[携帯モード] [URL送信]

 危険なネット 

「危険なネット」はあるSNSサイトで閲覧数16751人を数えた作品です。
たぶん、ネットという題材が受けたのでしょう。
若者ゲームサイトを描写しているので、作中に顔文字なども使いました。


SNS趣味人情報

▼創作者情報
・会員番号: 203xxx
・創作者氏名: 泡沫恋歌

▼作品情報
・作品ID: 34437
・ジャンル: ミステリー・推理小説
・執筆状況: 完結
・ページ数: 70
・総閲覧数: 16751
・しおり数: 573
・応援メッセージ数: 80

▼あらすじ
ネットには危険がいっぱい!
顔も知らない男女がウェブサイトで知り合った。
意気投合したふたりはリアルで逢うことに・・・
男は女から信じられない《 告白 》を聞かされる。

そこには、ネットに潜む恐怖が・・・


   ※ この話は泡沫恋歌が登録していた、ある若者向けSNSのことを
    参考にして創作しました。
    そこで経験したことに基づいて考えたフィクションです。
    
    挿入しているアバターのイラストは、楽天でハンゲームアバターで
    検索そたものをお借りしました。


(表紙の絵の著作権は鶴田二郎氏に帰属します)


   初稿 趣味人倶楽部・創作広場 2009年頃 文字数 25,829字

   カクヨム投稿 2017年5月8日 文字数 26,713字









   第一章 ゲームサイトの女

「けっして誰にも言わないでください」
そういって、彼女は唇の前に人差し指を立ててシィーと合図をした。
そして悪戯っぽくウィンクする。
小悪魔みたいで、なんてコケティッシュなんだぁー。
先ほどの彼女との情事を思い出して……またしても反応しそうになった。
この先……どんな話を聞かせるのか? 
ドキドキしながら彼女の告白を待っていた。

彼女と僕が知り合ったのは、ネットにあるゲームサイトだった。
このサイトにアカウントを持っていた僕は、会社から帰るといつもパソコンを立ち上げ、サイトのマイページを開いて、ネットの友人たちに挨拶をして回る。
僕のハンドルネームは『Syochan85』ネットの仲間からは『しょうちゃん』と呼ばれている。
今年で32歳になるが、いまだに独身ひとり暮らしだ。

――実は1年前に、3年間付き合っていた彼女を不慮の事故で亡くした。
近々結婚する予定だっただけに、そのショックは大きく……。
到底、立ち直れそうもない僕はリアル(現実)の女性よりもネットの世界の女性の方が心を開きやすくなっていた。
僕の悲しみをブログの日記に書くと、彼女たちが優しい言葉で慰めてくれる。
それで僕はなんだか癒されて満足していたのかもしれない。
サイト内のゲームやコミュニティにも参加して、ネットの友だちも増えて、それなりに楽しいネットライフだった。

僕が登録しているサイトには、アバターといわれる自分の分身のような画像がプロフィールに表示されている、ネットユーザーはアバターに顔(表情)や服、背景などをつけて、自分好みのキャラクターを作っていく。
アバターが着けてる服や背景は、ガチャと呼ばれる有料のアイテムからランダムに出てくる。
ウェブマネーで買うのだが、どうしても欲しいアイテムがあって、コンプリートしようとすれば、ガチャを何度々も回してしまい、軽く万札が飛んでいく……それがアバターコレクションだ。
1度アバターにハマると中毒のようになって止められない。
実際、いい大人がそんなパソコンの中のアイテムに年間何十万円も使っている。
信じられないような話だが、これは事実なのである。今まで、そういうアバター廃人を何人も見てきたのだから――。

ゲームも好きだけど、アバターのコレクションにも興味を持ちだした僕はサイト内にある、アバター交換所でお目当てのアバターアイテムを探していた。
アバター交換所というのはユーザー同士でお互いに持っているアバターとアバターを交換し合うわけだが、同等対価のアバターでないと取引成立は難しい。
僕が交換希望しているのは、とても人気の高いアバター背景でネットオークションでも1〜2万円で取引されている。
……だが、今持っているアバターではとても交換条件に見合わない、諦めて引っ込めようかと思っていたら、交換希望の表示がでた!
「うっそー?」
正直ビックリした! この交換だと相手が大損なことは分かっている。
相手の気が変わらない内にと……僕は慌てて交換OKのボタンをクリックした。
「やったぁー!」
これで僕のアイテムバックに相手と交換したアバターが入った!
欲しかったアバターアイテムがGETできて、僕は有頂天になった。

だけど、こんな損な交換をさせたことに対して相手に申し訳ない気持ちもあった。
相手のハンドルネームは『蟷螂』? かまきり? また凄いHNだなぁー。
さっそく、『蟷螂』を検索して相手のマイページまでいってみた。

意外なことに、相手は女性だった!
しかも、かなりのアバ廃人らしく、ゴスロリ調のアバターを着て、かなりレアなペットと背景とエフェクトでマイページを飾っていた。
「うひょー、凄いレアアバばっかりだ!」
たぶん総額で10万円くらいはしそうな高額アバターを表示していた。
取りあえず、彼女の伝言板に、
「交換ありがとうございます。交換して頂いたアバターは大事に使わせて頂きます」
と書き込んで置いた。

翌日、マイページを立ち上げると『蟷螂』からメールが届いていた。


こんにちは。
交換したアバター気に入って貰えて良かったです。
いろいろレアなアバター持っています。また交換しましょうね。
どうぞよろしく。
                   蟷螂


「へぇー、イイ人だなぁー♪」
だけど、ここはネット……相手の顔が見えないし、美味しい話には裏がありそうと、僕は少しだけ用心していた。

実際、ネットでは相手の顔が見えないから、女性だと思っていたら男性だったりもする。
いわゆる『ネカマ』というネットのオカマことだが、アバター表示で男女を区別するサイトほど実はネカマが多いのだ。
アバターコレクションやってる内に、男性が女性のファッションに目覚めて、ついに『ネカマ』になってしまった男性を知っているが……とっても可愛いフェイスのアバターで、着けてる服もキャピキャピでセクシー、ハンドルネームも「モモコ」とか女性名にすれば、どこから見てもキュートな女の子である。
まさか、アバターの本体が40歳の会社員、2児の父親なんて誰も想像できないだろう。
そういうトリッキーさ、こそがネットなのだ!





   第二章 チャットルームの女

それから『蟷螂』と名乗る女性は朝晩、僕の伝言板に挨拶をしていくようになった。
時々、伝言板で話をするようになって、僕らは少しずつ仲良くなっていった。
その頃から、どんな女性だろうかと僕の中で想像が広がってゆく――高価なアバターを着けているし、たぶん社会人だろう。ネットにかなりお金をかけてるみたいだし、案外若くないかも、もしかしたら主婦だったりして。
ネットの相手に対して、リアルのことは訊けない……ネット社会のマナーとして、相手が言わない限り、こちらから年齢や職業、住んでる地域などについて、訊ねてはいけないのである。

――そういうことはネット社会の常識として、暗黙の了解なのだ。

そんなある日。
『蟷螂』からメールがきて、サイト内のチャットルームに誘われた。
ふたり部屋を作ったので入室用パスワードを教えるから、来てねと書いてあった。
チャットのふたり部屋というのは、『鍵』をかけられるので、他の人が入って来れない、入室用のパスワードをあらかじめ決めて置いて、それを打ち込んでから入室するのである。
そこはサイトのカップルたちがよく使っている場所だった。

チャットルームでふたりっきりで会話ができるとあって、僕はわくわくした。
異性に興味を持ったのは1年振り以上だ、僕も心の中では分かっているんだ。
死んだ彼女のことは、もう忘れなくてはいけないってことは……。
チャットルームにいって、彼女が教えてくれた部屋の入室用パスワードを打ち込んだ。『蟷螂』は先にきて待っていた。

若者の多いこのサイトでは、ほとんどの会話は顔文字で行われている。
顔文字は若者たちの新しいコミュニケーション方法で、言葉プラス感情表現を記号文字で作って絵にできるのだ。
これらの顔文字は専用サイトからインストールして辞書登録して、一発変換できるようにしてある。
特にチャットでは早く打ち込める、この顔文字がとても便利なのだ。
取りあえず、僕らはこのサイトのやり方で挨拶をした。

僕: (*´・ω・)ノ ・゚:*:゚★⊃`ノ八”`ノ八☆・゚:*:゚
彼女: ⊃`ノ八゛`ノ八_〆(●ゝ∀・●)ゞ^☆
僕: Syochan85です( ´艸`)ド-ゾ (っ´▽`)っ))ヨロチク
彼女: (○´-ω-)っ[蟷螂]ト申シマス。(。-ω・)ゞヨロシクネ♪
僕: 今日はチャット誘ってくれてヾ(@^∇^@)ノアリガトー♪
彼女: 楽しくお話しましょう( 〃´艸`)ネッ

こんな風にいい大人が顔文字で会話している。
これもネット社会の新しいコミュニケーションのひとつの方法だし、慣れてくるととても楽しい。
だいたい、こういう顔文字を500〜1000文字くらい登録しているのが、このサイトでは普通なのだ。

チャットルームで僕らはリアルの話もいろいろした。
彼女、『蟷螂』は30歳で去年離婚したが子どもはいないと言っていた。親の遺産で悠々自適な生活をしているが、やっぱし夜になると人恋しいので人が集まるネットで遊んでいるそうだ。
寂しい者同士でふたりは意気投合した、彼女の住所は僕の住む隣の県でそんなに遠くなかった。
いつかリアル(現実)で会えるかもしれない……僕の中で、ほのかな期待が広がった。

チャットの日から僕らは急に親密になった。
サイト内のゲームルームでパチンコや麻雀などをして、ふたりで遊んだり。
ある日、無料で遊べるゲーム『ババ抜き』の部屋に入ったときだが……小学生か中学生の子どもに「アバターをくれ!」やら「マネーをください!」とか、しつこく付き纏われて難儀した。
無料で遊べるゲームルームには、子どもが多いのでマナーがなってない奴らも多い。

このサイトではウェブマネー(ネットで使うお金)で有料のゲームをしたり、ガチャでアバターを買ったりして、マイページをデコレーションすることができる。
お金を持っている大人たちは高価なアバターをつけて、有料のゲームで遊んだりしてセレブなネット生活を謳歌できるが……ネットでお金が使えない小・中学生にはそれができない。
だから、高そうなアバターを着けてる人を見つけると、誰かれなしにアバターやお金をくれと要求してくる、それが物乞い(ものごい)といわれる、荒らしである。

困った存在だが仕方がない。
お金を使わないと楽しめないサイトのシステムが悪いのだ。ネットで遊んでいる自分の子どもが、まさか物乞いをしているとは親も知るまい……。
――こういう恥知らずな行為ができるのもネットだから?
いくら子どもとはいえ、物乞いや伝言板に悪口を書いていく迷惑行為などしてよい筈がない。
顔が見えないネットの世界、子どもたちは誰に対しても自分と同等だと思い、厚顔無恥な自己主張を繰り返す、こんな子どもが大人になったらどうなるのか?
しかし注意したくとも、後で大勢の仲間たちを連れて仕返しに伝言板を荒らされるのが怖くて……大人たちは相手にしないで、ただただ逃げるだけである。

毎日、会社から帰るとパソコンを立ち上げて『蟷螂』(かまきり)こと、キリちゃんと会うのが楽しみになっていた。
残業のない日は晩飯を食べて、風呂に入って、後は寝るだけの準備万端でネットに入るのだが、9時半くらいにINすることが多い、キリちゃんはだいたい先にネットにきている。
僕がマイページを開くと伝言板には、いつも彼女の挨拶が書き込まれている。
それを確認してから、キリちゃんの伝言板に挨拶にいって、今日はなにして遊ぶか、メールで打ち合わせてからゲームをすることになっている。

今日はキリちゃんがチャットルームにいこうというので、入室用パスワードを決めてから、僕らは同時にふたり部屋に入った。
ここなら誰にも邪魔されずに、ふたりだけの時間が過ごせるから、僕らはふざけてこんな顔文字を書き込んだ。

僕:「キリちゃん( *´ω`)φ….大好き♪」
彼女:「:。*スリ(( ´-ω-)-ω-` )」スリ*。:゚」
僕:「エイッ!!(ノ。>ω<)ノ ⌒【愛】」
彼女:「【愛】ヽ(>ω<ヽ)キャッチ!! 」
僕・彼女:「*+・。.ずぅぅっと(●>∀<)人(>∀<○)一緒ww.。・+* 」

とても、リアルではできないような恥ずかしいことを堂々とやれる。
これがネットの凄いところで、いい大人が顔文字で愛を語っているのだから面白い。

今日のチャットでキリちゃんが『ラブ友』にならないかという。
『ラブ友』とは、仲良しさんと一緒にアバターを表示されるシステムである。たいていネットの彼氏と彼女がお揃いのアバターをつけてプロフィールに表示されていることが多い。このサイトではネットの彼氏は「OOさんです」とプロフィールに書き込んでいれば、もう誰もちょっかいを出さない。
アバターもカップル用の『赤い糸』や『ラブレター』『結婚指輪』などあって、お揃いでつけて、ふたりの愛を周りに見せつけている。
痛いシステムだが、こういうのは結構人気がある。
しかも、ふたりでラブラブのアバターを『プリショット』というネット写真みたいなのも撮れて、それをアルバムに保存ができるのである。

「だけど……僕はキリちゃんみたいなレアアバを持ってないよ」
「大丈夫、わたしが何とかしますから!」
「ラブ友はやっぱし背景やペットもお揃いでないとかっこ悪いもんなぁー」
「わたしアバ倉庫にいろいろ持ってるから、ご心配なく」
「ホント? じゃあキリちゃんに任せるよ」
素直にキリちゃんの申し出に甘えることにした。





   第三章 アバター廃人の女

ネットの世界でこんな可愛い彼女がいて僕は嬉しかった。
キリちゃんのアバターなら仲間にも自慢ができるし、サイトにはサイトのそこだけで通用する価値観があって、キリちゃんのアバターは最高にチャーミングなのだ。

翌日、サイトに入るとキリちゃんから僕のアイテムバックにアバターが数点送られていた。ふたりで『ラブ友』表示用のアバターだが……どれも凄いレアなアバターだった!
ネットオークションのレートでも、総額で5万円は下らない代物である。
よくまあ、こんなアバターが集められたものだと、ただただ驚いた! 
そして、どうして僕にここまでしてくれるんだろうかと不思議に思った。ただのネットの彼氏みたいなものなのに……僕に気があるのかな? まさか会ったこともないのに?
そして、僕の中でキリちゃんへの妄想がどんどん広がっていく――。
こんなにチャーミングなアバターなんだから、本体(アバターの所有者)もきっと可愛いに違いない!
勝手な思い込みを抱いている僕だった。

キリちゃんと『ラブ友』になって、ふたりでプロフィールに表示することになった。
僕のマイページに見にきたネットの友人たちはまず、アバターがつけてる服や背景、ペットがレアなのに目を見張った。
ネット友だちには、アバターコレクションが趣味のアバター廃人が多い。
アバターアイテムを買うのに、月に2〜3万円使ってる奴らもザラにいる。そんな彼らから見たら、それが高価なアバターだと瞬時に分かる。
その次に、僕の相方キリちゃんのチャーミングなアバターを羨望の目で見ている。
『アバ廃人』は『アバ廃人』同士、相手のアバターも良くないと友だちになりたがらない。アバター廃人には、自分たちの美意識とプライドがあるからだ。そして仲間内でのアバターの交換や情報収集も大事なのである。

僕の伝言板には、
「しょうちゃん、ネットの彼女すごく可愛いなぁ〜(* ̄。 ̄*)ウットリ」
「彼女にアバ揃えて貰ったのか?播(*゚∀゚*)チゴィネ!!」
「このサイトbPのベストカップルだね(*`ノω´)コッソリ」

こんな顔文字でみんなが冷やかしていく、最初は恥ずかしかったが……今では誇らしい気持ちもある。このままリアル(現実世界)に戻らずに、ここに居たい気さえする。
しっかし……これだけのレアアバをふたり分もぽんと揃えられるキリちゃんは、どんだけ『アバ廃人』なのかと驚くばかりだ。

翌日、サイトにINすると……。
僕のフレンド登録から、友だちがひとり消えていた。
『ルミナちゃん』と呼ばれる、ゲーム・コミュニティの女友だちである。
フィッシングゲームで知り合ったルミナちゃんとは、釣り場で2、3度チャットをしたことがある。サイト内のフィッシングランキングでは常に上位ランクの彼女が、今までのステータスを捨ててまで、アカウントを消したことが信じられない。
もしネット内で何かトラブルがあったとして、しばらく休眠することがあっても、アカウントまでは消さないものだ。
たしか、ルミナちゃんはアバターもいいものをいっぱい持っていた筈なのに……消したら、全部なくなってしまうじゃないか。
ひと言の挨拶もなく、急に消えてしまうなんて信じられない。
いつも僕が落ち込んでいると、優しい言葉をかけてくれるルミナちゃんがなぜ? 急に?
ネットの世界ではアカウントを消えてしまうと連絡が取れなくなってしまう。ルミナちゃんと仲良しのフレンドたちに訊いてみたが、誰もルミナちゃんの連絡先を知らなかった。
どうしてルミナちゃんは消えたんだ……? なにかリアルの事情でもあったのだろうか。
やり場のない寂しさで僕は凹んでしまった。

ひとりだけ、ルミナちゃんと特に仲の良かったフレンドがメールをくれた。

『ルミナは
しょうちゃんのことが好きだったのよ。
気付かなかったの? 』

――と、書いてあった。

……そんなことを言われても僕は気付かなかったし、顔の見えないネットの世界では言葉にしなければ感情は伝わらない。
たしか、ルミナちゃんは御主人と小学生の子どもが二人いたはず、僕にとって彼女はネットの姉貴みたいな存在だった。
たぶん、キリちゃんと僕が『ラブとも』になったりして、親しげにしているのが、よほどショックだったかもしれない。
今さらそんなこと言われても……どうすることもできないじゃないか。
ネットの世界は一度連絡が途絶えたら、もう捜すことさえできない。

ルミナちゃんはアカウントを消すことで、すべてを忘れてリセットしたんだ。
もしかしたら、新しいアカウントを作って、新しいネット生活をもう一度やり直しているのかもしれないし……ネットは何度でも消して、またやり直しが利く世界なのだから……。
僕はルミナちゃんが元気になって、このサイトに戻ってきてくれることを、ただ願うしかなかった。

――薄情かもしれないがネットは、去る者は追わずの世界なのだ。

時が経つに連れ、僕はルミナちゃんのことを忘れて……。
キリちゃんと楽しいネット生活をおくっていた。僕らはレアアバでアバターを着飾り、『ラブとも』ごっこをして楽しんでいたんだ。
僕はネットの女の子たちに勘違いやちょっかいを出されないように、あえてプロフィールにネットの彼女は『キリちゃん』と書き込んで置いた。
ここでは他の女の子を付き合う気はないし、キリちゃんも同様にネットの彼氏は『しょうちゃん』と周知して、ふたりでラブラブ宣言をした。

ただひとつだけ……キリちゃんについて気になることがあった。
彼女はあれだけのアバター持ちだし、ステータスも高いのに……ほとんどフレンドがいない。てか……僕、以外の誰とも付き合っていなさそうだ。
伝言板にはいつも僕しか書き込んでいないし、友たちが少ないことに少し疑問を抱いていた。

もしかしたら……、『蟷螂』はサブのハンドルネームなのかな?
メインのハンドルネームは別のところに持っているのかもしれない。だったとしたら……
サブIDの『キリちゃん』と付き合うのなんて、騙されてるみたいでイヤだった。
どうしても、キリちゃんがサブのハンドネームなのではないかという疑念がぬぐい去れない。
直接、彼女に訊こうかと思ったが……。
嫌われるのが怖くてそれもできない、サブだって、メインだって……。
僕の『キリちゃん』に変わりないんだから、そう思うことで納得しようとしていた。
……が、しかし、好きになればなるほど彼女のことをもっとよく知りたいという気持ちを抑えられない。――そんなジレンマに苦しんでいた。





   第四章 ネット人格の女

ある日、僕のメールボックスに知らないハンドルネームの人からメールが届いていた。
開いてみてビックリした!


★警告★
『蟷螂』は危険だ!

        − 優しい悪魔 −


そう書いてあった。
驚いた僕は、その人物のマイページにいこうとして名前の上をクリックしたら……。

【現在、『優しい悪魔』さんのアカウントは削除されて存在していません。】

……と、サイトの運営事務局のテロップがでた。
なんだって!? 
こいつは僕にこのメールを送るためだけに、アカウントを作って、そして消して逃げたのか?
なんでわざわざそんな面倒なことを……。
こいつは流しの『荒らし』の仕業ではないと思った。

そして、その翌日にも知らないメールが届いていた。


《 警告 》
『蟷螂』はいっぱいサブHNをもっている。
あの女は荒らしだ、気をつけろ!

             − ネット荒らし −


こんなことが書いてあった。
そのマイページにいくとやっぱしアカウントが消えていた。
いったい、こいつは誰なんだ?
なんでこんなことを僕に書いてくるんだ? なんのつもりなんだ!?
不気味なメールに僕はイラついた。

また、翌日も同じように……。


警告
『蟷螂』はおまえを狙っているぞ!
あいつは悪魔だ、地獄に堕ちろ!

             − 地獄のピエロ −


くっそー、もう頭にきた!

いったい、なんの目的でこんな不愉快なメールを送ってくるんだ? 
こいつの正体は誰なんだ? 僕の中でいろんな人間の可能性を考えてみる、ネットの世界では誰だって『荒らし』なれるのだから……。
僕に悪意を持っている奴か、はたまたキリちゃんに嫉妬してる奴か?
もしかしたら、消えたルミナちゃんかもしれない? ひょっとしたら、キリちゃん自身の自作自演だって有り得るじゃないか。ああ、頭が混乱してきた。

ここはネット、ひとりの人間がいろんな人格になれる魔法の世界なんだから――。

今夜は、どうしても聞きたいことあったので、キリちゃんをチャット部屋へ誘った。
いつものように、ふたり部屋に入った僕らはラブラブな挨拶をする。

僕:「キリちゃん☆・゚:*(〃ノω`)ε`*)チュッ*:゚・☆大好き」
彼女:「お返しの(*´∀`*(`〃 ) ちゅっ♪」
僕:「アナタヮ*ゝω・)σ…ヽ(*ゝω・*)/最高☆」
彼女:「アナタガヾ( ´∀`)八(´∀` ) チュキチュキ♪」
僕・彼女「。:゚+.赤ィ糸デ(((++(。U`ω´u。)d~~~b(。uдu。)++)))ツナガッテル.+゚:。 」

いつもの調子で一発変換の顔文字でチャットをしていたが……先日の荒らしのことをキリちゃんに話した。何か心当たりはないかという僕の質問に対して、彼女は「しらないわ」とたった5文字で切り返した。
チャットでは顔も声も分からない、だから相手がどんな反応なのか窺い知ることができないのだ。

その次にどうしてフレンドを作らないの?
と彼女に質問してみたら……
「前に変な人にネットストーカーされてからフレンドは作らないの」
そう言えば『ラブとも』でネットのカップルなのに、僕らはフレンド登録さえしていない。キリちゃんが隠し事をしているようで釈然としない。

「チャット部屋は止めて、スカイプかメッセンジャーでボイスチャットをしようよ」
僕は以前から考えていたことをキリちゃんに話した。
スカイブやメッセンジャーのボイスチャットとは、パソコンにイヤ―マイクを繋いで、音声で話しをすることである。学生たちがネットゲームでRPG(ロールプレインゲーム)をする時に、仲間たちとおしゃべりしながら敵と戦える便利な機能である。
サイトからインストールするだけで、何時間おしゃべりをしても無料なのだ。

「ボイスチャットがしたいの?」
「うん、やろうよ」
「考えさせて……」
そう答えるとキリちゃんは黙ってしまった。
もし本体が男だったらボイスチャットはできないだろう、僕はキリちゃんを試しているんだ。
もしかして、もう落ちたのかと思うほど長く待たされて……やっと、キリちゃんがチャットを返してきた。

「分かったわ、ボイスチャットじゃなくてリアルで会いましょう」
「ええぇ―――!?」
ビックリした!
まさか、リアル(現実)で会うなんて、キリちゃんが言いだすとは想像していなかった。

「まさか? ホントにー?」
「もちろん、本気よ」
「僕は嬉しいけど、ホントにいいのか?」
「しょうちゃんはあたしのことを疑っているんでしょう?」
「そんなことはないよ」
「嘘! だったら、リアルのあたしを見せてあげるわ!」

キリちゃんは、そう言うと会う日にちを一方的に告げてチャットから落ちてしまった。
……もう落ちたのかと思うくらい、長く待たされた後のキリちゃんの豹変ぶり、人が変わったような態度に僕は驚いた。
本当にキリちゃんはリアルで会ってくれるんだろうか?
僕は半信半疑まま、彼女の指定した場所にいこうと考えていた。


次へ






第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[管理]

無料HPエムペ!