――頑張る理由――
「志摩子…」
普段より低い声で。
聖は耳元で最愛の人の名を呼ぶ。
最近、受験間近であるせいで3年生の授業数が極端に減った。
3年生は卒業式までは別に授業に出なくてもいいという、自主登校システムに切り替わったのだ。
当然学校に行かない日もできて。
薔薇の館にも行かないから志摩子と会う機会も減った。
会わないのと会えないのとでは訳が違う。
今まで最低1日1回は顔を見ていたし、声も聞いていた。
しかし今はどうだ。
もともと学年が違うというのもあるが、このシステムのせいで1週間に2回顔が見れればいい方。
生活に潤いがなくなった。
しまいにはいつどこに居ても無意識のうちに志摩子を探してしまう。
いわゆる志摩子不足。
完全に志摩子欠乏症だった。
だからこの休日にしっかり補給をしておこうと思ったのだが、
「今はダメです!」
と体を強く押し返された。
半分本気でへこむが、先程の言葉は聞き逃さない。
「今は?」
今はダメなら後ならいいの?
そういう意味を含ませて尋ねる。
「……」
返ってくる言葉はない。
「試験が終わったらご褒美くれるとか?」
「………はい」
からかったつもりが真面目に返事を返された。
「そ、そっか…」
考えてもみなかった答えに聖が黙りこんでしまい、志摩子も志摩子で相当恥ずかしかったのかうつ向きっぱなしになってしまう。
気まずい…。
とりあえずこの気まずい空気を打ち消そうと、聖が再び志摩子をからかう。
「もしかしてちゅーしてくれるとか?」
いつもならこれで顔を真っ赤にして黙るはず。
しばらく口をきいてくれないかもしれないがそれは仕方ない。
照れた姿を見れるのも聖だけの特権だ。
すねてしまった志摩子に甘えてみるのもいい。
なのに今日に限って志摩子は予想に反した反応を返した。
頬を染めながらも、しっかり顔を上げて頷く。
「………はい」
「!!!!?」
頭の中は軽くパニックを起こしていて。
「えっと、それは…つまり…?」
「受験が終わったら…き、キスでも何でも………ですから、ご褒美を…」
言葉を紡ぐ間、志摩子の頬はさらに赤みを増す。
「頑張った人にだけですから」
「た、楽しみにしとく」
一体志摩子に何が起こったのか。
祐巳ちゃんはこういうのに疎そうだし、由乃ちゃんの差し金だろうか。
お節介な蓉子に何か吹き込まれたのか。
さては凸の仕業?
私の混乱を楽しんでいるのか。
様々な考えが脳裏をよぎる。
ただひとつだけハッキリしていること。
頑張った人には志摩子からのご褒美がある。
これは本気で頑張らなければならないと聖は固く決意するのだった。
最高のご褒美のために。
―――――――――
藤堂からのご褒美を貰えるなら佐藤は何だって頑張る。
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