目覚めたとき、知らない空間に居た。
白い壁。
白いシーツ。
腕に巻かれた白い包帯とギプスを見て、ここが病室であることを察する。
「――――…ッ!?」
軽く体を動かそうとすると、全身を激痛が走り抜けた。
そうだ。
あの時私は車に跳ねられたのだ。
自分を跳ねた車は割と大きかった気がする。
最後に見たのは夜空を彩るたくさんの星と、向こうの通りを何事もないように歩く猫の姿。
あの猫は今頃どうしているだろう。
場違いな事を考えながらぼうっとしているとノックの音が響いた。
最初に入って来たのは短く切り揃えられた黒髪の看護婦。
次に入って来たのは外国人のような顔立ちをした眼鏡の医者。
その医者の笑顔は他人から見ればすごく安心する人受けの良い笑顔だったのだろう。
だが志摩子には何故かその笑顔がよそよそしいものに見えた。
「―…ですから、全身の痛みが取れるのはもう少し先の話になります。
痛みが取れてもしばらく体を動かさないわけですから歩く練習も必要かもしれませんね。
鎖骨と腕の骨折の様子を診ながら治療していきましょう」
看護婦の説明を聞きながら自分の置かれた状態を知る。
ふと医者を見ると、こちらを見てじっと黙っていた。
不思議と不快感は沸かなかったが、気恥ずかしさからそっと目を伏せる。
「佐藤先生?」
看護婦の言葉により、ようやく医者は我に返った。
「あ、ああ。…藤堂さん、どこか体に違和感とかはあるかな?」
特にはないと答えると、それからまた簡単な質問をされた。
「そう…また様子を見に来るから。できるだけ安静にね。何かあったら枕元にあるボタンを押して。すぐに誰か来るよ」
「はい」
「お昼は…食べられそうだったら食べて。無理にとは言わないけど」
そう言い残すと、医者は病室を後にした。
何だったのろう。
何でもない筈の会話が妙に不思議だった。
何となく、本当に何となくだが、自分を見てあの医者は何かを感じたように見えた。
私には生に対する執着心が無い。
生きているのなら生き、死ぬのなら死ぬ。
そういった考えを見透かされた気がした。
帰り際、黒髪の看護婦が振り返った。
「ご家族の方には一応連絡をとっておきましょうか?」
「いえ、実家は何かと忙しいので」
私はそれに首を振って答えた。
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