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「ふわぁ〜!!凄いねー!!」

「すげーな。」


きらびやかに装飾された、でかいツリーを見上げてオレ達は歓声を上げる。

全長2m程あるクリスマスツリーは、天井の高い部屋の入口に構えていた。


「ふふん。どうだすげーだろ!?」


ミクオがそれに反応して、何故か鼻高に腕を組んで見せる。


「別に凄いのはお前じゃないし。」

「はーん?何だよ、バナナ。
お前ん家のマスターじゃこれは出来ねーだろ?」


オレの冷めた言葉に、勝ち誇った様にミクオは食い付いてくる。


だが、悔しいがそれだけは事実なので、何も言い返せない。


「ミクオ…君ん家のマスターと、僕を一緒なしないでよ。」


後ろでうちのマスターが、苦笑いしながらそう言った。


「やぁやぁ向井!!オレの家にようこそ!!」


ミクオの後ろから輪をかけて、鼻高なふんぞり返ったヤツが出てくる。

コイツが亜種んちのマスター。

ちなみに向井はうちのマスターの名前。

二人は大学が一緒らしい。


「はいはい。お邪魔するよ檜山。」


マスターは呆れた様に笑って言った。

どうやら檜山の事が苦手らしい。

分からなくもないな、うん。




今日はクリスマスイヴ。

ボカロマスターとボカロ達の合同のクリスマスパーティーが毎年繰り広げられる。

まぁ、とは言え大人数。

うちの家では狭いので、場所の提供は亜種んちのマスターの家で行われる。

亜種んちのマスター(檜山)は、まぁ俗にいう大富豪。

父親がどっかの社長してるらしいけど、よく分からない。

とにかく家が無駄に広く、パーティー会場なんてのもある。

なので、毎年ここに集まるのが決まり事になっていた。



「「メリークリスマス!!」」


全員が揃いみんなで声を高らかに乾杯。

長いテーブルに無駄に豪華なベルベットの赤いクロスが掛けられている。

その上にはこれまた豪華な食事。

ミクオの生活がこれが主だと思うと、何故だろうイラッとするな。


「リン!!これ、旨いぜ!!
リンの為に用意させたんだから、食えよ!!」

「うわぁい!!美味しそう!!」


いや、イラッとするのはむしろ目の前の光景だ。

何故かリンとオレは向かいの席。

広いテーブルだと、話すのもままならない。

しっかりとリンの隣を陣取った、ミクオの悦に入った声がより苛つかせる。


「おいしーねー!!」


リンはそう言いながら唐揚げを頬張る。

まぁ、そんな事をリンが気にするはずもないよな。


「ちょっとレン!!私の隣がそんなに不満な訳!?」


眉をひそめるオレを見て、隣に座ったネルさんもまた眉を寄せる。


「い、いや別にそんな事ないですよ。」


慌てて言えば、ネルさんは今度は目線を外して顔を赤らめる。


「私は…嬉しいとか…言ってやらないんだから!!」


あははと空笑いが出た。

ネルさんのツンデレに着いていけない、何て言えない…。

それを見て咲音が実に楽しそうに笑ってるが、放っておこう。

何て事を思いながら、オレはご馳走に手を伸ばす。


しかし、ボカロ全員が集まると本当に人が多い。


「うわぁ!!テトさん!!メイちゃん!!僕は無理だよ!!」


テーブルの端に座った大人組の中、カイト兄が情けない声を上げる。


「カイト。君は実に馬鹿だな。」

「そうよ、バカイト。
こんないいお酒呑めない訳がないでしょ!!」


ザルのテトさんと、酒乱のメイコ姉は二人揃ってすでにワインを何杯か飲んでいる。

あの二人に囲まれれば、カイト兄が声を上げたくなる気持ちも分かる。

潰れるのも時間の問題だな。

その後ろで、ひっそりと一升瓶で仲間に入ろうとするハクさんが気になって仕方ないが…。


「ミク!!これ見てくれ!!
ミクの為に用意したんだ!!」

「わ〜ありがとう、檜山さん。」


ミク姉の横を陣取った檜山は、ミク姉の前の料理を得意げに紹介する。

さすがミクオのマスター。

このマスターにして、あのボカロありとはコイツの事を言うな。

明らかに媚びを売るために、そこにだけ妙にネギ料理が並ぶ。

多すぎるだろうと思うくらいに。

それに対し、がくぽが席を立ち上がり過剰反応をする。


「ぬぬ!!檜山殿!!姑息な手を使いおって!!
ミク殿!!拙者はミク殿の為に、今日ネギ味噌を持ってきたでござる!!」


と、和紙でのし紙風に、ラッピングされた真空パックを取り出した。

あそこ一帯は確実に、ネギ臭い事間違いない。


「何だとがくぽ!!オレはミクの為に!!ミクの為に!!この料理を用意させたんだ!!」

「…檜山さん。がくぽさん。」


念を押すように声を上げる檜山に、ミク姉は目を細めて笑いかける。


「ありがとう。
だけど私こんなにネギいらない!」


悪びれも無く…いや、100%の悪意を向けた天使の笑顔に、二人が固まる。

そんな奴らに、ミク姉の左隣に座るルカ姉がとどめを刺す。


「単純すぎですよ。ゴミ野郎共。」


冷ややかな笑顔の下げずむ言葉に、何故かその隣に座るうちのマスターまで凍り付く。

あぁ…確かにやってる事は、うちのマスターも変わらないからな。

いや、アイツらはあれを喜んでる節があるから懲りないだろう。


「レンくーん!!」


そんな観察をしていると、後ろからグミの声が聞こえた。


「レンくーんはいつでも浮かない顔してるねー!!」

「ほっとけよ。」


グラスを差し出されたので、乾杯してやる。


「大丈夫!!今日は何も持ってきてないから!!」

「そりゃー良かったよ。」


心底そう言えば、グミは今日はねと念を押す。

本当にぽいど兄弟には、いい加減にしろといいたい。

いや…一番それを言ってやりたいのは…


「はいはい。マスターにも乾杯してあげて!!」


グミが後ろにいる、揺る巻きボブの女性の背中を押す。

これは葉月。通称ぽいど家のマスター。

葉月は、オレと目が合うと瞳を潤ませる。


「…レンくん。こ、こんばんは。」
「はは、ども。」


乾杯してやると、葉月は体を震わす。


「グミ!!見た!!わ、私…レンきゅんと乾杯しちゃったっ!!」

「うんうん!!マスター!!凄いね!!」


何だか知らんが、葉月は興奮している。

そう、一番言ってやりたいのはこの女、葉月。

コイツが元凶で、ぽいど兄弟が変態になったと言っても間違いない。

妙な写真撮らせたり、変な服を着せようとしたりと…

うん。コイツのイメージに良い所が見つからない。

つーか今のこの状況…酷過ぎやしないか??

ネルさんは葉月に対して、何だか敵対心剥き出しだし。

咲音は面白そうにクスクス笑うし。

さすがに堪えきれなくなり、オレは立ち上がる。


「ちょっとトイレ行ってくる。」


そう言えば、着いてくると葉月が言い兼ねないのでオレは足早に逃げ出した。




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