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「セブー、セーブ!」




…まただ。猫か犬を探すように呼ぶなよ。静かな時間を邪魔するのはいつもあいつだ。僕だけが知っている場所だったのに。



ぱたぱたと芝生を駆ける音が地面に響く。そして巻き起こる生温い風。



「あ、やっぱりここだ。」



目の前に立つ彼女。本にかかる影。おい、邪魔をするなよ。あぁ、ほら。たった今読んでいたはずの文をもう一度辿るはめになるのだから。




切実な思いを胸に、少しずつ場所を変えても、何の嗅覚だというのだろう、やっぱり彼女は僕を見つけて。




「隣、いい?」



いつもそう聞く。僕の態度でわからないのだろうか。なんで僕の許可が欲しいのか。生憎ここは学校内のただの木陰で皆の共有地しかないから、嫌ならば自分が場所を空けるしかないのだけれど、それは悔しい。



それに、ここは僕の場所だと懇願してやるのも幼いだろうし、なにより悔しいから、威嚇をこめて睨んでも、彼女は鈍感なのかいつだって同じ風だ。




「煩くするな、話しかけるな。」




途端ぐっと口をつぐむ彼女はそれでもストンと腰を降ろして、嬉しそうに持参した本のページをめくるんだ。


女っていうのはおしゃべりなものだから。すぐ飽きて帰るだろうと思っても、夕暮れが迫るまで彼女はいつもそこにいた。




柔らかな風と、青い芝生、葉が揺れる度に芝生に写る二つ小さく伸びた影。



ページを交互にめくる音、二人分の呼吸、空気を介してふんわり伝わる体温。





こんな午後は予想よりずっと長く何度も続いて、それも悪くなかったと思ったのは卒業してからで。





もう一度、彼女があの不思議な嗅覚で、見つけに来てくれたなら。今度はきっと、素直に伝えることができるだろうか。




先の見えない暗闇の出口を照らすほどではなかったけれど、



あのひとときが、ほんのりと心を燈す明かりになって、それがなによりも暖めてくれたから。



でもそれを伝えたら、きっとあの笑顔で喜ぶから、それも悔しいし、秘密にしておこうか。



それでも傍に、いてくれるのだろう。あの芝生で、そうだったように。











あきゅろす。
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