【ヒロと田邑の話。】
自分は背が低い。
いつからだろう、それがコンプレックスだと感じるようになったのは。
自分の教室へと向けて歩いている間ずっと考えていた。
そもそもの始まりは――
「田邑ってさぁ、身長いくだっけ?」
「え〜と、162cmだったと思うよ。」
「へぇ、チビじゃん。」
休み時間に言われた友達からの一言だった。
いつもは気にしないはずなのに、今日は頭の中にずっと残っている。
"背が低い"
もしかしたら女子よりも低いかもしれない。
自分の身長が伸びなくなったのは高校に入学してからだ。
そっか、考えてみれば玲奈先輩よりも背が低いんだよな。
「あぁ〜……俺ってなんで小さいんだろ?」
ヒロは俺よりも身長が高くて、体格が良くて、かっこよくて、暖かくて、優しくて――
それは関係ないか。
とにかく俺なんかよりもずっと背が高い。
「俺ってヒロに不釣合いなのかな。」
一度思い込んでしまうとどこまでも落ちていく。
自分がどんどんダメな人間に思えてしまう。
「田邑君〜。どうしたのこんなところで?」
後ろから急に声がした。
「玲奈先輩こんにちは。先輩こそどうしたんですか?」
「だって田邑が2年生の教室の前を歩いてるんだもん、なんだか珍しくてさ。」
「えっ!?」
周りを見渡すと上級生だらけだ、考え事をしながら歩いているうちにこんな所まで来てしまったのか。
「すいません。少し考え事してました。」
「それって町田君とのことかな?」
「いえ、今日は違うんです。その、ちょっと、個人的なことでして。」
玲奈先輩の目の色が変わった。
「そういうことは先輩に相談するのが一番!ほら、言ってみなさい。聞いてあげるよ。」
「わざわざ聞いてもらうようなことでもないですよ。」
「いいから、早く言いなって。」
言わないと帰してもらえないんだろうなぁ。
「わかりました。言いますよ。」
「うんうん。それで、どうしたの?」
「実は――」
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「――で悩んでいたんです。」
「そっか。でも町田君はそんなの気にしないと思うよ。」
「でも、直接言えないだけかもしれませんし……」
「ということらしいけど、どうなの町田君?」
『そういうことか』
「ヒ、ヒロ!?なんでここに居るの!?」
「お前が2年生の教室に行くのが見えてな、気になって追いかけた。」
「今の話、き、聞いてたの?」
「あぁ、玲奈先輩が目で合図をくれてね。」
その玲奈先輩はもう居なかった。
あの先輩には適わないなぁ。
「とりあえず、授業始まるから教室戻ろうぜ。」
「うん。」
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「な〜んでいつもお前は1人で悩みを抱え込むのかな。オレってそんなに頼りない?」
放課後の帰り道、ヒロが急に話を切り出してきた。
「そんなことないよ。けど、背が低いのは事実だし。」
「田邑は俺のこと好きか?」
「きゅ、急にどうしたの!?」
「いいから、俺のこと好きか?」
ヒロのことは、もちろん。
「うん、好きだ。」
「俺もお前のことが好きだ。」
「うん。」
「それでいいんじゃないか?」
「……へっ?」
「だから、それでいいんだよ。好きなんだから。」
「???」
「お前の手も、髪も、唇も、もちろん背が低いのも。全部俺は好きだ。全部お前だもん。」
「ヒ、ヒロ。」
ありがとうヒロ。俺もヒロのこと好きだよ。
ぜ〜んぶ大好きだ。
「それにさ、」
「それに?」
「それに……このほうがキスしやすいだろ。」
fin
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