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 スリーサイズ探偵部 


この作品は群青課題の漢字一文字【 三 】をテーマに、novelistで書き始めて

長い間放置していた作品です。

何しろ【 三 】で大中小の西をアイデアに考えただけの見切り発進の
作品だったので、すぐ暗礁に乗り上げてしまった。

何んとか、紆余曲折を経て書き終えてホッとしています。

私の主義として作品を途中放棄して置くのは嫌いなんですよ(`・ω・´)ハイ!


[あらすじ]はこんな感じ↓

部員数、たった三人の超・弱小『新聞部』が、
取材する内に、とんでもない事件に巻き込まれていく・・・

大中小とスリーサイズ揃った、俺たちの活躍をみてくれい!
学園コメディ。


 (表紙はhttp://glitter-graphics.com/ からお借りしました)


   初稿 novelist⇒エキサイトブログ 2012年6月頃〜
   最終稿 2013年9月26日 文字数 22,728文字

   カクヨム 2016年8月26日〜9月7日まで連載する。 文字数 23,904文字








   Pert.1 アイツと俺

 俺は注意深く周りを見回した。
 授業が終わった放課後の教室には、まだ生徒たちが残っていて、あっちこっちで雑談をしている。その中にアイツの姿は見当たらない。
 よし、今だ! 今こそチャンス。
 俺はゆっくりと椅子から立ち上がると、人目につかないように気配を殺して、そっと教室のドアを後ろ手で閉めた。教室から抜け出した俺は、廊下に出ると早足で歩き、教室のある三階から一階までは、階段を一気に駆け降りた。
 急げ! アイツがいない間に逃げるしかない。
 校舎から出ると正門ではなく、裏の通用門に向かって俺は全力疾走する。五時間目の授業が終わった休憩時間に、通用門の近くの植え込みの中に逃走用に、カバンを隠して置いたのだ。
 校内から出たら、このまま駅に向かい電車に乗ってしまえば、こっちのものだ。これで家に帰れるぞ! ニヤリと思わず笑みが零れる。

 だが、しかし……植え込みに隠して置いたカバンを見た瞬間、ギョッとした俺だ。
 カバンには紙が貼ってあり、赤マジックでこう書いてあった。
『残念でした!』
 ゲゲッ! 嫌な予感がする。その時、背後から声がした。
「ヒロシ! あんた逃げようとしてたでしょう?」
 ヤ、ヤバイ見つかったか!?
 振り向くと、身長150pの小さな身体とは思えない威圧感で、アイツは俺の前に立ちはだかった。
「部活サボって帰る気だったのね」
「いや……そのう、今日は腹の調子が悪くてさ……」
「嘘おっしゃい! さっき凄い勢いで走って来たくせに、部活が嫌で逃げようとしてたことはお見通しよ。五時間目の休み時間に通用門近くの植え込みでヒロシが、何かをコソコソ隠そうとしているのを、三階の窓からわたし見ていたんだから」
 しまった! アイツには俺の行動パターンをすっかり把握されている。
「あはは……今日は近所のスーパーの特売日だからって、母さんに早く帰ってこいって言われてたんだ。――いや、ホントに……」
「ぐだぐだ……言ってないで、ヒロシ行くわよ!」
 苦し紛れの姑息な嘘は一瞬にして見破られた。
 アイツは憐れむような目で俺の腕を掴んだ。そして有無を言わせず、部室へと連行されていく。あぁー、なんてこったぃ!

 ――どうして新聞部なんかに入ったんだろう。
 てか、入ったというより俺は無理やりに入部させられたのだ。なぜ、こうなったのかを説明する前に、俺に背負わされた運命とでもいうべき事柄について話したい。
 まずは自己紹介から、俺は都立高校二年生の大西洋。大西洋(たいせいよう)と書いて、オオニシ ヒロシと読む。
 これは両親のお茶目心から付けられた名前に違いない。同様の理由で、世の中には大平洋(おおひら ひろし)という人物が存在するであろうことは容易に想像がつく――。
 まあ、名前はいいとしても、アイツとの腐れ縁だけは何とかしたい。
 今、俺の制服の袖を引っ張って、無理やり部室に連行しようとする女子。名前は中西真美(なかにし まみ)真実と書いてマミ。その名前のせいか、曲がったことが大嫌い、スジの通らないことは許せないという熱血娘だ。
 彼女の両親は、父が報道カメラマン、母がルポライターというマスコミ一家で、真美自身も将来ジャーナリストを目指しているのだ。
 そのために真美は新聞部に入部して、帰宅部だった……この俺まで誘われて? いいや、脅されて入部させられてしまったのだ。



   Pert.2 俺のカミングアウト

 あることが原因で俺は真美にいっさい頭が上がらない。この上下関係はヘタすると一生続きそうで怖ろしい。
 そのあること、とは……。
 まあ、その核心に入る前に、俺と真美の運命的な出会いについてお話ししよう。
 実は俺と真美は誕生日が同じなのだ。俺らの母親は同じ産婦人科で同じ日に赤ん坊を生んだ、それが俺と真美――。母親同士が初産で年も近いし家も近所だと知って、ママ友になった。
 お互いに育児の相談なんかしながら俺らを育ててきんだが、子育てを終えた今でもふたりはとても仲が良い。
 ちなみに真美はひとりっ子だが、うちは俺の下に三つ違いの弟がいる。
 俺たちは誕生日が一緒だということで、小さい時から両方の家で誕生日のお祝いをして貰ってきた。真美ン家と俺ン家で二回お誕生日会があるのだ。
 それが当たり前だと思うくらい、物心ついてからずっと続いていて、まさに慣例行事だったのだ。
 そして今年もやはりその慣例は実行されて、真美は楽しそうだったが、毎年々、アイツと一緒にバースディケーキのろうそくを吹き消さないといけないんだぜぇー。まったく高校生にもなって恥かしい「もういい加減やめてくれ!」と俺は心の底から叫びたい。
 
 ああ、また脱線してしまったが……。
 ズバリ言っちゃうと、真美に弱みを握られていて逆らえないのだ。
 その弱みと言うのは……俺が小学五年生の時だった。母親同士が仲良しなので、俺たちは小さい時からお互いの家で泊り合いをしていた。真美の母親が取材で出張する時には、二、三日うちに泊りに来るのは当たり前だった。
 女の子がいないので真美が来ると、うちの母親は大喜びで一緒に料理を作ったり、手芸したりして、弟のマサシがひがむほど仲良し母娘ぶりを発揮するのだ。
 真美は家族同然なので、俺たちは小学校の高学年になっても一緒に寝たりしていた。その日は寝る前に、みんなで大きなスイカを食べたのだった。そのせいか、真夜中に目を覚ますと何だかパジャマのズボンが濡れている。ゲゲーッ! 俺、オネショしちゃった!?
 まさか、五年生にもなってオネショするとは思わなかった。
 どうしよう? 俺の右隣には真美が眠っている。左隣には弟のマサシがいる。あれれ、いつの間に弟まで俺の布団にいるんだ。とにかく、濡れたズボンを脱いで何んとかしなくては……。
 俺が焦ってモゾモゾしていたら、その気配で真美が目を覚ました。
「ヒロシ……」
「な、何でもないから寝てろよ」
 俺は小声で真美を寝かせようとしたが……。
「あれぇー? 濡れてる?」
 しまった! オネショがバレた。
「た、た、頼むから、このことはナイショにしてくれ」
 俺は泣きそうな声で真美に懇願した。
 もし五年にもなってオネショしたなんてクラスの奴らに知られたら……それこそ一生笑い者にされて、イジメられるに違いない。
 気持ち悪いのでパジャマと下着は即着替えたが、この布団をどうしよう? ぐっしょりと濡れている。
「ヒロシ、その濡れたズボンはマー君に穿かせなよ」
「えっ?」
 マー君とは、俺の弟のマサシのことで、まだ小学二年生で寝ぼけてオネショする癖がある。
 何んという悪知恵! この場合、マサシが犯人なら誰も疑わない。酷いこととは知りつつ、濡れたズボンを穿かせ、オネショ布団の上に弟を寝かせた。その後、母親にマサシがオネショしたと伝えに行った。
 母親は「あら? マー君がヒロシのパジャマをなぜ着てるの?」と、ちょっと不思議そうな顔をされたが、まさか五年にもなった長男がオネショする筈ないと、マサシを起こして着替えさせていた。そして濡れた布団はベランダに干した。
 弟はオネショしたかどうか眠っていて自覚がないので、その罪をすんなりと受け入れていた。たったひとりの弟に罪を被せた、俺は最低の兄貴だった――。
 さすがにマサシに悪いと思った俺は、ゲームボーイアドバンスのレアなポケモンを通信でマサシのDSにいっぱい贈ってやった。兄からのビックなプレゼントに弟は目を丸くして喜んでいた。
 これがせめてもの罪の償いだとも知らずに……。
 そして、真実(しんじつ)を知っている真美に、口止めを頼んだ俺は弱みを握られてしまい、もう一生逆らえなくなってしまったのだ――。
 まあ、これが俺と真美の過去のカミングアウトなのである。



   Pert.3 俺たちスリーサイズ

 ついに観念した俺は、真美に引っ張られて『新聞部』の部室へ連れて来られた。
 新聞部の部室は図書室の奥の書庫の片隅である。ここならコピー機やパソコンがいつでも使えるという利点からだったが、こんな窓もない、埃臭い部室は居るだけで気が滅入る。
 何しろ新聞部は俺を含めて、たった三人の部員しかいない超弱小クラブである。
 顧問は図書室の管理を任されている、英語の根岸先生だが、こいつは眼鏡で髭を生やした神経質で陰気な人物なのだ。全然、俺たちの世話を焼いてくれないし、それどころか新聞部の部室がここにあること自体、とても迷惑そうなのである。
 書庫の中には、根岸先生の趣味と思われるカメラや画像編集するための機械が置いてあって、触ろうものなら、すごい剣幕で怒鳴られた――。
 顧問のくせにそれはないだろうと言いたいけれど、四十二歳、独身、女っ気なし、いわゆる、そいつはキモヲタ教師なのだ。

 それでも『新聞部』が存続できているのは、部長の葛西先輩のお陰だろう。
 葛西先輩は三年生だが去年から不登校が続いて、ついに留年してしまった。彼は本来、もの凄く頭が良くて、ずーっと学年トップの成績だったが、一昨年の暮れから、急に不登校になってしまったのだ。――それで、家で何をしているかというと、ネットで起業してアフィリエイトやオークションで、月に二十、三十万は稼いでいるという噂である。
 何しろネットはパソコンさえ扱えれば、高校生だろうが、ニートだろうがお金を稼ぐことができる世界なのだ。
 そして葛西先輩が、新聞部のスポンサーとなって部費や活動資金などカンパしてくれている。現在、活動しているメンバーは俺たち三人だけだが、廃部されないように帰宅部の奴らに、お金をバラ蒔いて幽霊部員になって貰っているのだ。
 なぜ、そこまでして葛西先輩が新聞部に執着しているのか知らないけど――俺的には、こんなクラブは無くなってくれた方が助かるのだが……。

「あっ、ヒロシ君おヒサ!」
 俺の姿を見つけて、新聞部の三人目の部員である小西草太(こにし そうた)が嬉しそうに手を振っていた。

 ここまで読んだら、もう分かってくれたかなぁー? 
 俺は大西、真美は中西、草太が小西。三人揃って大・中・小の西なのだ。
 三つのサイズの西、西はウエスト(腰回り)、だからスリーサイズである。
 その後に付く『探偵部』は、俺たちスリーサイズの活躍次第だから、お楽しみなのだ。


   Pert.4 俺と親友の草太

 俺と小西草太は中学からの親友なのだ。
 草太は小西と小さな西だが、実は身長183p体重80k以上という巨漢なのである。家は手作りパンのお店で、まん丸でにこやかな顔のせいで、みんなに『アンパンマン』と呼ばれている。
 大きな身体の草太だが、とても繊細で気が優しい、花や動物が大好きメルヘンな奴だ。
 図体はデカイが、人に逆らわない性格のなので、中学二年の頃、いじめっ子グループの標的にされていた草太、カバンや荷物を持たされたり、パシリに使われたり、家からパンを持ってこさせたりと、奴らに好い様に利用されていた。
 同じクラスだった俺は、見兼ねて、いじめっ子グループの奴らに、草太の代わりに文句を言ってやったが、当の草太が虐められている自覚が全くなくて……何を言われてもニコニコしている。
 ――そんな草太がどんだけ歯がゆかったことか!
 結局、俺がクラスの虐め問題を先生に訴えて、学級委員会で話し合ってから、いじめっ子グループの草太への露骨な虐めはなくなった。
 いじめられっ子の草太だが、実はアンパンマンのように正義感が強い男なのだ。

 あれは中三の時だった。俺と草太は同じ塾に通っていて、夜、塾帰りに自転車で公園の前を通りかかったら、犬の鳴き声が聴こえた。
 それはキャンキャンと泣き叫ぶような悲痛な鳴き声だった。
 薄暗がりの公園の中を目を凝らしてよく見たら、一匹の仔犬が首にヒモを巻かれ引きずり回されて、まるでサッカーボールみたい蹴飛ばして遊んでいる奴らがいるではないか。
 仔犬をオモチャにしていたのは、高校生くらいの男子三人組だった。

 ――それを見た瞬間、草太の顔色が変わった。
 いきなり自転車を乗り捨てると、その三人に向かって突進したのだ。あっという間に三人組をブン殴り、蹴りを入れ、投げ飛ばしていた。
 俺は呆気に取られて、その場面を茫然と見ていたが……あの気の優しい草太にあんな暴力的な部分があったのかと、ただただ驚いていた。
 まるで素朴な顔のご神体ハニワが、怖ろしい大魔神に変身したようだった。
 あんな怖い顔の草太は初めて見た。《お静まりください。草太さま……》急に現れた巨漢の人物、まさか相手が中学生だとは思っていない……に、ボコボコにされて、ほうぼうのていで奴らは逃げていった。
「こ、この野郎、覚えてやがれ―――!」
 最後に、お決まりの捨て台詞もただ虚しいだけだった。

 その後、ぐったりした仔犬を胸に抱きしめて、草太は涙を流していた。
 傷だらけの仔犬を獣医に連れていきケガが完治するまで、ずっと仔犬の世話を草太が看ていた。ビラを配って飼い主を探したが、誰も名乗り出なかったので――結局、草太の家で飼うことになった。
 チーズと名付けられた雑種の仔犬は、今ではパン屋の看板犬になっている。

 草太の隠された能力はそれだけではない。
 実はイラストレーター志望なのである。草太の描く女の子は色使いが美しく、繊細で緻密でプロ顔負けに上手いのだ。
 ネットの絵師専用SNSでも草太の人気は高く、頼まれて同人誌の表紙画を描いたら、コミケでその本は飛ぶように売れていた。
 コミケを取材にいった俺は、その様子を目の当たりに見て《もしかして、草太って天才絵師かもー?》と思ったくらいである。
 新聞部では俺が記事を書き、真美は写真を撮る。草太は新聞のレイアウトとイラスト担当、それぞれ役割分担が決まっている。
 だけど、俺たちの作った学校新聞は教室で配っても人気がなく誰も読んでくれない……女子なんか草太のイラストだけ切り抜いて、後はゴミ箱へポイである。
 だから、こんな虚しい『新聞部』を辞めたくて仕方ないが、真美と草太がやる気満々で許してくれないのだ。おまけに俺は副部長という任まで背負わされている。

 ああーあ、もうどうにでもなれって気分の大西洋です。



   Pert.5 葛西先輩の課題

 毎回、学校新聞のテーマを葛西先輩から出される。取材のための費用も貰える。いつも真美のパソコンにメールで送って来るらしい。
 そして今回のテーマだが、『学校の怪談』なのだ。
 なにそれ? ベタなテーマだなぁー。
 前回は『徹底検証! 牛丼食べ比べ』だった。新聞部のメンバーで吉野家、すき家、松屋など牛丼チェーンを食べ歩いた。
 この企画を一番喜んだのは草太だった。
 全店で牛丼二杯づつ完食していったので、牛丼食べ比べの記事を草太に頼んだら……、「どの店も比べられないくらい美味しい!」ときたもんだ。
 これじゃあ、ただの食いしん坊バンザイ! の感想じゃないか。それじゃあ、取材する意味ないじゃん!
 まあ、そんなダメっぽ新聞部の次の取材テーマが『学校の怪談』なんて、滑りそうで怖い。だけど、スポンサーである葛西先輩の意見は絶対なので逆らえない。

『学校の怪談』で取材するのは、校内で話題になっているのは三つの噂だ。
 一つ目が『施錠された食堂から消える食材』なんじゃそりゃあ? 深夜に誰か摘み喰いか?
 二つ目は『深夜の体育倉庫から女の呻き声』ちょっと怖そうだ。
 三つ目の最後が『真夜中の学校を徘徊するセーラー服の少女』うちの高校はブレザーだから、他校の女生徒の侵入か? ちょっと捕まえてみたいような……。可愛い幽霊だったら、welcomeだぁー。などと俺が妄想していると、
「ヒロシ、あんた聴いてるの?」
 いきなり俺の妄想を遮断して、現実の真美が怖い顔で睨んでいた。
「はい、はい。聴いてますよぉー」
「もう! ヤル気ないんだから」
「そんなことない! いつも俺はクールなだけさ」
 突っ込むのもアホらしいという顔で、真美は話を続けた。
「――で、今週の日曜日に取材をします。午後十時に学校の通用門の前に集合ね!」
「そんな時間からだと腹が減っちゃう」
 大食漢の草太は一日五回の食事が必要なのだ。
「じゃあ、コンビニで何か買っていこうか」
 葛西先輩から取材費が出ているので、我が新聞部は財政的にはリッチなのだ。
「はーい、質問! おやつは500円までですか?」
「……ヒロシ、いつまでも子供染みたギャグを言ってんじゃないわよ」
 冷ややかな真美の一瞥に、俺はシュンとなった。
 よくよく考えると――物心ついてから、ずっと俺は目下扱いだったなぁー。いい加減、真美とは縁を切りたい。新聞部なんか潰れちまえっ!
 
 ……てか、なんで葛西先輩は自分でやらないで、俺たちにばっかやらせているんだろう?



   Pert.6 侵入! 真夜中の学校

 日曜日、午後十時キッカリに俺は集合場所の通用門の前で待っていた。
 いつも通学には電車を使っているのだが、深夜なので終電がなくなるかも知れないと思って、自宅から小一時間かけて自転車でやってきた。
 それなのに……後の二人がまだ来ていない。
 待つこと十五分、やっと二人がきた。しかも草太の家の自動車で送って貰ってだ。
「遅い!」
 開口一番、ムッとした顔で俺は言った。
「ごめん、ごめん……。草太君ン家でご飯食べさせて貰って、二人でゲームやって、コンビニで買い物してたら遅くなっちゃった」
 珍しく真美が俺に素直に謝った……が、なんかムカつく。
「おまいら、ずいぶん仲がいいんだなぁー」
「あっれぇー、ヒロシったら仲間外れにされて拗ねてる?」
「そんなんじゃない。おまいらが時間を守らないから……」
「もしかして……焼き餅なの?」
「断じて違う!」
 全力で否定する。
「僕と真美ちゃんは仲良しの友だちだよ。ヒロシ君とは大親友だもん」
 草太の微妙なフォローに納得できるような、納得できないような……。まっ、いっかぁー。
 さて、気を取り直して、
「よーし! 今から深夜の学校に潜入するぞぉー」
 勢いよく、通用門の門扉に手を掛けた俺だが、当然、施錠されている。
「おい……。どうやって入るの?」
 その言葉に二人して笑い転げやがった。クソッ!
「あははっ、ちょっと待ってね」
 真美がインターフォンを押した。すると、常駐している警備会社の深夜の管理人が出た。
『こちら管理人室ですが……』
『スミマセン。新聞部の者ですが、今夜、校内で取材しますから中に入れてください』
『はい、話は聴いていますから。どうぞ』
 そう言うと、門扉が自動で開いて俺たち『新聞部』は校内に入っていった。《話は聴いてますから……》って、いつ、そんな話を学校や深夜の管理人に通していたんだ? 俺の知らない所で、この新聞部は活動してるんだなぁー。
 やっぱり俺なんか居なくてもイイじゃんか。ちょっとイジケちゃった俺です。



   Pert.7 学校食堂の怪談

 最初の取材は『施錠された食堂から消える食材』と言うことで、俺たちは学校食堂の厨房へと向かった。
 まず草太は取材の前にコンビニで買ってきた食糧を食べるつもりらしい。レジ袋二つに入ったものを食堂のテーブルの上に並べた。おにぎり十個とパスタ二つ、唐揚げ三つ、コロッケ、サラダ、プリン、シュークリーム、ポテチ、数種類の飲みもの……いったい、どんだけ食べる気だぁー!?
 俺と真美はおにぎり一個づつとパスタと唐揚げを食べたが、後は、草太がほとんど全部食べた。やっぱり身体がデカイと胃袋も大きいんだなあーとつくづく感心した。

 お食事タイムが終わったら、我が新聞部も気合を入れて取材に取りかかる。
 真美が食堂のおばさんに借りて来たという、鍵で厨房の中に入った。思ったより広い厨房には大きな鍋や調理器具が置いてある。電気製品から発する僅かな灯りと非常灯が室内をぼんやり照らしている。
 深夜の厨房というのは、静まりかえって不気味なものだと思った。――深夜に食材を盗りに来るという謎の生物が現れるのを厨房の片隅に待つことにした。

 息を殺して調理台の下に隠れていたが、かれこれ小一時間経っただろうか? お腹も満腹だし睡魔が襲ってきた。謎の生物はいつ現れるのか、このままでは本気で寝てしまいそうだった……その時である。
 天井の換気口辺りから、微かな音が聴こえて来た。停止しているファンの羽根をスルリと抜けて何かが入ってきた。音もなく床に着地すると、大きな棚に置かれていた段ボールの箱をガサガサと漁っている様子だ。
「よし! 今だ」
 俺たちはそいつを懐中電灯で照らすと、驚いた眼が赤く光っていた! 
 そこに居たのは真っ黒な猫だった。
 口にはソーセージを咥えて、こちらに向かって威嚇するようにシャーと吠えた。よっしゃー! 窃盗現行犯の猫の写真を撮った。
 人間に驚いた猫は調理台の隙間に入り込んで隠れた。
「この猫を捕まえて、食堂のおばさんに引き渡す?」 
「毎晩、こんな悪さをするようなら捕まえた方がいいかも知れん」

 ここは密室だし、猫はどこにも逃げられない。
 俺は追いかけ回して、ジリジリと猫を追い詰め、そして持っていたザルを奴に被せて、やっと捕獲したのだ。
「やったー! いたずら猫を捕まえたったぁー」
 ここまで何もしないで見ていた草太がいきなり声を上げた。
「ヒロシ君、その猫を許してあげて!」
「えっ?」
「仔猫の鳴き声が聴こえるんだ。ほら、耳を澄ませてみて!」
 そう言えば、ミャーミャーと微かに仔猫の声が聴こえた。
「その猫はお母さん猫なんだ。もし捕まったら……仔猫がお乳を貰えなくて、飢え死にしてしまう」
 よく見ると、猫のオッパイが膨らんでいるし、子育て中の母猫のようだ。
 草太は残っていた、おかかのおにぎりと唐揚げを猫に食べさせた。しょうがない、今日は見逃してやろう。おまえ仔猫が居るんだから、もう捕まるんじゃないぞ!
 黒猫を厨房から外へ放してやった。



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