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「世間知らずのお嬢様の麗華に世の中を見せてやろう!」

 大伯父さまのバイクに乗って街に飛び出しましたのよ。
 わたくしバイクに乗ったのは初めてですの、びゅんびゅん風を切って走るスピード感がスリリングですこと! このスリルは癖になりそう。おほほっ
 そして、バイクはダウンタウンの一角にある酒場の前で停まりました。
 なんだかとっても怪しげなお店なの。アーリーアメリカン調の古い木の建物で、ウッドデッキでお酒を飲んでいるお客たちはみんな黒いレザーのライダースーツ着ていますわ。まるでカラスの集団みたい――どうやら、ここはバイクの趣味の方々がお集まりになるお店みたい。

「麗華、ちょっと待っててくれい、バイク仲間に挨拶してくるから……」

 そういい残して、大伯父さまはお店の中に入っていきました。
 外に停めた大伯父様のバイクの前で待っていますと……黒いワゴン車がすぐ側に停まって、ちょっとヤンチャそうな若者が三人降りてきましたわ。
 急に足を止めて、大伯父さまのバイクを指差して、

「おおー! 見ろよ、すごいバイクだぜぇー」
「ハーレーダビットソンだ!」
「すんげぇー、一台で何百万もするバイクだろう?」
若者たちがバイクの周りに集まって、大伯父さまのバイクを勝手にベタベタと触りまくっていましたの。
 チラッとわたくしの方を見て、
「このバイク、ねぇーちゃんかい?」
「御免あそばせー、今、なんとおっしゃったのかしら?」
「ねぇーちゃんのバイクかって訊いてんだ」
「ねぇーちゃんって? なんのことでしょうか? わたくし聴いたことのない単語ですわ」
「だから、あんたのバイクかよっ!」
「いいえ、わたくしの大伯父さまのものでございますのよ」
「はぁ〜? この女、ヘンなしゃべり方だぜぇー」
「身なりもいいし、どっかの金持ちのお嬢さまかもしれねぇーぞ」
 そういうと、彼らはわたくしを無遠慮にジロジロ見ましたの。イヤね!
「世間知らずのお嬢さまってタイプだなぁー」
「親はがっぽり金持ってそうだぜぇ〜」
「俺、不景気で先週仕事クビになったんだ」
 わたくしの方を見る彼らの目の色が怪しいんですの!
「な、なんですの! ジロジロ見るなんて失礼ですわよ」
 わたくしが怒ってソッポを向くと、
「金持ち面しやがってムカつく!」
「この女、誘拐しちゃおうぜぇー!」
「おう!」
「ええぇ―――!?」
 
 その言葉に驚いて逃げようとしたけど……もう手遅れ! わたくし口を押さえられて、彼らが乗ってきたワゴン車に連れ込まれそうになった! 
 ひえぇ―――! 麗華最大の危機ですわ!
 必死の抵抗も虚しく、三人の男に押さえられて、わたくしを乗せた黒いワゴンは発進しましたの! 
『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』こと、麗華の運命やいかに……。あれぇぇ〜!?

「可愛い顔したねぇーちゃんじゃん」
 ひとりの男はわたくしの顔をグッと押さえ付けながら言うのでございます。
「失礼ね! わたくしは誰だと思ってるの?」
「へへー、そんなのしるか、金持ちだったら誰でもいいよ」
「ザ・グレート・オブ・お嬢さま、蟻巣川麗華ですわ」
「あんたが誰だろうが、今は俺たちに誘拐された人質なんだぜぇ」
「……蟻巣川……なんか聞いたことあるぞ。たしか世界の長者番付にその変な名前があった。ネットで見たことある」
 ひとりの男がふいに思い出したように仲間に告げた。
「世界の長者番付だって? じゃあ身代金は十億は要求できるぜぇ!」
「いやいや、百億だっていける。もしかしたら一兆かも!」
 わっはっはっはっと、男たちは嬉しそうに大声で笑っている。
 人の命をお金に換算するなんて失礼ですわ! なんという屈辱でしょう……わたくし涙が零れてきました。
 ――と、その時ですわ! ワゴン車にガツンと衝撃が!?

「うわー! なんだこりゃ〜!?」
運転していた男が大声で叫びました。
バイクに乗った男が金属バットでワゴン車の車体をガンガン叩いているのです。他の仲間も車の外を見て驚愕ですわ!
「なんだ? ハーレーダビットソンが追いかけてくる!」
「一台だけじゃないぞぉー、後ろからわらわらと……」
「ハーレーダビットソンが五十台以上くるぞぉ―――!」
「ひえぇぇぇ―――!」





 ハーレーダビットソンに乗った、イ−ジーライダーの一団に取り囲まれて、黒いワゴン車は路肩に停車させられた。
 麗華は無事に助けられて、三人の男たちは黒いライダースーツを着た強面の男たちに首根っこを掴めれていましたわ。
「ど、ど、どうか許してください!」
 三人の男は土下座して謝っている。
「麗華、大丈夫か?」
「大伯父さまー!」
 思わず、わたくしは大伯父さまに抱きついて泣いてしまいました――。
 とっても、とっても怖かったんですもの。

「スマン! わしが中でバイク仲間と長く話していたから……店から出てきたら、麗華がいなくて……冷汗がでたぞぉー」
 優しく麗華の頭を撫で撫でしながら、大伯父さまがおっしゃった。
「大伯父さまが助けにきてくれて良かったわ」
 無理やりワゴン車に乗せられる麗華を見ていたバイク仲間の通報で、すぐに後を追いかけたみたい。
 さっき、金属バットで車体をガンガン叩いていたのは、大伯父様だったようです。あらま! ワゴン車が凸凹ですわ。おほほっ

「リーダー! こいつらどうします? ブルーシートに包んで東京湾にでも沈めますかい?」
 筋肉隆々のプロレスラーみたいな大男が大伯父さまに訊ねてきた。
「まあ、殺さんでもよかろう」
「じゃあ、腕と脚でも折っときましょうか?」
 ポキポキと指の関節を鳴らしながら、プロレスラーみたいな男がいうと、三人の男たちは縮みあがって、ブルブルと震えていた。
「おい! おまえら、なんでこんな悪さをしたんだ」
 大伯父さまが威厳のある声で三人に話かけた。
「もう……こんなことしません! どうか命だけはお助けください」
 みんな泣きそうな声でした。
「誘拐なんぞ、もっとも卑劣な犯罪だ!」
「スミマセン! 俺たち仕事もなくて……お金に困っていたんです」
 地べたにおでこを擦り付け土下座しながら赦し乞う。――なんだか、ちょっと可哀相になってきちゃう。
「おまえら、働きたいのに仕事が見つからないんだな?」
「はい、不景気で仕事クビになったんです」
「――分かった! わしのところにきなさい」
「はあ?」
 三人はポカンとした顔で大伯父さまを見た。
「わしは世界中の“恵まれない子どもたち”に、クリスマスプレゼントするおもちゃを作っておるんじゃあ、わしの住んでいる敷地内におもちゃ工場があるから、おまえらもきて、そこで働けっ!」
「はい! お願いしまーす」
「よしよし……」
 黒いサングラスの口元が笑った。
 世界中の“恵まれない子どもたち”に、配るプレゼントを作っていたなんて、まるでサンタクロースみたい。大伯父さまってなんて素敵なんでしょう!
 その上、大伯父さまはハーレーダビットソンのライダー仲間で結成している『ハーレー彗星』のリーダーで、全国のハーレー愛好者の憧れの人なんですって!
 名家、蟻巣川家のアウトローだけど、タフで心優しい大伯父さまは麗華の誇りですわ。トレビアン!


「さあ、麗華帰るぞ!」
 ハーレーダビットソンの後ろに飛び乗った。
「大伯父さま、アウトローって素敵ですわ!」
「そうか、じゃあワイルドグッズをいっぱい買って帰るぞ。わははっ」

 そして、わたくしたちはスカルや血や悪魔の絵の描いた怪しげなお店でお買物をしましたの。ええ、とっても楽しいお店ですのよ。うふふ♪

 蟻巣川家の屋敷に帰ったら、上空をヘリコプターが数十台旋回していました。どうやら、わたくしたちを心配した、執事の黒鐘がヘリコプターを飛ばして行く方を捜査していたようですわ。
 ホントにもう! 心配性な爺やねぇー。  
 今日は怖い目にもあったけど、大伯父さまとお出かけができて、とっても楽しかったことよ。
 バイクは蟻巣川家のゲートを目指して、真っ直ぐに走っていく。
 あら? 門の前に黒い人影が……どうやら、黒鐘と鶴代さんのようですわ。早く顔を見せて安心させてあげましょう。うふっ♪

「黒鐘、ただいま!」
 泣きそうな顔で黒鐘が飛んできた。
「お嬢様、心配しました。よくご無事で……」
 ――と言いかけて、黒鐘の視線が止まった。
「どう? わたくしのこのファッション?」
「はあ? どうなされたのですか? そのまっ黒けのカラスみたい服は……」
「イケテルでしょう?」
「……そんな、骸骨や鎖の付いた黒い服は感心しませんなぁー」
 黒鐘が眉をひそめ渋面でいう。
「あら、そうかしら」
「ゴージャスな、お嬢さまらしいファッションがございましょう」
「そう、じゃあ、これはどうかしら?」

 くるりと後ろを向くと、スカル柄のジャンバーを脱いで、黒いタンクトップを見せた。わたくしの背中には、大きな蜘蛛のタトゥーがあった!

「ひえぇぇ―――!」

 それを見た瞬間、黒鐘が奇声を発して倒れた。

 あらら! 黒鐘って蜘蛛が苦手だったのかしら? 
 驚いて卒倒しちゃったみたい……お嬢さまだって、たまにはこんな冒険もしなくっちゃねー。
 もちろんタトゥーシールでございますわ。うふっ、御免あそばせぇー♪



― 第二話〔お嬢さまの社会見学〕 おわり ―

            
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