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調整ルームは、隣接するマスターの家にある。

普通の家と何ら変わらないが、マスターの部屋と調整ルームだけは、特殊な精密機器に囲まれている。

「別にリン達どこも壊れてないよー!?」


リンが不思議そうにマスターに問う。
オレもまったく同じ気持ちだ。

調整ルームと言うだけあって、そこを使うのは体に何かしらの支障があった時だけ。

オレ達はアンドロイドだから、病院には行かずにここで診てもらうのだ。


「あはは。もちろん!!
それは解ってるよ!!」

「じゃあ何でわざわざここに来るんだよ?」


それを聞いてから、オレはハッとした。

それ以外にも、この部屋を使う時を知ってる。

オレは目を見開いてミク姉を見る。

ミク姉はそんなオレに対し、目を細めて笑った。


「レンは気付いたみたいだね!」


マスターもそんなオレ達を見て、目を細めて笑うとひとつ咳払いをして声を上げた。


「そう!!ついに君達の新しい声!!
『Append』が出来上がったのさ!!」


マスターが声高らかに発表する。

今この瞬間まで、聞かされていなかったオレとリンは、目を丸くした。

みんなの顔を見渡せば、みんなが優しく笑っていた。


「え、えぇ!?アペンドって、ミクちゃんがインストールされた、あれ!?」


リンは動揺が隠せずに、声を上擦らせながら聞くと、マスターが大きく頷く。


「その通り!!君たちにプレゼントだ!!」


胸が高鳴った。

そう、ミク姉が4月にインストールされた新しいシステム。

『Append』

それまで以上の声質の幅が広がるだけじゃなく、より美しく質のある声になった。

と、ミク姉の歌姫伝説に輪をかけた。

正直、憧れたし羨ましいと思ってもいた。

その『Append』がオレ達に…


「レン、あんたも反応しなさい!!」


メイコ姉に肩を叩かれて、オレはやっと声を出せた。


「…いや…何か言葉もないつーか…」


リンに目を向ければ、何度も首を縦に振って見せた。


「あはは!!サプライズ大成功だね、マスター!!」

「だな、カイト!!」


悔しいが本気で驚いた。

誕生日に合わせてくるなんて、粋な事をしてくれる。


「さぁ、リンちゃん。レンくん。フォームチェンジの時間だよ!!」


ミク姉に優しく背中を押されて、オレ達は一歩踏み出す。


「じゃあ、そこに立って。」


そうマスターに促されたのは、床に設置されたコントロールパネル。

それがメインパソコンと繋がっていて、そこに立つだけでパソコンとロードできる。


「何かドキドキするね!!」


リンが胸を押さえながら、眉を下げてオレを見てヘラッと笑う。


「あぁ、だな。」


たぶん2人揃って、心臓がバクバク高鳴っるんだと思う。

それは期待と、ほんの少しの不安。

リンがそっとオレの手を握ってくるので、オレもそれを握り返した。

コントロールパネルに、一緒に足を踏み入れる。


「それじゃあ、インストール開始するよ!!」


マスターが嬉しそうに声を上げて、パソコンのキーボードを押す。

するとコントロールパネルが黄色く光って、オレ達を照らす。

一瞬、視界が遮られて思わず目を閉じた。

体の中が、脳が、服が…組み込まれて、変わっていく不思議な感覚。

体に熱が込み上げて、それが数分経って消えていく。


「無事に、完了したよ!!」


マスターの声に目を開く。

最初に目の前に飛び込んで来たリンの姿に、目を見開いた。


「リン!!その服!?」
「レン!!その服!?」


声が被って、お互い次に自分の姿を確認してまた驚く。


「どーだ!!Append版の衣装は!!」


マスターが満足気に声を上げた。

「うわぁーカッコいい!!」


リンは嬉しそうにクルクル回って見せる。

今までのセーラー服衣装と一変した、サイバーチックな衣装。

リンは白とグレー。オレは白と黒を基調とした作り。

どうして腹チラなのかだけが、気掛かりだが…ちょっとカッコいい。

新しいヘッドフォンと、お揃いのベルトは、特殊な形をした光沢のある金属製。

何というか近代的な衣装だ。


「あら、リンさんとても素敵です!!」


ルカ姉にそう言われて、リンがへへへと笑う。

うん、そこはリンだけな訳だ。


「チョーカーは、その服に合わせたんですよ!」


そう言われて、さっき貰ったチョーカーを思い出す。

成る程。それならば納得だ。


「コラコラ君達。進化したのは衣装だけじゃないぞ!!」


マスターの言葉に、主旨を思い出す。


「えーリンとレンに追加された声はだな…」


得意気に人差し指を立てて、マスターが語りだす。

リンにはpower、sweet、warm。
オレにはpower、serious、cold。

の、3つの声質が加わった。

歌や場面で変えられる声は、ミク姉の時と同様に格段な飛躍を遂げた。

と、言われても当のオレ達には実感がない。

それを言ったら、そうだよなとマスターは笑う。


「んじゃあ、試しに歌ってみよう!!」

「はっ!?そんないきなり!?」


などと言う、オレの静止など聞きもせずにマスターは曲を流す。

それは何度も歌った二人の歌。

リンと目を合わせる。

本当に変わっているのかと、半信半疑で二人揃って口を開いた。

―――〜♪

瞬間、自分達の口から出た音に、唖然とした。

今までと全然違う。

滑舌が悪いやら、音程を外すやらと悩まされたオレ達が、何とも滑らかに歌える。

時に力強く。甘く。切なく。温かく。低く…。

今まで出来なかった事が出来るようになり、今まで出来ていた事が伸び。

正にオレ達の歌声は進化をした。

これが『Append』!!


「どうだ?リン、レン!?」


歌い終わったオレ達に、マスターが問う。

オレとリンは、興奮と感動でもう何と言ったらいいか分かずに目を合わせる。

お互いに頷きあうと、マスターに目を向けて口を開く。


「「ありがとう、マスター!!」」


声を揃えて言った言葉に、マスターは目を見開くと、照れ臭そうに笑った。


「鏡音リン.レン。新たな伝説の始まりだな!!」



オレ達VOCALOIDにとって命とも言える、『声』。

これまで以上に色んな歌が歌える喜びは、言葉に現せるものじゃない。

とても最高のプレゼントをオレ達は受け取った。

返し方はひとつだけ。

この声で歌い続けること…!!




>>>NEXT→present3 Rin⇔Len


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