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 ザ・グレート・オブ・お嬢さま 

「ザ・グレート・オブ・お嬢さま」と呼ばれる麗華は
とんでもない大富豪のひとり娘なのです。

庶民とのギャップ、天衣無縫の天然ぶり!
そして、トンチンカンな価値観が笑えるお嬢さまコメディ♪

みんなで笑ってください。゚(゚ノ∀`゚)゚。アヒャヒャ
 

(表紙の写真はファッションカタログからお借りしました)


   初稿 novelist 2011年頃 文字数 13,622字
   カクヨム投稿 2017/4/6 文字数 14,275字








   第一話 〔お嬢さまの取扱説明書 〕
 
「お嬢さま、おはようございます」

 朝の挨拶と共に、いつものように執事の黒鐘(くろがね)が、わたくしを起こしに来ました。

「あん、もう少し眠らせてちょうだい」
「なりません、お嬢さま。今日は午後から大事なお茶会がございます」
「後、三十分だけ眠らせて……」
「さあ、ブレックファーストの用意が整っております。冷めない内にどうぞ召し上がれ」

 爺やの石頭、全然融通が利かないんだから!
 わたくしは仕方なく、天蓋付きのベッドからしずしずと起き上がるとシャワーを浴びて、着替えを済ましてから、朝食の席に着きました。
 今朝はサンルームのテーブルにブレックファーストが設えてあります。

 ここは温室になっていて、一年中蘭や薔薇が咲いていますの、そこから眺める広いお庭は青々とした芝生と美しい季節の花々が咲き乱れておりますわ。
 だけど、こんな風景もの毎日見ていたら感動なんてありません――。
 いつの間にか、足元にマンチカンのシャナが摺り寄ってきて朝の挨拶をします。まあ、なんて可愛い子なんでしょう。わたくし猫が大好き。だって、いつも自由なんですもの。それに比べてわたくしの日常なんて、雁字搦めで何ひとつ自由が利かないんですわ。
 嗚呼、お嬢さまって本当は苦労が多いんですのよ!

 わたくし、蟻巣川麗華(ありすかわ れいか)は由緒正しき、元華族の家柄ですの。華族といってもお分かりにならない方もいらっしゃるので、執事の黒鐘から、少しだけご説明差し上げますわ。
「――では、執事の黒鐘がご説明いたします。そもそも華族(かぞく)と申しますのは1869年から1947年まで存在した日本近代の貴族階級のことでございます。公家に由来する華族を公家華族、江戸時代の藩主に由来する華族を大名華族、国家への勲功により華族に加えられたものを新華族、臣籍降下した元皇族を皇親華族、と区別いたします。これにより華族は公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五階の爵位に叙されました。ようするに……」
「黒鐘! もういいわ。そんな長い説明聴いていたら……わたくしまた眠くなりそう」
 我が蟻巣川家は皇族の親戚筋の華族ですので元侯爵家でございますわ。そう、だから皆さま、わたくしのことを『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』って呼ぶんですのよ。おほほっ

「失礼いたしました。ではメイドに料理を運ばせましょう」
 執事がチリンとベルを鳴らした。すると、三人のメイドがブレックファーストを運んで参ります。
 トリュフ入りのオムレツ、キャビアの乗ったサラダ、ブルガリアから空輸したヨーグルト、そして本場フランスのパン職人が焼いたクロワッサンなど――。
 バカラのグラスに注がれたフレッシュジュースをひと口飲んで、テーブルに並べられた料理をひと目見るなり、わたくしフンと鼻を鳴らしましたわ。

「要らないわ、全部下げてちょうだい」
「お嬢さま、朝食抜きはお身体に悪うございます。どうか、お召し上がりください」
「要りません」
「そんなことをおっしゃらずに……どうか……」
「食べたくない!」

 わたくしが強くそういうと、黒鐘は困った顔でパンパンと手を打って、メイドに別のものを持って来させました。
 そして、しずしずとマイセンのお皿に乗って運ばれてきたモノは、そう、わたしくの機嫌が悪い時に出される、アレですわ!

『焼きいも』

 甘く美味しそうな匂いがお皿から漂ってきて、わたくしのお腹は「グゥー」と反応します。口の中には涎が……ああ、もう我慢できませんわ!
 夢中で焼きいもの皮を剥くと大口をあけて、パクリとかぶりついた。

「トレビアン! 世の中に焼きいもほど美味しいモノはございませんわ」

 わたくし焼きいもを目の前にすると、名家の令嬢のプライドも気品もなくしてしまうの。そんな、わたくしの様子を執事の黒鐘が苦々しい顔で見ています。どんな一流のパティシエの作るスイーツよりも、焼きいもは最高ですわ! おほほっ


 三年前、わたくしと焼きいもとの運命の出会いがありました。
 その日はオペラを観て帰る途中でした。ロールスロイスの車内で運転手に喉が渇いたというと、その日はティーセットのポットを積み忘れていて、ただちに停車して「飲みものを買って参ります」と運転手がいうので、わたくし車内で待っておりました。
 十五分経っても運転手は戻らず、退屈した、わたくしはロールスロイスから降りて辺りをフラフラしておりましたのよ。
 その時です! 不思議な声が聴こえて来ました。

『石焼きいも〜♪ 石焼きいも〜♪ 美味しい美味しい石焼きいもはいかがですかぁ〜♪』

 それは何度も、エンドレスリピートで鳴り響いておりました。
 わたくし、にわかに興味を覚え、小さなトラックを止めて『石焼きいも』なるものを買うことにしました。
「御免あそばせ、石焼きいもってなんですの?」
「おやまぁー! えらい豪勢な格好のお嬢さんだねぇー」
 真冬だったので、わたくしブルーフォックスの毛皮のコートを羽織っておりましたかしら? おじさんが窯の中から取り出して見せてくれました。――こんなの初めて見た。 
「その石で焼かれている芋をください」
「へい! お幾つ?」
「トラックごと全部」
「えぇ―――!?」
 おじさんは目をまん丸にして驚いていました。
 わたくしがアメリカンエキスプレスのセンチュリオン・カード(通称ブラックカード)を見せて、これでお願いっていうと……。
「お客さん、うちはカード払いできません」
 あらっ、困ったわ。――わたくし現金なんて持ち歩いたことがないんですもの。
 おじさんとスッタモンダしているところへ、うちの運転手が帰ってきて現金を払って、焼きいもを買うことができました。
 そして、ロールスロイスの車内で食べた、焼きいものなんと美味しいこと! 目からウロコですわ。こんな美味しいモノを庶民が食べているなんて許せません!
 さっそく帰ってから、執事の黒鐘に石焼きいもの器具を購入させました。だけど、わたくしがあんまり焼きいもに夢中なので、こんな下品なモノを蟻巣川家の令嬢が食べていることが世間にバレたら……家名に傷がつくと密かに心配しているようですわ。うふふっ





 ――と言っても、わたくしの機嫌の悪い時は、宥めるのに効果抜群なので『家伝の宝刀』とばかりに、いざとなったら焼きいもを持ち出すくせに……。フン!
 さてさて、今朝も黒鐘の止めるのも聞かずに焼きいもを五つもたらふく食べてしまいました。お腹がパンパンになって、ゲップ! 
 あらっ、わたくしとしたことが……御免あそばせー。
 
 午後から、徳川家の末裔、松平家のお屋敷でお茶会がございますの。
 次期当主の松平健史郎(まつだいら けんしろう)さまはわたくしのいいなづけで、幼い頃から両家で結婚を決めていた相手なんですの。
 今日は留学先のロンドンからお帰りなられたので身内だけのパーティがあって、当然、いいなづけのわたくしも招待されていますわ。

 嗚呼、お嬢さまは自分で結婚相手を選べないんですの。
 籠の小鳥のわたくしは親が決めた男性と結婚するしかないのです。――それは名家の令嬢に生まれた宿命なのだから仕方ありませんわ。
 こっそり、爺やがいうのには……名家の令嬢は家のために結婚して、子どもを産んで相手の一族と血が繋がったら、後は隠れて自由に恋愛したっていいんですって――。
 そういえば、お母様はいつも美男子の秘書を連れて世界中を旅行しているし、お父様だって、他所にも家があって……そこの家族と暮らしています。
 蟻巣川家で家族が顔を合わせるなんて、一年に十回もありませんもの……。それぞれマイライフを楽しんでいるから、庶民と違って、これが普通なんですわ。ふぅ〜

 松平家のお茶会は身内の集まりといっても、広いホールには百人近い親族が集まっておりました。今日のパーティの主役は健史郎さまと婚約者のこの麗華ですの。
 わたくしたちは招待客の前で仲よくワルツを踊って見せました。華麗なステップで踊るふたりに似合いのカップルだと皆さまの溜息交じりの囁き声が聴こえてきます。
 薄いピンクのシルクのドレスを身に纏った、わたくしはまるで妖精のように美しいのでございます。
 どこに居たって『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』こと蟻巣川麗華は、憧れと羨望と的ですのよ。おほほっ

 先ほどから、わたしく下腹が張って苦しいんですの。
 今朝、焼きいもを食べ過ぎたせいですわ。どうしよう……どこがで……ガス抜きをしないと……ううぅ〜、苦しい。
 いくらお嬢さまだって、人の子ですもの生理現象には勝てませんわ。
 テラスに人が居ないのを確かめて、わたくし……そっと、パーティから抜け出して、テラスでお腹のガスを抜こうとイキんだ瞬間! あらまっ、だれか来ました。

「麗華さん、どこにいったのかと探しましたよ」
「健史郎さま」
 優しく微笑みながら婚約者が近づいてきました。
「今日の貴女は美しい。麗華を妻に出来るなんて僕は幸せ者だ」
 そういって、わたくしをギュと抱きしめたのです。
 ああっ! 止めてお腹がポンポンに張って苦しいの。押さえたらガスがでちゃう!
「麗華、愛してる!」
 わたくしの唇に熱いキスをしました。
 まあ、わたくしのファーストキス! 婚約者同士ですもの構わないわね。ああぁ……蕩けそうなキッスに、わたくしの身体の力が抜けた瞬間に!
 
 プウゥゥゥ―――と大きな音と共に、ガスの臭いが周辺に漂った。

 さすが『ザ・グレート・オブ・お嬢さま』おならの音もグレートだった! おほほっ、御免あそばせー



― 〔お嬢さまの取扱説明書 〕 おわり ―


 ※ ブラックカードとは、アメリカン・エクスプレスが発行する
 センチュリオン・カードです。
 これはプラチナの上に君臨する一枚で、通称ブラックカードと呼ばれています。
 なんと年会費が350,000円という驚異の金額、利用限度額無制限、
 専任コンシェルジュ付きで貴族のようなサービスが受けられます。
 まさにセレブのためのブラックカード!!


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