「意味分かんねぇ意味分かんねぇ。ねぇねぇ意味分かんないよ。わけ分かんねーよ。書く意味がってか、目的が見えない。感じとれない。だいたい、こんな紙っきれ貰って嬉しいか?嬉しくねーよ。お年玉が当たるっつったって、賀正切手が関の山だろ。液晶テレビ当たった奴なんか聞いたことねぇ。なぁ、クソ忙しい年末に余計な事さすんじゃねぇっての。ふっざけんな禿げろよ!!」
「僕に当たらないでよ」
刻一刻と時は迫っていた。紅白歌合戦も終盤。僕はこたつでおもむろに蜜柑の皮を剥きながら、大量の年賀状を前に文句を当たり散らす彼女を眺めていた。
この娘の悪い癖は、面倒を後回しにしてしまうこと。更には学習能力がない。去年も一昨年もこうだったのに、同じ失敗を繰り返す。反省の色が全く見られないのだ。
積み重ねられた年賀状の山が彼女の友達(群れ仲間というか)の多さを物語っていた。生憎僕にはそんな相手なんかいないので、今年も年賀状は一枚も書いていない。群れるのって本当に面倒だね、僕は暢気に、蜜柑を口に放り込む。
「雲雀、雲雀。ねぇねぇ手伝って?手伝って?」
「拒否する」
「むーっ!!酷い!じゃあじゃあ、手伝ってくれたら一緒に愉しいコトしよう?」
「盛ってんなら出てって」
「ああああーーー!?愉しいコトってジェンガのことなんですけどー!雲雀さんっ、一体どんなコト考えてたのかなあああ!?…よーーっし!“きょうやんはむっつりスケベです”って書いちゃお。えっと、コレは……あ。骸宛だ」
「ちょっ……!止めて!」
慌てて葉書を奪おうとするも、彼女はヒョイッと僕の手の届かない所へ持ち上げた。そしてそのまま、書き終わった年賀状の中へまぎらせる。
「手伝ってくれたらコレは出さないから。ね?お願い?」
「…何で僕が………」
「ねぇ、お願い!宛名書くだけ!字は適当でいいの。ほんとにお願い!いいでしょ?」
笑顔で筆ペンを差し出され、僕はため息をついて仕方なしにそれを握った。
そんなに必死になるほどは困る訳じゃないが、やっぱり僕はこの娘に甘いんだろう。ちょっと困った顔で“お願い”されると、即堕ちる。情けないような…なんて言うか惚れた弱味か…。うわ、なんか僕、きもちわるい。
宛先の住所と睨めっこしながら、葉書に書き写していく。と、その中の一枚に僕宛の年賀状があった。殆ど同居状態なのに、わざわざ出すんだ…つくづくマメな性格だなぁと思った。女の子特有の丸字で「今年も迷惑かけるけどよろしくお願いします」と書いてある。迷惑かけるのは前提なわけ。彼女に気付かれぬよう笑いを噛み殺して、僕も年賀状に集中する。
だが…
「…ひばりぃ…眠い…」
「ワォ……」
今にも目蓋がくっつきそう。こっくりこっくりしているので、筆ペンが葉書に摺れて、字面がくちゃくちゃになっていた。
赤ん坊の知り合いの金髪宛だった。
まぁ、別にいいかな、と思った。
そういえば、昼間は大掃除やら買い物やらで忙しかったんだっけ。おまけにお酒が入っている。眠くなるのも当然か。僕は彼女の右手に握られている筆ペンを取り上げて、彼女に休むよう促す。
「…ちょっと休んでからにしたら?、…後で起こしてあげるから」
「んー…っ、ゴメン…」
「ほら、ベッド行っておいで」
「や。お膝」
そのまま彼女は、こてん、と倒れた。僕の膝の上に頭を乗せ僕の太股に鼻を擦り付ける。
「ベッド行ってってば」
「いやー」
「……膝痛いんだけど…」
「むーむー」
むーむーってなに。
動物ちっくな鳴き声が暫く続いた後、彼女は静かに寝息をたてはじめた。
確かに、
確かに迷惑だね…
ちらりと時計を見遣ると、もう日付が変わっていた。あーあ、やっちゃったよ。去年中に終わらなかったじゃない。
馬鹿らしくなって、僕は筆ペンを卓上に置く。
あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。迷惑ばっかりの貴女ですが、僕はそれを不快に思ったことは一度もないよ。
僕は無言で彼女の鼻をつまんで、唯一の空気の通り道を遮断。彼女が目を醒ますまで、5、4、3、2、1、
ZERO counter
(あけましておめでとう)(………うわあああ!年越し蕎麦食べ損ねちゃったあああ!!)
080101 宇於崎斜子
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