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「ああもうほんとにチェシャ猫は憎たらしいったら!」

さきほど体から離れたばかりの首が、ごろりと床に転がる
その首は女王の後ろにいた男の足に当たりようやく動きを止めた

「また、ですか」
「なにがいいたいのかしら、ビル!」

ビルと呼ばれた男をキッと睨みつけ、鎌を振り回す。彼はそれをひらりと避けたものだから彼女はさらに激昂した
その怒りはどうあっても目の前の人に当たらないとなると矛先は憎きチェシャ猫へと向かい、またしても女王は怒号する


「チェシャ猫は、アリスに思い出させるつもりなんだわ!そんなことさせるわけにはいかないもの、わたくしが…!」
「それがどういうことかおわかりで?」
「……わかっているわ」

いいのよ、わたくしがそうしたいの。アリスを傷つける世界はいらないのよ
そう物語る目をビルは無表情に見つめた
鎌の柄を握る手に力がこもる


「それが大切なものを自分で殺すということであっても?」
「だから、わかっていると言ってるでしょう。アリスの首なんて喉から手が出るほど欲しいものだわ」
「彼女がそれを望んでいると?」
「大切なのはアリスの意思じゃないわ。気持ちは優先させてあげたいけれど残念なことにこれは別問題なのよ」
「……」
「話はそれだけかしら?ミスター・ビル」

返事がないのでもういいのだろうと、嫌味っぽく言って女王は踵を返しその場を去っていく
ビルは彼女こそ求めているのだろうと思った。アリスを、そしてアリスと同じものを

アリスが求めているものは、女王が考えているものではきっとない
傷だらけの心でも甘いだけの幻想でも歪んだ世界でもなくて。それこそ、女王と同じものなのだ
しかしそれに気付くこともないだろうとひっそり抱いた絶望にも似た感情に揺れるビルの赤い舌を、女王はもう見ていない


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女王様すきすき












あきゅろす。
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