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次の日、いつものように起こされ、いつものように身支度を整えてから聖の1日は始まった。
朝の回診を終えると、蓉子と今日の予定の確認をする。

「まずは祐巳ちゃ…じゃなかった、福沢さんからだっけ?」

「はい…いい加減患者をファーストネームで呼ぶの、止めたら?」

「…考えておくよ」

他愛のない会話をしながら病室へ向かった。
祐巳は志摩子と同じく交通事故にあった患者だ。
明るくて楽しくて…そして何よりからかい甲斐がある。

「はい、じゃあ傷の様子を診るから服を脱いでみようか」

「え…あ、…脱ぐんですか?」

彼女の怪我はわき腹のあたり。
普通服は胸下まで上げるだけでいい。
なのにわざと脱げと言ったのはこの反応を見るため。
言われたのだから脱がないと!という表情。
でも普通脱ぐのかなぁ、という不安げな表情。
恥ずかしくて混乱しつつある表情。
祐巳はその表情を完璧に、3つとも同時にやってのけた。

「脱がないでいいですよ、福沢さん」

笑いを堪えられずふきだす聖。
ますます混乱する祐巳に蓉子が助け舟を出した。

「ちぇー、蓉子、邪魔しないでよ」

不機嫌を装いながら服をたくし上げさせる。
包帯を外して傷を診ると、順調に回復していることが分かる。
この様子なら2、3日後には退院かな。
聖はカルテに書き込みながら、包帯の巻き直しを他の看護婦に頼んだ。

「経過は順調!もうすぐ退院かな。
君の綺麗なお姉さんとももう会えなくなるのが残念だよ」

「あの方は姉じゃありませんから!!」

顔を真っ赤にして叫ぶ祐巳に軽く手を振りながら、次の部屋に向かった。

次の部屋は。
確認しなくても分かる。
志摩子の部屋だ。
病院に運び込まれたとき、ズレた鎖骨を元の位置に戻す手術をした。
それから何日か経っているので、今日はその抜糸の日。
祐巳のときと同様、ノックをして病室に入る。
目が合うと無意識に顔の筋肉が緩みそうになるが、今は勤務中の身。
眼鏡のフレームを押し上げて、気を引き締めた。

「今日は抜糸の日だね。早速だけど傷を見せてもらってもいいかな?」

志摩子が寝たままの姿勢でこくりと頷く。
それを確認すると、蓉子が準備にかかった。

病院着は着物のように前で開きやすいようになっている。
流石に女の子の服をむやみに脱がせるわけにはいかないから。
肩にかかる布を少しだけ降ろし、鎖骨だけ見える状態にした。
準備が終わると、聖が志摩子に近づく。
糸を抜くため包帯を外したとき、聖の喉が鳴った。

はだけた衣服。
そこからのぞくのは雪のように白い肌。
それが柔らかいことは見ただけでも分かる。
綺麗な首筋。
首から鎖骨につながる滑らかなライン。
控えめに見上げてくる瞳。
全てから目が離せない。



――何を考えているんだ、私は。



今まで考えていたことを振り払うように軽く頭を振り、いつもの思考を取り戻す。

「少し痛いかもしれないけどちょっとの間我慢して」

志摩子の肩に手を伸ばし、なるべく痛くないように糸を抜いていった。

「うん、傷もバッチリ塞がったね。これなら歩く練習を始めても良さそうだ。蓉子、あと消毒頼むよ」

そして半ば逃げるように病室を出る。
その間も心臓だけがうるさく鳴り響いていて。

今まで患者の肌を直に見る機会などいくらでもあった。
普段、服で隠されている部分も、全部。
それは聖の仕事でもあったし、見ないと治療も何もできなかったから別に特別な気持ちなど抱かなかった。
現に今日の朝一の患者もそうだ。
福沢祐巳の肌を目にしたときはこんな感情は湧かなかった。


なのに―――。



さっきの感情は何だ。

志摩子に欲情した?
私が?
志摩子に触れたいと思った?



こんな感情知らない。


「何だこれ…」


今までどの患者にも持ったことのなかった感情に聖自身が一番驚いていた。




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