『俺、結婚するんだ。』
何でそんな大事な事を、ずっと黙っていたの?
April fool
桜の花は、満開を迎えたと思ったらすぐに散ってしまう。
実りを迎えた恋は、食べ頃を過ぎれば何時かは朽ちてしまう。
其が私の考えている世の中の儚い物の法則だ。
その法則に従ってか知らないが、私は付き合い始めてもう何年も経つ彼と、最悪な形での失恋を迎えてしまった。
真面目すぎる(とよく人から言われる)私と、ちょっと不良のアイツとは子供の頃からの付き合いになる。
もっとも、今の様に恋仲という訳ではなかったのだけれど。
いつもいつも、口を開けば喧嘩ばかりしていた。ホントにくだらない事で、何度も何度も。
周りの目など、気にならなかった。その時は彼を叱ることに必死だったから・・
そして何年か経ってから付き合い始めた。真っ直ぐに気持ちをぶつけられると凄く弱い私は、アイツの、あまりの真剣さに頷いていた。
そうして、今日、こんな風に簡単に終わろうとしている。
「どうして・・・っ、そんな大事なコト言ってくれなかったの?!
私は貴方の何だったの?!」
いつもならば抗議をすれば何かしら反応があるのだが、何故か今日は遠い眼差しをして何処を見ているかわからない表情でクリスの前に居るだけだ。
何故だろう、交際は順調だと思っていたのに。
目から一粒、また一粒と涙が溢れ落ちていく。そうして量が増え、頬を伝い始めた。
だが、彼はちっとも彼女の表情を見ようとはしない。空を見上げながら淡々と話しているだけだ。
・・・新しい相手の女性の方が、私なんかよりもずっと魅力的だったのね。
『そう・・・、ゴールド、私はね、』
貴方が幸せなら、それで良いのよ。
涙顔で出来る限り最高に綺麗に見えるような顔で笑って、本当はまだ一緒に居たいという気持ちを隠して、今まで黙っていた彼への怒りを抑えてその言葉を絞りだした。
半分が本音で、半分が嘘。
貴方と幸せになりたかったよ、ゴールド・・・
そう心で本心呟き、その場から走り去ろうとした。
その時だった。
「ちょっと待てよ、学級委員長!」
先刻とは打ってかわって別人のような、いつもの調子で声を掛けられたのでクリスは拍子抜けしてしまった。
それと同時に、抑えていた怒りが煮えたぎり始める。
な、何よ!!サッキまでずっとずっとずーっと黙っていた癖にぃ!!
「何なのよ貴方は!!
いきなり俺結婚するだとか言っておいて誰ととか理由も話さないし、ずーっと黙っていたかと思えばいきなり大声なんか出して呼び止めしちゃって!
用があるならハッキリしなさいよ!!」
後半は息が切れかかっていたが、それでも全部、言い切れた。
「悪ぃ悪ぃ、ヒヒッ、今日何の日か知ってっか?」
そう悪戯っぽく笑われて、ハッとした。そう、今日は・・・エイプリルフール・・・!
「って!てコトは結婚は?」
「あ〜ん?嘘だっつってるだろうが」
まああながち嘘だけでもねぇんだけどよと言いながら、彼が取り出した小箱を見て、また嘘じゃないでしょうねと聞くその顔は緩んでいて、我ながら単純だなと呆れた。
その箱は、紛れもない彼からの、嘘偽りのない・・・。
fin.
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