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 タイムマシン 


「奇想転外」なお話です。

えっ? 漢字間違ってる!?

いいえ、この「天」ではなくて……
こっちの漢字の「転」、ころがっちゃうような話ですから、

だから「奇想転外」なんです。


(表紙は【無料壁紙】未来をイメージしたクールなイラスト集からお借りしています。
http://matome.naver.jp/odai/2129298719613841501)


     初稿 novelist 2011年 文字数 7,836字
     カクヨム投稿(くうそう脳)2017年2月3日 文字数 8,282字







  ガンガラガッチャーン!
 真夜中に俺の住む、1Kのアパートにものすごい騒音が鳴り響いた。
 びっくりした俺はベッドから転がり落ちて目を覚ました。なにが起きたのかとキョロキョロと部屋の中を見回せば「痛たたぁ……」と、腰をさすりながら、見知らぬ男がうずくまっている。
 その男は白い防護服のようなものを頭からスッポリと被り、口には毒ガス用のマスクまで付けている。
 いったいこいつは何者なんだ? 新手の空巣か? 呆気にとられて俺は言葉も出ない。

「いやぁー驚かせて、すみません。タイムマシンの調子が悪くて着地に失敗しました」
 そういうと、男はクックックッと機械音のような耳触りな声で笑った。
「タイムマシンだって……?」
 こいつはバカか? 電波君か? 
 いきなり意味不明なことをしゃべり出したこの男を怪訝な顔でみる。
「さぞ、この格好にも驚かれたでしょうね。21世紀の日本は、空気中に放射能やセシウムが含まれていて、かなり危険なんですよ。まったく仕事とはいえ、こんなところには来たくないですねぇー」
 得体のしれない男は、俺に親しげに話しかけてくるがもちろん初対面である。――そんなことは知るか、早く俺の部屋から出ていけ!
「申し遅れましたが、わたくしはタイムトラベラー社の委託で、あなたの生涯サポートを務めさせていただいております。――G4と申す者です」
 タイムトラベラー社って時間旅行社ってことか? そんな会社がある訳がないだろう。しかも俺の生涯サポートだと!?
 その言葉にムカッときた俺は、そいつを思いっきり睨みつけやった。

 ――俺はツイテナイ男だった。

 孤児に生まれついた俺は両親の顔すら知らない。
 物心ついてから、ずっと児童養護施設で育てられてきた。神童と呼ばれるほど、勉強が得意だった俺は一流大学を目指して勉強に励んだが、なぜか本番に弱く、受験に失敗して二浪してしまったのだ。それで仕方なく、大学の夢を諦めた。

 高卒だったが、辛うじて中小企業に就職ができた。
 営業部に配属された俺は人一倍仕事を頑張ってきたつもりだ。最初は営業成績をどんどん上げて、我が社の期待のホープとかみんなに言われていい気になっていたが――それがどういう訳か? 大口の契約が取れても、土壇場でいきなり先方からキャンセルされることが多くなった。
 先方に理由を訊きに行っても会っても貰えず、門前払いされた。そんな失敗が何度か続いて……社内での俺の信用はガタ落ちになった。
 無能の烙印を押された俺は、営業部から外されて、今度は資材部に回された。
 薄暗い工場の倉庫の中で物品の数をかぞえたり、不足した部材を発注するだけの仕事だから、一日中、誰とも口を利かないこともある。完全に窓際ポジションだった。

 ――そんな孤独な俺は、趣味で小説を書き始めた。
 資材部の仕事は暇なのでアイデアを考えている時間はいくらでもあった。たぶん妄想の世界で自分自身を慰めようとしていたのかもしれない。
 毎日、毎日、パソコンに向かって小説を書き続けた。俺のホームページにはだんだんと読者ファンが増えて、小説を書くことが楽しくなった。
 ある日、ホームページの小説が一流出版社の編集長の目に留まった。
 俺の作品を読んで「素晴らしい芸術作品だ!」と絶賛してくれた。そして無料で本の出版させてくれると約束してくれたのだ。やっと才能が認められた! 俺は小躍りして喜んだ。――それなのに、その編集長からぜんぜん連絡がこない。
 焦れて「出版の件はどうなりましたか?」こちらから電話したら「はぁ? あんた誰? 出版なんか知らない」と軽くあしらわれた。
 あまりのショックに、俺はもう小説が書けなくなってしまった。
 書きかけの小説もホームページもずっと放置したまま、訪れる人がいなくなって、ついに創作を断念した俺は、自分のホームページを閉じてしまった。

 ――いくら頑張っても、俺の存在を誰も認めてはくれない!

 結局、なにをやっても上手くいかない、自暴自棄になった俺は深酒をするようになった。友だちのいない俺は、コンビニでアルコールを買ってくると、アパートの部屋でひとり飲んでいた。
 アルコールが切れると、すぐにコンビニに走り買ってくる。――そんな日々が続いたある日、コンビニで働く彼女が、俺の様子をみに訊ねてきてくれた。
 彼女は美人ではないが、心根の優しい女性である。
 俺が頻繁にアルコールを買いにくることを心配してくれていた。彼女と話している内に俺の心も癒されていき、だんだんと深酒もしなくなってきた。
 その内、彼女は俺のアパートに頻繁に通ってきて、食事を作ってくれたり、身の周りの世話を焼いてくれるようになった。
 そんな彼女のことが俺は好きになり、真剣に結婚を考え始めて、ついに彼女にプロポーズしたのだ。
 彼女は「嬉しいわ」と、俺の気持ちに素直に応えてくれた。俺は有頂天だった! 今度こそ、愛する女性と幸せになってみせると心に誓った。

 しかし……俺には誰にも言えない秘密があった、実は女性とセックスができないのだ。決して女性が嫌いな訳ではない、ゲイでもなんでもない。――なのに、肝心なときに俺の下半身はショボーンな状態なのだ。いくら興奮しても振るい起たないのだ。
 (´・ω・`) ショボーン

 もちろん、医者にも相談した「ストレスでしょう……」というばかりで、抜本的な治療法もない。このままの状態では結婚はできないし、子どもも作れない。
 ――男として、俺は不能だった。
 けれども、俺は勇気を出して――そのことを彼女に告白したら「子どもが作れなくてもいいの、あなたと暮らしたいから、それでも幸せなのよ」と、彼女が言ってくれた。そして将来どうしても子どもが欲しくなったら『試験管ベイビー』だって構わないわよ。……と、そういって彼女が優しく微笑んだ。
 まさしく女神のような女性だ! 俺は彼女だけは死んでも手放したくないと思っていた。

 そんな彼女が突然いなくなった――。
 勤めていたコンビニも急に辞めて、どこかへ姿をくらませてしまった。俺は捜した、どんな小さな心当たりでも全て捜した、彼女を必死で捜し続けたが……結局、見つけだすことはできなかった。
 サヨナラも言わないで、急に消えてしまった恋人の気持ちが分からず、俺は混乱して心底絶望した。――もう死んでしまいたいとそう思った。
 その夜、したたかお酒を飲んだ俺は38階建てのマンションの屋上からスカイダイビングした。遺書は書かなかったが覚悟の自殺だった、ツイテナイ人生に俺はサヨナラしたかったんだ。
 鳥のようにビルから急降下していく――。
 ……だが、気が付いた俺は……マンションの植え込みの中で眠っていた。かすり傷ひとつない、ピンピンしている。確かに38階の屋上から飛び降りたはずなのに……死んでいないなんて……? そんなバカな! あれは夢だったのかな?
 なんだか拍子抜けして、それですっかり死ぬ気が失せてしまった。

 あれから半年、やっと平静を取り戻した俺は、相変わらず倉庫の片隅で物品の数をかぞえる仕事をしているのだ。――死んでいるのか、生きているのか分からない、夢遊病者のような日常、なんの希望もない今の生活だった。
 今日、会社の帰りに通りかかった宝くじ売り場でロトシックスを買ってみた。
 会社の同僚たちが、キャリーオーバーでロトシックスが賞金6億円に跳ね上がっていると話していたからだ。どうせ、当たらないとは思うけど……何でもいい、小さな希望が今の俺には必要だった。
 マークシートに番号を選んで塗り潰していく、頭に浮かんだ数字は375642(皆殺しに)そんな番号をロトシックスに俺は選んだのだ。

 ――そして話は戻る。

「今日、あなたロトシックス買ったでしょう?」
 いきなりG4が俺に訊ねた。
「ああ、買ったけど……それが?」
「困るなあー、そういう宝くじとか、一攫千金を狙うようなものを買われては……」
 迷惑そうな声でG4がいう。
「消去させて貰いますよ」
「ええーっ! なんでだよう?」
「それは当り券です」
「な、な、なんだって! それは本当かー!?」
 G4の言葉に耳を疑った。
 まさか6億円が当たっているなんて……やっと運が向いてきた。俺は億万長者だ! 一生遊んで暮らせるぞっ!!
 ――と、喜んだのも、つかの間。G4の指先から青白い光線が出て、机の上に置いてあったロトシックスの引換券が一瞬にして灰になってしまったのだ。――俺の6億円の夢が無残にも消え去った。

「ちくしょう! 何てことをするんだ。俺の6億円を返せぇー!!」
 白い灰になった6億円の紙切れを握って、俺は怒りの抗議をした。
「そんな大金を手に入れたら、あなたが目立ってしまうじゃないですか」
「なんで、こんなヒドイ目に合わされなくっちゃならないんだ。おまえ、さっき俺の生涯サポートって、言ったよなぁ? いったい俺のなにをサポートしてくれてるんだ!?」

「あなたが目立たないように、有名にならないように、幸せにならないように、しっかりとサポートしております」
「はあ……」
 G4のいった、その言葉に俺は絶句した。
「じゃあ、俺が受験に失敗したのも、仕事が窓際になったのも、出版ができなかったのも……全部おまえの仕業か!?」
「ハイ! しっかりサポートしました」
 誇らしげな声でG4が答えた。
「この野郎! ぶっ殺してやる!」
 俺はG4に殴りかかろうとしたが、ベルトに付けたスマートフォンのような器具を触るとG4の周りに丸い透明のシャボン玉のようなバリアーが一瞬にしてできた。
 ブチ切れた俺はシャボン玉バリアーを拳で殴ったり脚で蹴ったがまったくビクともしない。
「クッソー! みんなおまえのせいだったんだ。俺の大事なところが肝心な時にショボーンなのも、おまえの仕業だったのか?」
「――申し訳ありませんが、下半身に〔ショボーンブロック〕を、かけさせていただいております」
「やっぱり、そうか……うっうっうう……」
 情けなくて……、思わず泣き出した俺。
「おツライ気持ちは分かりますがね、勝手に死んだりしないでくださいよ。あなたに死なれるとわたしの仕事の評価が下がるんです。前にも38階のマンションの屋上から飛び降りたでしょう? 間一髪でキャッチできましたが、危ないところでしたよ」
「あのとき、おまえが助けたのか?」
「もちろん、そうです。生涯サポーターですからね」
「……俺は死ぬこともできないのか? どうして俺がこんな目に合わされるのか、理由を教えてくれ!」
「いやねぇ、あなたはハーフなんですよ」
「日本人じゃないのか?」
「いえいえ、そういうハーフじゃなくて、未来人と現在人のハーフだから……。本来、存在してはいけない人間です」
 とんでもないことをG4が言いだした。
 未来人と現在人のハーフってことは、本当にタイムマシンは発明されていたのだろうか? 時間旅行者との間に生まれた人間なのか? この俺は……。
 そしてG4から信じられない話を聞くことになった。





「わたしは25世紀からきました。その時代には誰でもタイムマシンで時間旅行ができるんですよ。あなたのお父さんの未来人は、タイムマシンの着地地点を間違えて道路の真ん中に降り立って、たちまちトラックに轢かれて病院に運ばれました。そのときタイムマシンは大破して、おまけに頭を打って彼は記憶喪失になってしまったのです。半年間、病院で暮らした彼はその病院の看護師と親しくなり、退院後、ふたりで一緒に暮らし始めたのです。――そのときに生まれたのがあなたですよ。本来、未来人と現在人は結婚できないし、ましてや、子どもを作るなんてトンデモナイ! そんなことをしたら、未来の歴史が変っちゃいますからね」

 俺の親父が未来人? 
 信じられないような話にどう応えていいのか分からない。ただ言えることは、ドジな親父のせいで、重い十字架を俺が背負わされる羽目になったということだ。
 ひと言、クソ親父に文句を言わないと俺の気が済まない!

「我々の発見が遅れて、生まれてしまったあなたは未来と現在がリンクしてできた〔時空の落とし児〕です。存在してはいけない存在なのですよ。以前は、生まれる前に命を抹消されました。しかし、それは残酷だと未来の人権団体に非難されてなくなりました。その次は生まれても〔時空の落とし児〕は、世間と接触させないために、一生、精神病院か、刑務所暮らしでした。――それも、人権団体にあまりに可哀相だと言われましてね。そこで、わたしのような生涯サポーターを、ひとり専属につけて〔時空の落とし児〕には、歴史を変えたりしないように、目立たない日陰者の人生を歩ませることになったのです」

 G4の長い説明を聞いて、俺のツイテナイ人生の理由がやっと分かった。……とは言え、こんな冴えない人生を死ぬまで生きなくてはいけないかと思うと、この先、暗澹たる気分だ。

「じゃあ、俺は一生飼い殺しか?」
「いいえ、生き殺しです。生きていても死んでいるのと変わりませんから――」
 クックックッとG4が鼻を鳴らして嗤った。
 人を小馬鹿にしたG4の態度に、こいつを殴ったろうかと思ったが、シャボン玉バリアーに阻まれて触れることもできない。こんちくしょうーめ!

「こんな風に〔時空の落とし児〕の規制が厳しくなったのは、タイムマシンを開発した23世紀の奴らのせいなのです。人類は23世紀末にタイムマシンを発明します。その頃の地球は資源を使い果たして空っぽ状態だった。遥か宇宙にまで資源を求めて宇宙船を飛ばしましたが、リスクばかり高くて、思うように資源開発もできない状態でした。――そこで考え出したのが過去の地球へ行って資源を採ってくることです。タイムマシンでジェラ紀まで行って、思う存分、資源を掘り起こし、森林を伐採し、ジェラシックパークまで作って、23世紀の奴らは恐竜をゲーム感覚で狩りまくったのです。そのせいで……」
 そこまで話してG4は、ハァーと大きく溜息を吐いた。

「どうなったんだ?」
「――地球上の恐竜が絶滅してしまったのだ」
「なにぃー? 地球に隕石が落下したのが原因だと言われているけど、それ違うのか?」
「違います! あれは23世紀の奴らが流したデマ説で、本当は恐竜の乱獲が原因なのです。それ以外にも、タイムマシンでいろんな時代に行き、神やら、魔法使いや預言者になった未来人もたくさんいます。ほら、あのノストラダムスもそのひとりですよ」
 知らなかった! まさか、未来人がそんな頻繁にタイムマシンで時空を行ったり来たりしていたとは……それは驚くべき事実だった。

「それで時空の流れが乱れちゃったので、タイムトラベラー社を発足して時間旅行者たちをきびしく取り締まるようになったのです。【 規則第一条、未来人はその時代の人間たちと接触してはいけない 】でした。誤って未来人と現在人との間に子どもができたら、未来の流れが狂ってしまうので、あなた方〔時空の落とし児〕は、目立ったり、有名になったり、もちろん家族を持ってもいけません。……だから天涯孤独に死んで逝ってください」

「俺は一生結婚しても、家族を持ってはいけないのか、それで恋人も消えたのか?」
「ハイ、彼女はあなたとの記憶を全て消去して、新しい町で暮らしていますよ」
 突然、彼女が消えたのはこいつの仕業だったのか。
「――そうか、それで彼女が幸せなら俺はいいんだ」
 頬に温かい雫が伝っていく。
 俺なんかに関わったせいで……彼女もそんな目にあっていたんだ。たぶん、俺のおふくろも同じように記憶を消されて、どこかで暮らしているんだろう。
「あなたの人生は誰ともリンクしてはいけないのです」
 ああ、なんて悲しい運命だろう。
「それじゃあ、何のために生まれてきたのか分からない……」
「生まれてきたこと自体が間違いでした」
 と、G4がこともなげにいう。
 この野郎、人の気も知らないで……このまま、生きていたって夢も希望もない俺の一生――。もう、こんな生活はイヤだ! 
 タイムマシンなんか発明した未来人が心底憎いと俺は思った。

「おやおや、すっかり話し込んでしまいました。わたしは多忙なのです。じゃあそろそろ、おいとましますね」
 そういうとG4は、腰に提げた携帯型タイムマシンのスイッチをピッピピッと押して操作をし始めた。
「タイムマシンが消えて、3分後にわたしとしゃべったことは、あなたの記憶からスッカリ消去されますから……では、ご機嫌よう!」
 ブゥーンと空気が波動する音がして、タイムマシンが動き出したようだ、その瞬間、シャボン玉バリアーが解除された。
 その隙を俺は見逃さなかった――。突進して、G4の身体に抱きついてやった。
「わわっ、何をするんですか? 離してください! タイムマシンが発進しますよ」
「俺も未来に連れていけ、こんなところはもう真っ平だぁー!」
 いきなり抱きつかれて、G4は目を剥いて泡喰っていた。
「ダメです、離れてくださーい!」
「イヤだ、イヤだー!」
 もがいてG4は引き離そうとするが、この俺は必死にしがみ付いて絶対に離れるものか! このままタイムマシンで未来まで一緒にいくんだ。
 きっと、未来の世界は薔薇色に違いない!

 ――そしてタイムマシンは、俺たちを乗せて時空の彼方へ旅立った。


 いくつかの時空の壁を越える衝撃で、いつの間にか気を失っていたようだ。

 ここはどこだ? 
 気が付いたら、俺たちはうっそうシダが茂るジャングルのようなところに着地していた。なんだかやけに静かだ、不思議なほど生き物の声が聴こえてこない。
 見たこともないようなヘンな草が生い茂っている。ここは浅い川か、沼地のようで足元に水が流れている。空気がどんよりと重く息苦しい、なんとも気味の悪い場所だった。
「おいっ、ここはどこだよ」
「今、調べていますが、重量オーバーでタイムマシンが誤作動したようです」
 携帯型タイムマシンをピッピピッと打ちながらG4が探っている。それにしても、こんな風景は世界中どのジャングルの風景にも見たことがない――。

「えっええぇぇぇ―――!」
 いきなり素っ頓狂な大声で叫んだ。
「どうしたんだ!?」
「こ、ここは3億6500万年前のデボン紀後期の地球です!」
「なんだ、そりゃあ?」
「まだ、地上に生物がいない頃の地球なのです。古生代の地上なんて、タイムマシンできた未来人はまだいませんよ!」
「それで俺たちは帰れるのか?」
「一応、SOSの救護通信は送りましたが……それよりもマズイことが……」
「なんだ?」
「古生代の空気の中には亜硫酸ガスが含まれていて人体に危険なのです」
「なんだとぉー!? このままでは死んでしまうじゃないか!」
「ええ、大変危険です」
「おい、俺にも毒ガスマスクをよこせー!」
「ダメです! ひとつしかありませんよ」
 その言葉をきいた途端、俺はG4が付けている毒ガスマスクを狙って襲いかかった。だが、G4は指先から青白い光線を出して抗戦してきた。――こっちには武器がない。
 普通に組み合ってケンカしたら、未来人のG4よりも俺の方が腕力は勝っているはずなのに、ちくしょうめ!
 武器を探して、見渡すと水辺からムツゴロウの親分みたいな50〜60pくらいの魚が、ヨチヨチと陸に向かって這い上がってきている。
 よし、こいつだ! ムツゴロウの親分をむんずと掴んで、俺はG4に向かって投げつけた。間一髪でG4は光線で魚を焼き殺した。クッソー!
「止めなさい! こんな時代の生物を殺したら時空の流れが狂ってしまう」
「そんなこと知るか、毒ガスマスクを寄こさないとこいつら投げるぞー!」
 俺はもう一匹投げようと水辺を見渡したら、他のムツゴロウたちは水の中へ逃げかえった後だった。
「こ、これはアカンソステガではないですか!?」
 焼けた魚の残骸を見てG4が大声で叫んだ。
「ああ、大変なことをやってしまった! アカンソステガは、初めて水から地上に上がって両生類になった生物です。この後どんどん進化を辿り、哺乳類にまでなっていったのです。いわば人類の祖先のようなものです。そのアカンソステガをわたしは殺してしまった。――そのせいで、他の仲間が水の中にかえってしまった!」
 そういうとG4は頭を抱えて地面にうっぷした。

『人類の進化が大きく狂ってしまう!!』

 そういい残して、G4の姿がスッと消えてしまった。
「おい、どこへ行ったんだ?」
 キョロキョロ見回したが、たった今までそこにいたG4の影も形もない。
「俺に毒ガスマスクを……」
 そう言い終わらない内に、俺の姿もスーッと消えて無くなった――。


 古生代に、アカンソステガが地上に上がらなかったために、人類へと進化しなくなってしまった。

 ――かくして、未来の地球は恐竜たちの星となった。



― おわり ―




                   


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