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Ep.s1


日)「君、良い目してるね」

鳥)――突然言われた言葉と共に渡されたのは、一個のデジタルカメラ…



【タイトル部にだけ、やわらかいBGM】

『僕はそれでも歩いていく。【本】』




【効果音:セミ】

鳥)「…は?」

ようやっと後輩身分から解放されて、季節は初夏

日)「君、良い具合に目が曇ってる。良い目してるよ」

鳥)「意味分かんねーんだけど…つか、アンタ誰?」

【「――」の文章は反響効果】

――いきなり廊下で知らない奴に声を掛けられ、その上「目が曇っている」などと言われ、俺は眉を寄せた。

日)「あぁ、そっか…君は知らないんだよね。俺は日野塚、君と同い年で、写真部部長」

鳥)――写真部って…廃部寸前じゃなかったっけ…?

というか、なんで俺がそいつに声をかけられるんだ?

…こういう場合って

「すみません俺、急いでるんで…」

日)「まぁ待てよ、どうせ用事なんてないんだろう?帰宅部員くん(笑)」

鳥)――なんでそんなことまで知ってるんだコイツは…というか早く手を放してほしい…

「あの、手…離せよ」

日「だって君、話そうとしたら逃げるだろ?人の話も聞かないで逃げるなんて卑怯だと思わない?」

鳥)「はぁ!?っざけんなよ!!良いから離せ!!」

――ったく!なんで初対面の奴に俺が卑怯者呼ばわりされなくちゃならないんだ!

日)「そんなに怒るなよ(困ったように)まいったなぁ…なんて言えば話聞いてくれるんだか…」

鳥)「お前が怒らせたんだろう!?っこの!」

――思いっきりガンを飛ばして睨みつけると、ソイツは一つ溜息をつき、あっさりと手を放してくれた。

日)「じゃあまた今度で良いよ…待ってるから」

鳥)「なにが「今度」だ!シネ!」

――俺がどんなに怒っても、態度の変わらないところがさらにムカついて、俺は廊下を全速力で走った。

本能的な何かが、「コイツは厄介だぞ」と察知ていた


***

【ギャグ向けのBGM】

鳥)――俺は馬鹿か…

ガックリと項垂れる。

走って昇降口まで来たは良いものの、日野塚とかいう奴に手渡されたデジタルカメラまで持って帰ってきてしまった

嫌でもアイツのところに、これを返しに行かなければならないと思うと、気分が滅入る

正直、友達も作らずに学校生活を過ごして来たので、こういう緊急事態の時に頼れる奴もいない。

はぁ…と溜め息をつくと、

日)「あれ?君、こんなところで何突っ立ってるの?」

鳥)「!?」

いつ見ても虫酸が走るこのヘラヘラした顔…あいつだ…

日)「カメラ持ってるってことは、何か良い写真撮れた?」

鳥)あまりにも見当外れな言葉に、俺は思わず呆れた

「はぁ?撮ってねーよ、これ返す」

そっけなく言って、カメラを渡し、俺はその場を立ち去ろうとした。

…が、しかし

日)「だめだよ〜なんでも良いから、一枚撮ってから返して」

優しい口調ではあるが、有無を言わせぬ迫力があった。

(な、なんなんだこいつは…(汗))

日)「とりあえず、校内回っておいでよ。良い被写体が見つかるかもよ?」

鳥)「…お前、なんでそんなに俺に構うんだ…?」

率直な疑問をぶつければ、

日)「なんでって…良い目、してるからだよ」

屈託のない笑顔で、そう言うのだった


***

【効果音:足音】

鳥)仕方がなく俺は、カメラを片手に校内をさ迷うことにした。

なんだか納得いかないが、ようは写真を適当に一枚撮ればいい話なのでさっさと終わらせようと思った。

今年は猛暑らしく、まだ初夏だというのにむしむしと暑い日が続いている。

さすがに午後とは言え、炎天下の中、写真を撮ろうとは思わないので、俺は出来るだけ涼しい所を探した。

適当に時間を潰して、適当に一枚写真を撮って帰ろうと思ったからだ。

時間を潰すのは、時間をかけないと適当に撮ったというのがバレてしまうから。

「お…こことかいいじゃん…」

校舎一階にある、図書室。

日の当たらないところに建てられている図書室は、校舎の中でもっとも快適な場所だ。

それに放課後ということもあり、校舎内に人気がないので、サボり(?)にはある意味好都合だった。

心の中でガッツポーズをし、俺はドアを開けた。
【効果音:引き戸を開ける音(ガラガラ)】

と、誰かが窓側の机の前に立っている。

ただ、机の上に広げられた一冊の本をじっと見つめていた。

(なんだ…アイツ)

制服の着こなし方を見ると、多分1年生…

同じ男とは思えないほど小柄で華奢で、清楚な雰囲気があった。

(先客がいたのか…)

少し残念に思いながら、このまま中に入ろうか入らないか悩んでいると、ふいに午後の涼しい風が吹いた

【涼しげなBGM】

窓から射すわずかな木漏れ日が揺れ、少年の全身に散らばる。

薄暗い図書室の中で、少しくせっ毛の少年の髪がふわっと揺れ、本のページがパラパラと音をたててめくれていった。

【効果音:ページがめくれる音(パラパラ】

手に持っていたカメラが主張するように、ズシリと重く感る。

――フレーム越しに、少年を見て、そして…

【効果音:シャッター音((カシャ】

――次の瞬間には自然とシャッターを押していた。

その音でようやくこっちの存在に気付いた少年は、ハッとした表情でこちらを見る。

初)「あ…すみません」

鳥)――何が『すみません』なのか、そう言うと、少年は本をパタリと閉じ、本棚へと戻した。

「いや…別に居ても良いんだけど…」

初)「でも俺、もう帰るところだったんで…」

鳥)謙虚な態度で帰ろうとする少年に、俺は思わず引き留めるように声をかけた。

「あのさっ…!」

初)「…はい…?」

鳥)「えと…その、被写体になってほしいんだけど!」

カメラを見せて、"写真の…"ということを伝える。

【効果音:驚き】

(…って俺!何らしくないこと言ってるんだ…!?)

そこでようやくハッとして、俺は自分のしたことに驚きと戸惑いを感じた。

一方、少年は俺の言葉に一瞬目を丸くしたが、すぐに照れくさそうな顔になり、

初)「俺でよければ…いいですよ」

はにかんだ顔で答えるのだった…


***


【コミカルなBGM】

日)「ふーん…君にしては上出来だ。しかもこんな良い被写体まで見つけて〜」

鳥)「ほら、写真は撮ったからもういいだろ!俺は帰るから」

デジカメのモニターを見てニヤケている男にうんざりしながら、帰ろうと鞄を取ると、また腕を掴まれる

【BGMの音だんだん下げる】

鳥)「…なんだよ、まだ何か…」

日)「どうだった」

鳥)「は?何が」

日)「撮ってみてどうだったかってきいてるんだけど?」

鳥)――真面目な顔でそう訊かれ、俺は正直に答えるしかなかった

「…楽しかった…よ」

日)「そうか」

鳥)それだけ言うと、掴んでいた手の力が緩み解放された。

なんだか調子が狂う…俺は無言で写真部を後にした。


***


【効果音:ドーン!】

鳥)「な…なんじゃこりゃ…?!」

【ギャグ向けのBGM】

翌日、俺が学校に来ると担任が嬉しそうに一枚の紙を渡してきた。

先)「おまえもやっと真面目に部活するようになったか!何部であれ、学校活動をしてくれて先生も嬉しいよ」

鳥)「なんで…なんで写真部の名簿におれの名前が…!?」

先)「なんでって、昨日部長の日野塚が『新入部員が入った』って…入部届けも、ほら」

【効果音:紙の音(ペラッ】

鳥)「んなあッ!?なんだってー!?」

【だんだんBGM小さく】

――それが"厄介"の始まり



fin.
































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