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「リン…そこで何してんだ?」


別棟にあるマスターの家から戻って来たレンは、リンの姿を発見するなり不思議そうに問う。

驚くのは当然。だってリンは、レンの部屋の扉の前で行く手を塞ぐように足を抱えて座っているのだから。


「見れば分かるでしょー?レンを待ってたの!!」


レンの問い掛けに、視線だけ上に向けて答える。

口を閉じると直ぐに頬を膨らめてしまうリンは、とても不機嫌な顔をしてるんだろう。

それにレンが気付かない訳もなく、困った様に眉を寄せるとリンと目線を合わすようにしゃがみこむ。


「何だよ…どーかしたのか?」


まるで理由が見付からないと言いたげに問うその言葉に、リンの怒りはより高まる。

思わずキッと睨み付けるようにレンの目を見ると口を開く。


「どーかしたのかじゃない!!」


そんな様子に驚いて、レンは目をパチクリさせてより困った顔をするので、リンは声を上げた。


「レン、最近リンに冷たいよ!!」
「はぁ?」


不満を言葉にぶつけたにも関わらず、間の抜けた様な声で返すレンに益々イラだって言葉をどんどん並べた。

そう。レンは最近リンに冷たい。

11月の真ん中くらいから急に1人の仕事が増えて、忙しくて全然会えないし。

帰って来ても疲れたって言って、すぐに部屋で寝ちゃうし。

おとといからはついに部屋に鍵までして、リンを入れてくれなくなって…

明日は12月27日。二人の4回目の誕生日なのに!!

毎年どんな風にお祝いしようかとか、どんなケーキが出るかなとか、一緒に心待ちにするのに…全然楽しめない!!


「レンはリンとの誕生日なんてどうでもいいんでしょー!?」


思いのままに言葉を並べていくうちに、どんどんと気持ちは昂って、目頭が熱くなる。

でも泣くのは何だか悔しくて、必死に眉に力を込めると膝を抱える手が震えた。

圧倒されたみたいに何も言わずに聞いていたレンは、ほんの少し間を置くと急に下を向いて口元を押さえる。

あまり見ないレンの反応に急に不安になって、様子を窺いながら覗きこんだ瞬間。


「あー駄目だ!!あははは!!」


と、急に堪えきれないとばかりに声を上げて笑いだした。

予想外すぎる反応に呆気に取られて一瞬目を丸くした後に、すぐ怒りが込み上げてリンはまた眉を寄せた。


「リンは真剣なのに何で笑うのー!?」


頬を更に膨らめてムキになって両手をバタつかせると、レンはごめんごめんと片手を顔の前で添えて見せる。


「いや…まさかそんな風に見えてたなんて思わなくてさ。」


何だか勝手に楽しそうに片眉を下げて笑いを堪えるレンの、言いたい事がまったく分からない。

そう言いたげに未だに剥れるリンの頭を、レンがポンッと叩く。


「本当は夜まで待たせようと思ったんだけど、もういいよな!」


今度は1人納得した様に頷いてみせるので、リンはもっと意味が分からなくなって首を捻る。

するとレンは徐に立ち上がり、ポケットから部屋の鍵を取り出して鍵を開ける。


「はい。部屋入っていいぞ!」


一歩後ろに下がると、ドアノブを手で指し示して促される。


「入っていいぞって…!!別にリン、部屋に入れないだけで怒ってる訳じゃないよ!!」


昨日まで頑なに開けてくれなかった鍵を簡単に外して、今度は入ってなんて都合良すぎる!!

それにリンがどかないとレンだって部屋に入れないんだからね!!

だけど不満を口にした所で、レンの表情は崩れずに何だかもどかしくなって来る。

あー難しく考えるのはもー疲れた!!

ぐちゃぐちゃの頭は上手く回らずついに立ち上がると、言われた様にノブを回した。


「もう!!部屋に入ったからってなん、なの…」


文句を言いながら勢いよく開いた扉の中の光景を見て、声は尻窄みになって目を大きく見開いた。

そこには黒や青でコーディネートされて落ち着いた雰囲気の、いつものレンの部屋の様子は無かった。

代わりに黄色や黄緑やピンクのカラフルな星形のクッションが置かれ、ハートの風船が何個も浮いていて…

壁には紐に通された逆三角の旗が飾られて、そこにはアルファベットが一文字づつ書いてある。

H.A.P.P…上手く機能しない頭でそこまで読んでハッとして目をパチクリさせた。

そう。部屋の中は可愛らしく賑やかに飾られた、お誕生日パーティーの会場になっていたのだ。


「すごい…すっごーい!!何これ!?何これ!?どういう事ぉ!?」


思考回路と感情が合わさると、急に訪れた感動の波で目を輝かせてリンは興奮気味に声を上げる。


「リンは本当に、思った通りの反応くれるよな。はぁ…驚いてくれて良かったよ。」


そんなリンを見て、安心した様な嬉しそうな顔で声を出しながらレンは小さく笑う。


「二人で12時越えたらお祝いしようと思って、用意しといたんだよ。」


お誕生日はいつもみんなに夜ご飯の時に、お祝いしてもらって。

その後にレンの部屋で歌のプレゼントをするのがお決まり。

だから12時を越える瞬間は、二人でおめでとうって言って終わるだけなのに。

そこでやっとリンは夜まで待たせようとしてたレンのさっきの言葉を思い出した。


「えー!?何で黙ってたのー!?」

「だから、驚かせたかったんだって。」


言ってくれたら怒ったりしなくてすんだのにと、自分の行いを振り返って少し不満を溢す。

それに対してレンは小さく溜め息を吐く。


「つーか、リンが言ったんだからなー。」

「ふぇ??」


呆れた様な口振りで言われて、リンは何の事か分からずにキョトンとする。

そんなリンの反応を見てレンは肩を竦めながら、言葉を続けた。


「サプライズがしてほしいとか言ってただろ?」


レンが怪訝そうに問う言葉に、ほんの少し間を置いてリンはあっ!!と声を出す。

そうだ!!確かにリンが言ったんだ!!

メイちゃんのお誕生日にサプライズでカイト兄がお祝いしたって聞いて、いいなー楽しそうって。

それでレンにお願いしたんだ。

リンにサプライズして!!って。

口元に手を当てるリンの様子に、やっと思い出したか?と言いながら口を開く。


「祝われる本人から、言われた時点でサプライズじゃないと思ったけど…丸っきり忘れてたのかよ…?」

首を傾げて問われたので、大きく首を縦に振ると、だよなと乾いた笑いを浮かべる。

だけど、まぁ忘れてた方が良かったけどと付け足す。

そんなレンの言葉を横耳で聞きながら、リンは賑やかな部屋の中にある物を見付けた。

目に入って来たのは、リンの背の半分くらいある大きな大きな包み袋。

中には何かが入っている様で、パンパンに膨れている。

袋口はリボンで綺麗にラッピングされていた。

それはどこからどう見ても…!!

思わずリンはその横に飛び付いて、指をさす。


「れれれ…レン!?これ、これもしかして!!」


声を上擦らせて動揺を隠せないリンを見て、レンは恥ずかしそうに咳払いをする。


「そう。プレゼントだよ。」


リンはその言葉に、口を魚みたいにパクパクさせた。

だって誕生日は4回目だけど、レンに歌以外のプレゼントを貰ったのは初めてだもん。

誕生日はみんなからプレゼントを貰える代わりに、お互いへはVOCALOIDらしく歌を唄う。

それが決まり事みたいになっていた。

と、言うより。マスターの金銭的問題がどうとかメイちゃんが言ってた気がする。

だから、レンから貰えるなんて夢にも思わなくて驚き過ぎて声にならない。

そんなリンの横にレンはあぐらをかいて座ると、照れて仏頂面になった目でチラリとそれを見る。


「開けてみれば…?」

「いいの!?」


まるで他人事みたいにそう言うレンに、リンが興奮して声を上げればコクりと頷く。

リンはそれを合図にリボンをほどくと、ワクワクドキドキしながら大きなその袋を開けた。


「わあ!!可愛い!!」


中に入っていた大きなクマのぬいぐるみが顔を覗かせた瞬間、歓喜の声を上げて抱き締める。

ふかふか柔らかい感触に、堪らない気持ちになって顔を埋めた後に、抱き締めたままレンに向き直る。


「ありがとうレン!!すっごい嬉しい!!」

「おう…。」


満面の笑みを向ければ、レンは頬を掻きながら頷いた。

このクマのぬいぐるみ、すっごく高くて絶対に手に出来ないと思ってたんだ!!

だから嬉しくて幸せで…そこでふと気付く。


「あっ…もしかして最近忙しかったのって…」
「皆まで言うな。」


リンの言葉を遮るとウンザリした顔で、空を見るのでそれだけで全てを悟った。

お小遣い多くしてってマスターにお願いする為に、仕事選ばずに色々やったんだね…

レンのここ一ヶ月の忙しさを思い出すと、そのいろんな意味での過酷さは嫌でも分かる。


「そんな苦労してまで、どうしてそんなにしてくれるの?」


と、ふと思い立った事を口にすると、レンは深い溜め息を吐く。


「やっぱりこれも忘れてるんだなー。」


えっ?と考えてるリンを待てないとばかりにレンは、代わりにそれを口にした。


「サプライズの時と一緒だよ。」


レンの言うところ、どうやらその話の流れでメイちゃんがプレゼントを貰っていたらしく…。

リン達もお互いプレゼントを、用意しようという話をした様だ。

勿論…サプライズで。お互いに。

その単語に、一気に身体中の血の気が引く音がしてリンはクマから手を離すと膝を抱える。


「レンくん…」


急に改まった口調で膝に顔を埋めるリンの態度に、不思議そうにんっ?と声を返す。

ああー言い逃れ出来る訳無い重大な事を、リンは意を決して告げた。


「ごめん…。リン、プレゼント買ってません。」


細々とした声で素直に伝えると、レンはあっけらかんとした声を出す。


「何だ、そんな事か。大丈夫だよ。そんな事だと思ってたから!」


何ともレンらしい優しくて諦めに近い言い方に、リンは勢いよく顔を上げる。


「全然良くない!!それじゃあリンの気がすまないもん!!」


そうだよ!!レンは毎日身を削ってまで、リンの為に頑張ってくれたのに…!!

リンだけ何もしないなんてヤダもん!!

でもお金は無いし、今から用意しても遅いし…うう…

頭を抱えて悩みに悩んで出た苦し紛れの答えを、リンは真剣な顔で伝える。


「リンはレンに『リン一日券』上げる!!」


その答えにレンは案の定、はぁ?と怪訝そうに声を出すので、リンは負けじと声を上げる。


「あのね!その名の通り、1日リンを自由にしていい券なの!!何でもするよ!!」


レンの目をじっと見て、嘘じゃないよと念を押す。

そんなリンの言葉を反復する様に呟いたレンは、目を見開いたまま数秒の間をあける。

息を飲む音が響くんじゃないかと思う静寂を破ったのは、本日二度目のレンの笑い声だった。


「あはははは!!」

「もー!!リンは本気で言ってるのにー!!」


眉を下げて不満を漏らせば、レンは後ろに仰け反りながら分かってると言う。


「あはは!!いや、それすげーよ!!めっちゃ豪華じゃん!!」

「豪華?」

「うん。オレにはマジで豪華だわ。」


一生懸命考えたプレゼントだけど豪華かどうかは、疑問。

でもレンの笑い声が続いてるし、喜んでもらえてるみたいだし…いいのかな?

あまりに大きく口を開いて笑うレンの顔を見ていると、何故だか楽しくなって来てリンもついには笑い出す。


「もーレン!!笑いすぎだよー!!」

「悪い悪い!!」


それから二人して声を揃えて笑いながら、時計の針は間も無く12時を指し示す。

三年目の終わりも、四年目の始まりもレンと一緒に笑いながら過ごせる幸せを噛み締めながら…

ハッピーバースデー!!

これからもずっと一緒にいようね!!

そう、願いを込めた…―――



〜fin〜






*あとがき*

■リンちゃん、レンくん!!お誕生日おめでとう!!

日常ぼかろな鏡音書きやすいなー可愛いなーニヨニヨ//←

実はこの話はRLM4用に描いた絵に合わせたお話しでした(・∀・)

ダメで元々当たって砕けたRLMのイメージイラスト枠でしたがww

主催のアンメルツPさんの粋な計らいでエンディングに参加させて頂く事が出来ました!!

大感謝です(/ω;)

イラストを描くテーマに
『笑顔とそれに見合ったシチュエーション』というものがありまして。

それならばそれにあった鏡音誕な話を書いたらいいんだと思いました(・∀・)

レンくんの笑顔なんて裏話でもなければ描けないもの←

んで!!ちょうど椿からで『リンちゃんの一言に吹き出すレンくん』を描いて!!

と貰ったお題も加わってこんな感じに、完成したお話しだった訳です(*^_^*)

絵ありきのお話しというのもまた新鮮でww

何より笑うレンの新鮮な事ww

何はともあれ!!お誕生日おめでとう!!鏡音好きだあああ!!!!!

2011.12.27






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