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いつも思うことがある。

ほんとうになんとなくだけど、僕と先輩方には少し距離があるような気がして

でも、その距離の理由を知るのは、どうしても怖くて…



『僕はそれでも歩いていく。』【距離】



いつもの部室で、お菓子とジュースを並べながら、他愛のない会話をする。

写真部のいいところ、だと思う。

フェンシング部には、こういう休息はないからだ。

会話は、「自分たちが出会った頃の話」になっていた。

「はぁ…鳥夜は、昔はまだ可愛気があったよなー」

「いや〜照れるっすよ〜!隊長は意味不明なこと連発してたッスけどね〜」

「あれはその…尊敬してる人の受け売りだ…(ごにょごにょ)」

なんだか、話を聞くと、昔の先輩方は今とは少し違っていたようだ。

鳥夜先輩が可愛かった…とか。でも、不良だった…とか。

日野塚先輩も、ここまでツッコミ派ではなく、むしろボケ派?だったとか。

会話を聞く限りそう聞こえるのだが、あまりにも結び付かなくて自分の解釈が間違っているのではと思ってしまう。

たしかに、初めて出会った時の鳥夜先輩は少しぶっきらぼうでぎこちない雰囲気があった。

今みたいに、常におどけ100%ではない。

でもそれが、いつから変わったのかは分らない。

最初に写真を撮られてからしばらくして、僕は写真部にスカウトされたのだ。

その空白の期間は、謎だらけだ。

ただ、僕の知らない間に、2人はびっくりするほど仲良くなったんだろうなと感じる。

お互い、遠慮のない、知り合っているというか、認め合っているというか…

なんだか、羨ましいなと思ってしまう。

やはり、2人にはあって、自分にはないものがあるのかもしれない。

自分も「それ」があれば、もっともっと仲良くなれるかもしれない。

でもそれが何かは分らない…

「お。そろそろ帰る時間だぞ。下校時刻過ぎちまう」

「えーっ、もう終わりッスか〜?つまんねー」

「あ、ほんとですね!もうこんな時間…そろそろ見回りの先生も来るでしょうし、いきましょうか」

「そうだな。ほら鳥夜、備品はちゃんと元に戻せよー」

「へいへい〜。あ、帰りにカラオケ寄っていこうぜ! 」

「あのなぁ、お前昨日も行ったばっかだろー?」

「いーじゃないッスかー!な、初野ー、お前も行くだろー?」

そう言われ、気乗りしない自分がいることに気づく。

考え込んだせいで、少しナーバスになっているのかもしれない。

「あ…すみません。俺、今日はちょっと用事があって…」

なんて…嘘も方便と思いつつ、断った。

「なんだよー、初野もノリ悪いな〜」

「こら、あまり初野を困らせるんじゃない。俺もいかねーぞ」

「ちぇー、んじゃあ明日!明日行こうぜ!」

「ったく、お前は!」

そうして僕らは、それぞれの家路へと向かった。

***

家が別方向なので、先輩方とは南駅の交差点で別れる。

「じゃ、初野。今日はお疲れ」

「じゃーなー初野ー!」

「はいっ、さよなら!」

慌ててお辞儀をし、しばらくしてからゆっくり頭を上げる。

二人が歩き出すのを確認した後、僕は背を向けて歩き出した。

「ふぅ…」

今日はいろいろ考えたせいで少し疲れてしまった。

歩きつつ、ぼーっと町並みを眺めていると、ふいに後ろから声がかかった。

「初野くん!」

聞いたことのない、高い声。

誰だろうと思い振り向くと、姿を見てもやはり誰だか分らない女の子がいた。

制服が一緒ということは、同じ学校の生徒…一体、僕に何の用だろうか。

「え、えっとー…どうも」

名前が思い出せませんごめんなさい!というのは失礼だと思い、当たり障りのないことを言う。

彼女は嬉しそうに僕に駆け寄り、そして少し顔を赤らめた。

「あ、あのね、初野くん。今ちょっと時間あるかな…?」

「へ?」

「あっ、あの別に無理だったらいいんだけど!ほんと!いきなり変なこと言っちゃってごめんね?」

「い、いえっ。えっと…ここで話すのも何だから、喫茶店にでも入る?」

特に急ぐこともないので、彼女と喫茶店へ入ることにした。

先輩たちのことでモヤモヤ考えていたから、気分転換にはちょうど良かった。

それに、わざわざ声をかけてきてまでのことだから、大切な話なのだろう。

喫茶店へ入り、席に着くと、僕と彼女は飲み物を頼んだ。

僕がオレンジジュースを頼み、彼女はミルクティー。

オレンジジュースなんて、ちょっと幼稚だったかなと思う。

でも、かっこよくコーヒーで。なんて言えない。

いつかは分るだろうその味を、僕はまだ苦いとしか思えないからだ。

互いの飲み物が運ばれてくると、一口飲み、ほっとする。

「ふふ、初野くんってやっぱり可愛いね」

「えっ?」

「オレンジジュースとか、すごく似合う」

えーっと、それって子どもっぽいのが似合うってことなのかな…

確かに末っ子だし、顔も童顔ってよく言われるけど、ちょっとがっかり。

フェンシングをしている時はかっこいいって言われるのにな…

でも、あまりにも彼女が嬉しそうに言うものなので、「ありがとう」と笑って応えた。

「あ。ところで、話って何かな?」

一息ついたところで、きり出すと彼女は頬を赤らめ俯いた。

「あ、あのね、初野くん」

「うん?」

「初野くんって、今付き合ってる子とかいる?」

「え…?」

付き合ってる…て、その、彼女がいますか、ってことかな?

「えっと、いないんだ…」

なんだか情けない返事になってしまい、恥ずかしく思う。

彼女もいないなんて、ますます子どもっぽいよな〜…

「ほんと?あ、あのね、実は私、前から初野くんのことが好きだったの…もしよかったら、付き合ってくれない?」

「へ…」

名前も知らない子が、僕のことをずっと好きだった?え、え、

「ええーっ!?」

「きゃっ、ちょっと初野くん!声大きいよ!」

「あっ、ご、ごめん!」

見渡すと、喫茶店の中にいた従業員もお客さんもみんな、僕の声に驚いた様子でこちらを見ている。

その状況に、ますます心拍数が上がり、ゆでダコ状態だ。

もうこれ以上、この場にいるのは耐えられない。

彼女もそれを感じ取ったのか、「もう出ようか」と苦笑しながら言った。

ひとまず、返事は保留ということで、僕は駅前で彼女と別れた。

ロボット状態で歩く僕の頭の中では、さっきの告白がぐるぐると回っていて、手に変な汗までかいている。

なんせ告白されたのなんてはじめてのことで、どうしていいのか分らないのだ。

その日はずっと、彼女の言葉が頭から離れないのであった。

***

こういう時に相談に乗ってくれるのだから、ほんとうに先輩方は頼りになる。

「はぁ!?告白された!?」

「しかも、名前も分らない同級生にか!!」

「は、はい…」

「ってそれで、返事保留とか…なんですぐOKしないんだよ初野ーっ!なんだよ、ソイツそんなにブサイクだったのか?性格悪かったのか!?」

「い、いえ…」

「なら、何故!何故OKしない初野おーっ!!」

「落ち着け鳥夜!そのウザさはもはや公害だ。黙れ!」

「むぐーっ!むむーっ!!」

日野塚先輩に口を押さえられてもまだジタバタする鳥夜先輩。

「ほんっとにコイツは!興奮しすぎだ、バカ」

ペシっと叩かれ、ようやく鳥夜先輩をは治まったようだ。

「す、すみませんお騒がせしてしまって(汗)」

「なんで初野が謝るんだよ(苦笑)コイツが過剰反応するから大ごとになってただけだ」

「はぁ…」

「コイツの意見はともかく、どうなんだ?名前も分らない、ってんじゃーちょっと話にならんが、もっとその子と話して、初野が好きになれそうだったらOKしてみたらどうだ?」

「そ、そうですね…」

まったくごもっともだ。分からないのに、すぐに答えを出しても失礼だし、

「じゃーん☆ここで鳥夜さんじょーっ☆初野にコクった奴、もしかしたら栗原智(クリハラ トモ)って子かもしてないッスよ?」

「えっ、ほんとうですか!」

「俺の情報網をナメんなよ〜?ちょーっと後輩にメールを送れば、パパっと分かっちまうのさ!」

「とりあえず、名前が分かってよかったな、初野」

「はっ、はい」

…ということで、その日の放課後、僕は彼女に「まだ気持ちが分からないから、お友達からじゃダメかな?」ということで話をつけた。

彼女は嬉しそうに、「いきなりごめんね。でも、嬉しい。これからよろしくね」と言った。

****

「はつのー!」

「あ、鳥夜先輩」

「あのさ、前に言ってたコンクールのモデル頼むって話。打ち合わせは今日の放課後でいいか?」

「はい、構いませんよ。今日は特に予定は…」

「初野くーん!」

「わっ!」

甲高い声と共に、駆け寄ってきた彼女は、恥ずかしい様子もなく僕に抱きついた。

ふわり、と香水の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「今日みんなでカラオケに行くんだけどー、初野くんも一緒に行こうよ!」

「えっ…あ、あの…」

鳥夜先輩の方をチラリと見ると、目を丸くしていてこちらを見ていた。

やっぱり先に約束したのは鳥夜先輩の方だし…

そう考えていると、彼女は少し悲しそうに目を伏せ、耳元で呟いた。

「だめ…かな?」

そんな顔をしないでほしい。僕らの後ろには、彼女の友人が数人待っていて、こちらの様子を気にしていた。

彼女と仲良くし始めてから、僕の周りには人がよく集まるようになった。

男女問わず、気さくに話しかけてくれて、時々その勢いに押されながらも、それなりに楽しい時間を過ごしていた。

お昼も一緒に食べるようになったし、放課後にはちょくちょく遊びに誘われる。

それはとても嬉しいが…先輩たちとの時間が減ったような気がした。

「トモー!初野くん無理そうだったら、うちらだけで行こうよー!」

その友人の一人が気を利かせたように叫ぶ。

彼女は抱きついていた腕をほどき、「無理言ってごめんね」と言い、友人の元へかけていった。

今にも泣き出しそうなのを堪えて笑顔を作るような…そんな顔をして。

彼女を傷つけてしまったかもしれない…焦りと不安が僕を動揺させる。

「…行ってこいよ」

「…へ?」

声の主は鳥夜先輩だった。

いつものいじわるそうな笑顔で、俺の肩をポンと叩き

「彼女、可哀想じゃん。コンクールまではまだ時間あるし、行ってこいよ」

先輩らしくない、穏やかな口調で言った。

「でも…」

「ばーか。あんな可愛い子、泣かすなよ?お前がいらないってんなら、俺が悩殺テクで、あの子を取っちゃうかもな〜(笑)」

おどけたようにそう言った後、「ほら」と背中を押された。

その勢いを借りて、俺は何も言わず彼女のところへ駆け寄った。

これでいいのだろうか…そんな思いが僕の胸をざわつかせた。

****

その後のカラオケは楽しかった。

みんなでワイワイ騒いで、歌って、あっという間に時間が過ぎていった。

帰りには、彼女と途中まで一緒に歩き、手を握られドキドキした。

手が汗ばんできてしまって、「ごめん、手が…」と言いかけると、「私もだよ(苦笑)…なんだか、緊張しちゃってダメだね」と笑った。

その笑顔が可愛くて、またドキドキしてしまう。

だんだん彼女に惹かれてきているのだろうか…彼女の行動一つにこんなにも気持ちが大きく揺れ動いて、どうしようもなくなる。

そして、彼女を家まで送り、自分の家へ着くと、一気にどっと疲れが押し寄せた。

部屋にはいるやいなや、ベッドに倒れ、「はぁ〜〜〜」と大きな息を吐いた。

しばらくじっとした後、ふとある疑問が浮かんだ。

(先輩たちといると、こんなに疲れないのに…なんでだろう…)

頭の中を廻らせているうち、母親の「早くお風呂に入ってー!」という声に思考は中断された。

***

次の日、僕はまっさきに鳥夜先輩のいるクラスへと向かった。

「あれ?初野。どうしたんだ?」

「あ、日野塚先輩、おはようございます!あの、鳥夜先輩いますか?」

「鳥夜…?なんだ、またパシられたのか?(苦笑)」

「いえっ!ちょっとお詫びとお礼を…」

「それはまた大そうな(笑)ちょっと待ってろよ。鳥夜ー!初野来てんぞー!」

日野塚先輩が呼ぶと、教室の奥の方から鳥夜先輩が出てきた。

「お、初野。ちーッス。どうした?」

いつも通りのおどけた調子に、心の中で安堵のため息が出る。

「えっと、昨日はその…お気遣いいただき、ありがとうございました」

「あーあー、それはいいって(笑)そーれーよーりー、あの子とはいい感じなのか?もうチューしちゃっ…イっテぇ!」

「朝からふしだらな話をするな!」

「たいちょ〜、どこの親父っすかそれ〜」

イテテ…と叩かれた頭をさすりながら言う鳥夜先輩に、日野塚先輩は「ったく…」と、呆れたよな顔を向けた。

僕はそこで危うく忘れそうになった本題を思い出した。

「あっ、あのそれで!今日は予定ないんで、コンクールの打ち合わせしませんか?」

ちょっとずうずうしいかもしれない…でも、コンクールも近いだろうし、打ち合わせは早めにした方がいいだろう…

今日で大体のスケジュールを決めて、それから彼女と遊ぶ約束も決めれば、昨日のようにはならないし…

「すみませんいきなりで…。今日は…忙しかったですか?」

すると鳥夜先輩は、ニコっと笑い、いつもの口調で言った。

「あぁ、あのさ、その話はもういいよ。今回は風景撮ろうと思ってさ。お前を撮るのはまた今度にするな」

その言葉に、全身が固まったような気がした。

石像のように、寸分のブレもなく、全身をきつく締め付けられるような…

しばらくして、「…え?」と上擦った声が漏れた。

日野塚先輩も驚いたらしい。

「何言ってんだよ…お前、今度のコンクールは頑張るって…」

「や、だからさ。たまには人じゃなくて風景でいこうかなって。俺、得意じゃないけど、これで賞取ったらすごくないッスか?」

いつものヘラヘラとした口調で紡がれる言葉を聞く度に、ドクドクと鼓動が激しくなる。

先輩との繋がりが切れてしまった、大事なものを手放してしまった、

どうしよう。どうしようどうしようどうしよう

視界はかすみ、頭はクラクラする。

「お、おい…初野…?」

気付けば、ボロボロと涙を流していた。

「ッ…」

僕は逃げるように駆け出し、ただ全てを遠ざけるように、遠くへと走った。

…先輩たちは、追いかけてきてはくれなかった。

***

「お風呂ー!先に入るわよー!もう…どうしたのかしらあの子…」

母親の声に応じず、僕はベッドの上に突っ伏していた。

「……っ…ぅっ…ッ」

ずっとずっと、先輩たちと仲良くしていたかった。

けれど、別のものに気を取られているうちに、先輩たちから離れていってしまった。

そっか…

先輩たちは、俺にとって一番大切な人たちで、

先輩たちといると、誰と何処にいるよりも、ずっと安らいで

だから、先輩たちとの今にも切れてしまいそうな関係が

ずっと不安だったんだ。

――「あぁ、いいよ」

もう僕なんて、いらないのかな…

笑って一緒にいれる自信、なくなってきたよ…

「初野ォッ!!」

「!?」

激しくドアを叩く音と共に、鳥夜先輩の怒声にも近い声が響いた。

「なっ…先輩!?」

「初野!勝手に上がりこんでごめんな!でも、よかったら開けてほしい!」

この声は日野塚先輩だ。

力強い、でも聞いたことのない焦った声で必死に呼びかけている。

もう訳が分からないまま、自室の鍵を開けるやいなや、ドアが勢いよく開き、鳥夜先輩飛びつくようにタックルをしてきた。

「バカ初野!泣くなよビックリさせんなよ!あーもうマジどうしようかと思ったじゃん!」

息も切れ切れに、鳥夜先輩は思い切り抱きしめ、僕の髪をわしゃわしゃと掻いた。

日野塚先輩も部屋に入って早々、床に倒れ息を整えている。

「初野〜…っ、ごめんなぁッ…あ"ー死ぬっ…」

開けっ放しのカーテンから零れる月明かりしかない薄暗い部屋の中、しばらく先輩たちの荒い息だけが静かにこだました。

なんだろう…近くにいるだけなのに、すごく落ち着く…

そっと目を閉じて、ゆっくりと息を吸った。

つ…と、涙が頬を伝う。

それは、安堵の涙。

こんな涙が出るのだと、この時、初めて知った。

僕を抱きしめていた鳥夜先輩が、腕の力を緩め、身体を離した。

すると僕が涙を流しているのを見て、すごく苦しそうな表情をした。

「泣くなよ…初野…、ごめんな…?」

「―……」

何か言おうと思っても、声が出ずパクパクとしてしまう。

「初野が泣くなんて、俺、思ってもなくて…あれでも気を使って言ったつもりだったんだけど…お前のこと、傷付けっちまったのかな…?」

「俺も…正直、ビックリした…。初野が泣いたのなんてはじめて見たし、というか、鳥夜の言葉にも動揺してたから余計にすぐ反応できなくて…。あの後、鳥夜と話し合ったんだよ、何で泣かせたのかって」

「せ、先輩たちって、そんなことするんですね…」

我ながらなんと間抜けな質問だろうと思うけれど、あの日野塚先輩と鳥夜先輩が真面目に俺について話し合うだなんて…想像もつかなかった。

「思考分析は隊長の影響ッスよ…まったく…。でも、おかげで気持ちの整理もつくようになったし…。…俺さ、ちょっと初野に嫉妬してた面もあった。隊長に言われて気付いたけど、心のどこかで思ってたんだろうな…。でもな、俺はお前が他の奴らと仲良くしてるのを見て、嬉しい気持ちの方が大きかったんだ。お前、あんまり社交的じゃない…というか、自分の内面をあまり見せようとしないから…人と、上辺だけじゃなくて、もっと深く付き合っていけたらいいんじゃないかって…」

先輩が、そんなことを思ってるなんて…知らなかった…

「鳥夜だけじゃない。俺もそう思ってるよ。初野は遠慮ばかりしているから、心配だったよ。ほんと、鳥夜が言うように、親父みたいな気持ちだった。俺らにでさえ、どこか壁を作っているように見えたし…」

「ちがっ…!先輩方だって、どこかよそよそしくてッ…俺、どうしたらもっと仲良くなれるだろうって…ッ、ずっと考えてて!っ」

はっと我に返って、俺は俯いた。

「……すみません、変なこと言って」

こんなこと言ったら、もっと先輩たちを困らせるだけだ…

「初野…」

先輩達は驚いたように、俺を見た。

日野塚先輩は大分息が整ったのか、ゆっくり立ち上がると僕の隣に腰を下ろした。

「違うよ、初野。俺らはお前が大切なんだ。だから出来るだけ、優しくしようって思ってる。それが余所よそしく見えたんだったら、ごめんな」

「でも、初野が本音言ってくれて嬉しかったぜ!困らせるぐらい、もっと我がまま言ってくれよ!」

結局、僕らは互いを大切に思いすぎていたばかりに、どこか距離を作っていただけだったのかもしれない

――もっと自分をさらけ出す。

それはとても勇気のいることで、でもきっと今よりも、より良くなれることで

これからはもっと、心から笑い合えるかもしれない。

***

数日後、僕は彼女を呼び出し、「やっぱり栗原さんとはお友達でいたいんだ。ごめんね」と自分の気持ちを伝えてきた。

ようやく分かったんだ…

「初野ー!はよーっす!」

「鳥夜先輩!おはようございます!」

「今日、朝飯食ってねーんだよなー。初野ー、何か買ってき…ぁ」

「ふふ、いいですよ。今、売店で買ってきますね!」

「いや!俺も一緒に行く!」

「へ!?」

「初野も何か買えよ!一時限目はサボってさ、一緒に屋上で食べようぜ!」

「鳥夜先輩…?」

「コンクールの話。モデルやってくれるんだろ?具体的な立ち位置とか、アングルとか、決めようぜ」

「…ッ…はいっ!」

少しずつ近づいていける。心の歩調を合わせて…やがて共鳴するように

少し照れくさくて、くすぐったい気持ち。

理屈抜きのただただ嬉しい気持ちが、一歩を踏み出す度、溢れ出した。



Fin.



〜その後〜

「先輩方って、どうしてそんなに仲が良いんですか?」

ふと、聞いてみたくなった。

「は?そんなに仲良いか?」

「うわっ!隊長ひどいっすよー!」

「だあー!気色悪い抱きつくなッ!」

「だ、だって…お互い遠慮がないっていうか…」

鳥夜先輩を押しのけつつ、日野塚先輩はウンと唸った。

「そうだなー…。まぁ、俺はコイツのことを知り尽くしたつもりっつーか…お互い恥ずかしいぐらい素を出しちまったっつーか」

「あはは!そうっすよね〜隊長なんかッげふう!」

「そっから先は死んでも言うなバカ鳥夜!」

「痛いっスよ隊長〜!!」

(や、やっぱり仲良いよな…)

「いってぇ〜…。つか初野、どうしてって言われても答えにくいっすよー。なんとなーく、いつの間にかなってるもんだって」

「なんとなく…?」

「あーそうだな。特にコレがあったから仲良くなったってわけでもないし…。やっぱり、お互い認め合っていれば、自然と深まっていくもんじゃないのか?」

つまりは、時が積み重なって出来るものもあって、

なかなか明確な答えは、出ないものなんでしょうね…






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