会議が終わり、後片付けを終えると辺りはすでに真っ暗だった。
山百合会のメンバーだけが校内に残っている状態。
彼女らはいくつかのグループに分かれて薔薇の館を後にしていく。
――幸せのカタチ――
友人達に別れを言い、薔薇の館を離れ、マリア様に手を合わせるとそこは校門の前。
この時間なら生徒は皆帰っているだろうという時間に2人は居た。
日本人形のような長い黒髪の少女と髪を横2つに分けて結んでいる少女。
「すっかり暗くなりましたね」
「そうね…足下が見えないわ。祐巳、転ばないようにね」
黒髪の少女、祥子は隣に居る少女を気遣う。
すると祐巳は満面の笑みでガッツポーズを作ってみせた。
「大丈夫ですよ、私こう見えてもバランス力良いですから」
それに、お姉さまの前でそんな失態を見せるわけにはいかないし。
祥子が自分を心配してくれたことが嬉しくて、祐巳は次の一歩をいつもより遠めに踏み出す。
その途端足元にあった石に漫画のように見事に躓いた。
気付いたときにはもう手遅れ。
「ぎゃぁあッ!!!?」
怪獣の悲鳴を上げて前のめりの体勢になる。
が、ギリギリのところで何とか転ぶのだけは阻止した。
その様子に祥子はたまらず吹き出す。
口元を押さえて笑い始めた。
「祐巳…あなたったら、その叫び声…ふふ」
「お、お姉さま…」
どうしていいのか分からず、祐巳は顔を真っ赤にして得意の百面相を繰り出す。
しかし、しばらく経っても祥子の笑いは止まらない。
そんなに面白かったのだろうか。
まさか私の失敗をなかったことにしようと無理に笑っている?
これは本当に呆れられたに違いない。
考えれば考える程だんだん祐巳の元気もなくなってきた。
「祐巳…?」
うなだれる祐巳を変に感じたのだろう。
祥子は目じりに浮かんだ涙を拭いながら祐巳の名を呼ぶ。
「…こんな妹ですみません」
今にも泣きそうな声。
祥子は仕方ないな、というように軽く息を吐いた。
そして自分の右手を祐巳の左手に絡ませる。
「お、お姉さま??!」
今ここで手を繋ぐ理由が分からない。
それに加え、大好きなお姉さまと手を繋いでいるという状況がますます祐巳を混乱させる。
「転びそうになってもこうしていれば大丈夫ね」
祥子は再び歩み始め、祐巳もそれに続く。
「私が転ばないように祐巳も支えてくれるのでしょう?」
漸く祥子の真意を理解した。
「…はい!」
祐巳は幸せそうに頷く。
しっかりと祥子の右手を握り返した。
幸せそうに手を繋いだ2人の後ろを歩いている影が2つ。
紅薔薇姉妹に続くのは、黄薔薇姉妹だった。
2人は祐巳と祥子が仲良さげに手を繋いでいる姿を見ていて。
「令ちゃん」
名前を呼ばれただけで由乃が言いたいことを察したのだろう。
「うん」
令は頷き、由乃の手をとる。
ほんの少し、気付かないくらい少しだけ由乃の表情が緩んだ。
「令ちゃんのそういう所…好きかも」
珍しく素直に由乃が呟く。
その言葉に令は少し驚くと、すぐに満足そうに微笑んだ。
由乃だけに見せる特別な笑顔。
「私は全部好きだよ」
「何が?」
「由乃が。由乃が全部好き」
そしてまたにっこりと笑った。
「バッカみたい」
プイと顔を背けて歩みを速める由乃。
しかし令と繋いだ右手を離すことはしなかった。
幸せそうに手を繋いだ2人の後ろを、また違う2人が歩いていた。
黄薔薇姉妹に続くのは、白薔薇姉妹。
「相変わらず仲良いね、あの2人は」
前の2人の様子を見ながら聖が笑う。
「そうですね」
志摩子がそれに同意した。
からかうのでもなく、羨ましがるのでもなく、ただ頷いた。
「手、繋ぎたい?」
聖が一応といった感じで志摩子に尋ねる。
「私達は黄薔薇さまと由乃さんではありませんから」
その問いに志摩子は首を振って答えた。
「そりゃそうだ」
「お姉さまは、繋ぎたいですか?」
「…寒いから」
聖も、悪戯っぽく肩をすくめてみせる。
2人は顔を見合わすと幸せそうに笑った。
それ以上会話は続けずにゆっくりと静かに歩いていく。
聖の両手はコートのポケットに突っ込まれ、志摩子の両手は鞄を握っていた。
しかし何故だろう。
手は繋いでいない筈なのに見えない何かが2人を繋いでいるように見える。
そしてその影は門の向こうへと消えた。
場所は戻り、薔薇の館の前。
「見事に余ったわね」
江利子が呟いた。
「余った、と言うのかは別として…貴方とこうして話すのは久しぶりな気がするわ」
「そう?」
でも別に今更話すことも無いでしょう。
江利子がそう言うと、蓉子もそうねと微笑んだ。
「結局誰が一番幸せだったのかしら」
江利子の呟きに答える声はない。
ふと横を見ると、星を見上げる蓉子の姿があった。
「みんな幸せなのよ」
蓉子の言葉が先程の答えであると気付くのに、3秒ほど時間を要した。
「みんな同じくらい幸せ。もちろん私も、あなたね」
空から目を落とし、蓉子は江利子を見つめる。
星と月の光に照らし出された蓉子の頬は言葉にできないほど綺麗だった。
「ん」
江利子の右手が蓉子に差し出される。
「…?」
「私達も便乗してみる?」
「ああ、そういうこと」
蓉子の左手が江利子にのびる。
指先が触れるか触れないかのところで、先程の3組の様子が頭に浮かんだ。
伸ばされていた腕が落ちる。
「遠慮しとくわ、あの子達を見ていて少しアテられた気分」
「…そうね」
江利子は差し出していた手を意味なくプラプラさせると、歩き出す蓉子に続いた。
――――――――――――
何この微妙な終わり方!
私的見解。
紅薔薇→友達以上恋人未満
黄薔薇→恋人
白薔薇→夫婦
江利子→蓉子→聖→←志摩子←(乃梨子)が割と好きかも。
支倉さんと島津さんは別格。
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