湊)――その瞬間に分ったんだ…
俺は、こいつが好きなのだと
『僕はそれでも歩いていく。【記憶】』
湊)――春先のことだった
大きな川を横目に見ながら、俺は母親と歩いていた。
ふと、横から はしゃぐ声が聞こえ、俺は視線を移した
裕)「あははは!とーんー!」
河原の土手で、一人の少女が楽しそうに走り回っている
夕)「ゆうひーおいでー」
湊)――父親だろうか?見た目は若いが、やはり纏う雰囲気が"父親"である。
裕)「うん!わーいっ!」
湊)「……」
俺は母親に手をひかれ、ソイツは父親の腕の中
と、ソイツは父親に抱きついたのもつかの間、腕からするりと離れると、黄色いタンポポ畑の中にダイブしていった
──その光景が、俺の心を動かした
湊)「お母さん…俺、ここで遊びたい」
母)「あら、あなた早く家に帰りたいんじゃなかったの?」
湊)不思議そうに尋ねる母に、俺は少し焦りながらも嘘をついた
「たんぽぽ畑がきれいだから…もっと見たいんだ」
そう言うと、母は嬉しそうに微笑んで、繋いでいた手を放した
母)「そうなの…じゃあ遊んでらっしゃい、ママここで待ってるから」
湊)「うんっ」
――はやる気持ちを抑えながら、土手を駆け下り黄色い場所に立つ
そして大の字で寝転がっている少女の所へ近づいた
目をつむっている表情さえ笑っているようで、胸がドキドキとうるさいほどに鳴り響いた。
湊)「なぁ…お前」
意を決して声をかけたのに、その返事は…
裕)「……んん〜」
湊)「って寝てるし…」
――気持ちよさそうに眠る少女を見て、とても起こす気にはなれず、俺は傍らに座った
風の音と、彼女の寝息と、川のせせらぎ…
ほどよい日差しの中で、水面に反射する光に目を細めながら、だんだんと意識を失っていった。
***
――霞む視界の中、さっきの少女が見えた
裕)「またあそぼ!」
明るいだけではない、優しく包むような笑顔に、俺は瞬きもできなかった。
裕)「約束な!」
湊)「まって…!」
裕)「ほら…呼んでるよ?」
湊)「え…?」
母)「そーた!そーた!(遠くから聞こえる感じで)」
裕)「ゆーびーきーりっ!な?」
湊)「あ…お前は」
母)「そうた!」
湊)「ッ!!」
【効果音:セミの声】
母)「はやく起きて、ほら、出かける準備しなさい」
湊)「へ…?ゆ、夢…?」
――本当に、夢…?
だって…
彼女とゆびきりした時の、体温の触れ合った感触がうっすらと手に残っている
(こんなにリアルなのに…夢?)
小指に触れ、そっと撫でる
彼女の温かい笑顔が浮かぶ…
混乱している俺の頭を母はぺちっと叩いた。
母)「いつまで寝ぼけてるの?ほら、今日は湊太があんなに楽しみにしてた遊園地なのに、ぼーっとしてちゃ勿体ないわよ」
湊)「あぁ…うん…」
――それが、奇跡の始まりで…
湊)「くっそー…迷っちまった…」
【遠くから裕桧の笑い声が聞こえる】
湊)「お。こういう時は、まず大人に助けを求めるんだっけ…」
「おいっ!俺、迷子なんだけど!」
――それは偶然なのか、必然なのか…
裕)「君、だーれ?」
湊)「だから、俺は深…っ!」
――夢の中でしかいなかったはずの彼女が見える
目を擦っても彼女は消えなくて…
そう…確か名前は…
(ゆうひ…)
しかし、夢は夢だ…顔が似ていただけかもしれない…
湊)「人に名前聞いといて、自分の名前も言わねーのかよ!」
裕)「よしうら ゆーひです!よろしくね!」
湊)「ッ!?」
――"ゆうひ"という言葉と、少女の笑顔
運命だ…
――彼女は、目が眩むほどの輝きを持っていて
その瞬間、分ったんだ…
――俺は…コイツのことが好きなんだ
fin.