう、良かった…」

聖はもう一度″枕″に頭を沈める。
しばらくすると、規則正しい息遣いが聞こえてきた。
試しに声を掛けてみるが…、反応はない。
寝てしまったのだろう。
志摩子は聖の横顔を見つめる。
安らかな寝顔を見ていると緊張もほぐれた。
いつのまにか恥ずかしいと思う気持ちも薄くなっている。

志摩子の目に、ふと、サラサラの髪が目に入った。
触ってみたい。
その衝動に身を任せ、髪に指を入れる。
そのまま撫でるようにすくと、聖はくすぐったそうに身じろぎをした。

「お姉さま…」

志摩子はこれ以上ないほどの幸せに溢れた微笑みをこぼす。

(私も、卒業前にこうしてお姉さまと過ごせて良かった…)

聞こえる筈のない声に聖が優しく笑った気がした。




卒業前の蕾をつけた桜の木の下。

そこには溶けた笑みを浮かべて眠る2人の姿があったという。


――――――――――――

ほのぼの。

蔦子さんに見つからないうちに目を覚ませー!(笑)







あきゅろす。
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