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さようなら。

それすら言ってくれなかった君は、
僕の本当に愛しい人。











鉄錆の匂いがする



『亀山.....』



広がる血溜まり
消えない銃声
冷えてゆく肉体

俺の全てだったものが
壊れた。















「先輩...先輩!!」

「ん...?」

「起きて下さい、時間です」



目が覚めるとそこはいつもの騒がしい部屋。芹沢が隣に立っていた。俺は机に突っ伏して寝ていたのを思い出す。
時間になったら起こしてくれって言ったんだっけか。



「すまん」

「もー、先輩なかなか起きないから焦りましたよ」




立ち上がって服装を整えると芹沢が「外は冷えるから厚着したらいいですよ」と言った。



「芹沢」

「はい?」

「ありがとう」



にこりと笑って俺は部屋を出た。



「....えぇっ?!先輩大丈夫ですか熱あるんじゃないですか?!」









街はもう冬色に染まり、愉快なクリスマスソングが溢れている。
自分だけ切り離されている感覚。そんな中歩き出すのは少し辛かった。



タクシーを使わなかったのに意味は無い。歩きたかっただけだ。
しばらく歩くと大きな総合病院に着く。廊下も待合室も患者による飾り付けで華やかに輝いている。
だが伊丹が用のあるのはそんな輝かしい世界ではなく、隅の誰も近付かない一室だった。

さすがにもう警備は付いていないか。

それを確認して扉に手をかけた。


その時、内側から扉が開いた。



「あっ」

「...亀山夫人」



美和子は驚いたように目を見開く。



「伊丹刑事...」

「すみません、来てはいけない事は分かってたんですが」

「いえ、どうぞ」



病室に招かれ入る。
部屋にはベット。そこには沢山のチューブに繋がれた亀山が眠っていた。



「...私はこれで」

「はい」



上着と鞄を持ち、美和子は静かに病室を出て行った。



「...悪い、邪魔したか」



固く閉じられた瞼は開く様子も無く、呼吸器に囲われた口は何も喋らない。

まるで死んだように。
真っ白なベットに近づき、その顔を見つめる。



「...なんで」






なんで、あの時
殺してやれなかったんだろう
苦しませるだけだった





伊丹は持っていた鞄から袋を取り出す。ずっしりとした重みはまるで、これから起きる事を形にしたような重さだった。



「便利な世の中だ。パソコンをネットに繋ぐだけで何でも手に入るんだもんな」



喋りながら伊丹は袋を開ける。そして中から黒く光る塊を取り出した。



「全くおかしな世界になったもんだ。なあ、亀山?」



亀山はやはり、喋らない。
小さめの銃を向ける。
その、頭に。



「なんでだよ」



引き金に指をかける。



「なんで逃げたんだよ」



安全装置は外した。










「...なあ、薫?」







最初で最後の、愛しい呼び声。

そして世界は弾けた。











簡単に言えば、亀山は被疑者と逃亡を謀ったのだ。

ある麻薬組織の女が亀山に惚れ、亀山は女に夢中になった。そして亀山は警察に追われる女が逃げ出す手引きをした。

俺はちょうどその麻薬組織を追い、亀山が女を逃がそうとしているのを知った。そして追い詰めた。



『許して下さい...お願いです』

『駄目に決まってんだろ。大人しくすりゃ怪我はしない』

『伊丹頼む、見逃してくれないか?』

『黙れ』

『頼むよ...俺はこいつを愛してるんだ。ムショに入れたくねぇんだ』




一番聞きたくなかった言葉が、頭に響く。
しばらく、沈黙が降り、顔を上げた俺は笑ってみせた。



『...はっ!だったら逃げろよ』

『伊丹....?』

『お前の顔なんざ見たくない。とっとと消えろ』



亀山はぐっと押し黙り、そして女の手を引いて背を向けた。

それが決まりだった。



『....亀』



信じていたのに
戻ってきてくれると

俺は銃を二人の背に向けて躊躇いなく撃った。紅い花が幾度も咲き、二人は踊るように倒れる。



考えなど無しに
感情のままに
引き金は簡単に引けた。




麻薬組織は銃を所持している。お前らも持っておけと渡されたものだった。
結局女は死に、亀山は意識不明の重体。

これが俺の望んだ事?
自問自答の日々。
一ヶ月経って、やっと答えが出た。











お前は死なせない。
俺が殺そうと。






歪んだ愛情表現だ。
あくまでもこれは愛だ。
その証拠に俺は今でもお前を愛している。
だったらいいだろ?

なあ、亀山。


さあ、もうすぐ終わりが来るぞ。

真っ赤に染まったシーツ。その上で死んでいる人。
もう戻っては来ない
もう触れてはくれない
もう呼んではくれない
俺の、名を。

こめかみに当てた銃口は焼けるように熱いけど。
もうすぐそれも無くなる。
行き着く先は地獄?





「さようなら、ばかめ」











宗教に救いを求める様に

死に救いを求めた

俺に神なんていないから
















真っ赤に燃える街。
夕日が全てを朱色に染めて、今日の終わりを示唆していた。
真っ直ぐな一本道。誰もいない道に俺はいた。
隣にはいつものでかい奴。



腐れ縁か?



そう聞くと困った様に笑った。



笑ってんじゃねぇ

俺はまだ怒ってんだ

悲しそうな顔をするな

言い訳は聞きたくない

でも、

お前が決めた事だ

仕方ないよ



俺は手を差し出す。



疲れた

引っ張ってけ

嬉しそうに笑うんじゃねぇ

ばか

ずっと俺の側にいろ





鳴呼、俺達は馬鹿だ

だからこそ....



















「なんでですか、先輩」

芹沢はその場に崩れ落ちた。

目の前には血の海

その中にはさっきまで笑っていた人

残酷な部屋に一つ、静かな鳴咽が響き始めた。













「っていう夢を見たんですよ〜!!」



嬉しそうに語るのは芹沢だ。



「見たんですよじゃねぇよ馬鹿野郎死ね」

「はぐあっ」

「なんで俺が亀山殺すんだ。ありえねぇ」

「でも愛情と殺意は紙一重ですから」

「俺と亀を語るな」

「わわっ先輩煙草振り回さないで下さいっ!!」

「おっ何何喧嘩?」

「亀山せんぱーい!!助けてー!!」

「何がどうなってんだ」












(07.2.28改)
夢オチか!
実はこの夢オチが結構好評だったりします。














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あきゅろす。
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