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彼方さん達の行方を探して、私は旅館を飛び出し、深夜の村へと出た。
探す宛なんてなかった。
村は広いようで狭い、みんなが行く場所なんて、龍神の社や雪月雑貨店、橘診療所、遠くて龍神の滝だと思ってた。

しかし

どこにもいなかった。
それらを探しても見つけられなかった私は民家を一軒一軒、虱潰しに廻ることにした。

どんどん

「すいません!お聞きしたいことがあるのですが!」

深夜とあって出てくる様子はない。

「あれ、しぐれちゃん!」

声の方へ振り向くと、龍神天守閣に配達に来てくれるおじさんがいた。

「どうしたんだい?こんな夜中に女一人で」
「ああ、あの!旅館から彼方さんや澄乃さん、ほうせ…、芽依子さんがいなくなったのです!心当たりありませんか?」

無我夢中だった、私はつぐみさんを無視して飛び出したくせに、半ばパニックだった。

「うーん、どこ行ったかはわからねえが、今朝龍神の社にいたのは知ってるよ、彼方君に澄乃ちゃん、芽依子ちゃん、あと見慣れない娘さんが一緒にいたっけな」
「それで、彼方さん達は何を!?」
「ん〜、なんか村のガキ共と話してたな、猫がどうとか…」
「猫?」
「なんでも猫を助けたければ、廃墟になった大昔の城の幽霊を退治してこいとか…」
「城!?」
「ああ、そんなこと言ってたよ」
「その子達はどこに?」
「ああ、んなら…」

私はおじさんに子供達の家へと案内してもらった。

おじさんが呼ぶと、子供と親はすぐ出てきた。

私は子供から全てを聞いた、なかなか話そうとしない子供の肩を揺さぶり、そして睨み付け、少し声を荒げて。
仕舞には子供は泣き出してしまった。

それだけ緊急事態だった。
子供は全てを話した。
今朝の出来事、猫のこと、この龍神村の城のこと、幽霊退治と猫の交換条件。

そして気になったことがある。
この村のことは数百年前から知っている。
天に帰った後も天から村の様子はずっと見ていた。
しかし、村に城など建った形跡がなかった。
この村はずっと平和だった、戦が起こることもなく、災害が起こることもなく、第二次世界大戦の被害を受けることすらなかった。 幽霊なんている筈はない。
この村に怨みを持って死んだ人間等いる筈もない。
私には二つの記憶がある。
彼方さん達と野盗を追い払い、天に帰った時の記憶、菊花と白桜様が禁断の愛で結ばれ、そして天罰を受け、菊花と白桜様、そして菊花のお腹の子を亡くし、天に帰ることなく、罪滅ぼしと三人の冥福を祈り、山に数百年籠もった時の記憶と。

城などなかった。
一体誰が!

私は、その城の廃墟があるという洞窟へと向かった。

私は洞窟に着くなり躊躇せず飛び込んだ、暗闇なんて慣れていた私は真っ直ぐ進む。
止まることなく。

そして城の廃墟と見られる場所へとたどり着いた。


一刻も早く探し出さねば。




「う…ん…」
気が付くと、俺は畳の上にいた。

殿様ゾンビの長刀から逃げだそうと後ずさった時に、床が抜けて落ちたんだった。
不思議なことに、部屋が明るかった。電気も蝋燭もないのに。

「彼方さんか?」

俺の背後で声がした。

「ん、その声は朝倉さんか?」

そっと後ろを振り向くと、そこには朝倉さんが立っていた。
「朝倉さん!無事だったんだ、良かったぁ…」
「それは俺も同じだよ、まったく、真っ暗になったと思ったらこんなとこにいた」
「そういや、ことりさんや澄乃、芽依子はどうした?」
「わからない、ここには俺一人だけで、今朝倉さんを見つけたとこだし」
「そっか」

無力に近い女3人が心配だった、さっきのようなゾンビがいるとなると、早めに見つけださねば。

「朝倉さん、取り敢えず上に行こう!こんなとこで油売ってる暇はない」
「そうだな、行こう」

俺達は階段を駆け上がった。



とにかく下まで降りていく、私は当たりを照らし進んでいった。
向かってきた骸骨達は霊気を吸い取り、成仏させた。
しかし、まだ彼方さん達の姿は目にしていない。

(彼方さん、皆さん、どうか、無事でいてください)

心の中で祈るばかりだった。

ただ気になったことがある。
この骸骨達の気は、昔感じ取ったことがある。

間違いでなければ、この骸骨達は野盗共の怨念だろう。

そうなると、私ものんびり探してはいられない。

早く探し出さねば。


俺と朝倉さんは、廃墟の道なりに進んでいた。
しかし、まだ3人の姿形どころか声すら聞こえてこない。

「一体、どこ行ったんだ…」
そう言って朝倉さんは一つ溜め息をついた。
正直、俺もそんな気分だ。
それに、あの殿様幽霊、おかしかったな。何か機械仕掛けのようにも感じた。
それに…、龍神村に城なんてあるか?
城は大きな街にあるよな普通。

俺達が進んでいくと分かれ道が現れた。
「朝倉さん、どうする?」
「仕方ない、ここは二手にわかれましょう」
「じゃあ、俺は左行くよ」
俺は左を差した、続いて朝倉さんは右へ行くと右を差した。
ここで俺達は二手に分かれた。
少々不安もあったが、仕方ない。
俺は道を進んでいった。
すると、人影が一つ見えた。
白い帽子に桃色の髪、間違いない、ことりさんだ。

「おーい!」
手を振って呼び掛けると、紛れもない、ことりさんだった。
「出雲さん、無事だったんですね」
「ああ、今さっきまで朝倉さんと一緒だったんだ」
「朝倉くんと?」
「そう、気付いたら一緒だったんだよ」
「そうですか、私も気付いたら独りでした」
「まあ、話は後だ、早く他の人も探そう」
「はい!」

俺はことりさんの手を取り、ギュッと掴み、手を引いて進んだ。

俺は分かれ道で彼方さんと別れてから先へ進み、澄乃さんと芽依子さんを見つけ、3人で先へと進んだ。
この城はなかなか広い、はぐれてしまえば城内は富士の樹海と化す。
「えぅ〜、彼方ちゃんは無事かな」
「彼方さんは無事だよ、俺はさっきまで一緒だったからね」
「えぅ〜、そっかあ、じゃあ早く会わないとだね」
「澄乃、会うのもいいが、早く出ないといかん、なあ純一さん」
「そうだね、こんな所は一秒たりともいたくないからね」

俺達三人は手を繋ぎ先へと進んだ。



「訳解らん場所だなぁ、明かりの元がないのに明るかったり」
「でも、いいじゃないですか☆暗いよりは。」

俺はことりさんを見つけた、先程のような亡霊みたいな奴がいると知った以上、もうみんなとバラバラになる訳にはいかない。
俺はことりさんと手を繋ぎ、その手をギュッと握っていた。

「い、出雲さん、手が痛いです」
「ごめん、でも離すわけにはいかないよ、ここは危険な場所だからもうはぐれる訳にはいかないよ」
「でも、私はこんな場所好きだよ☆朝倉君とさくらパーク行った時もお化け屋敷入ったし」
「おいおい、遊園地のアトラクションと廃墟は違うよ…」


ことりさんの暢気さに呆れて俺はつい苦笑してしまった。
こんな状況でそんなことが言えることりさんて、ある意味幸せ者かも…。

そんなことを考えながら歩いていると、やがて光が見えてきた、どうやら今度こそ外に出られるようだ。
そう思った俺は「外だ、行こう」とことりさんの手を引っ張り駆け出した。
光の向こうは外だった。
しかし、そこは森となっていた。

「あれ?こんな場所あったっけ?」

龍神の滝の近くでもないようだ。

辺りを見回すと、朝倉さんや芽依子、澄乃の姿もあった。

「彼方ちゃーん、こっちだよ〜」

澄乃が両手を降って呼びかけていた。
俺は澄乃達の方へと駆け出した。


朝倉さんからいきさつを聞いた。分かれ道で別れて進んだ先にははぐれた澄乃や芽依子がいて、先に進むとやはり出口があったそうだ。そしてここにたどり着いたと。

「しかし、また変なとこ出ちまったな」

朝倉さんが頭をポリポリと掻きながら言った。

「まあまあ、純一さん、森がどこに続いているかわからないが、じっとしてても仕方ない、先に進もうではないか」

そう言って芽依子は躊躇うことなくスタスタと森へと進んでいった。

「あの娘、度胸あるよな、なんか眞子に似た感じか(眞子は怖がりだが)」
「芽依子はこういうの慣れてるみたいだから、どこでも現れるし、なあ、すみ…の?」

振り向くと澄乃の姿がなかった。ことりさんの姿もない。

「かーなーたーちゃーん、はーやーくー」
「朝倉君もー」

向き直ると澄乃やことりさんは森へ進むとこだった。

「女は強いな…」
「そうだな」

俺達は男を下げたようだ。



鬱蒼と茂った森を進んで行くが、木々ばかりでまだまだ何も見えてこない。
動物の鳴き声すら聞こえない不気味な森だ。

「こんなとこ進んで村に着くのかよ」

そう言って朝倉さんは草を蹴るような仕草を見せる。

「まあまあ、純一さん、外に出られた訳だし、遠回りかもしれないが村に続いてることは間違いないだろう」

そう言って芽依子は朝倉さんを宥めた。

ことり「そうだ、皆さんでしりとりしながら進みませんか?」
澄乃「えう、面白そう!」
芽依子「ことりさん、ナイスアイデアだぞ」
彼方「なかなか面白そうだな」
純一「まったく、暢気だよなぁ」
ことり「じゃあテーマはHな言葉で」
純一「待て」
ことり「え?」
純一「もっとマシなテーマはないのかよ?ことりは学園のアイドルなんだから慎まなきゃ」
ことり「別に、アイドルなんてみんなが勝手に言ってるだけだし」
芽依子「ほぉー、ことりさんはアイドルだったのかあ」
純一「何人の男子に告白されるかを予想したこともあったよ」
芽依子「それは凄いな」
ことり「朝倉くん!そんなことやってたの?」
純一「あれは、杉並と…」
彼方「でも羨ましいな、そんなにモテて」
芽依子「彼方さんにはしぐれさんという立派な奥さんと澄乃という可愛い愛人がいるではないか」
彼方「おい!愛人じゃないだろう!」

俺たちはそんな他愛もない話をしながら暗い森を進んだ。

俺達が先へ進むと、そこには驚くべき光景が待っていた。
あの廃墟にいたゾンビや骸骨達が生身の姿で待ち伏せていた。

「待っていたぞ、小僧ども」

その声には聞き覚えがあった。
そう、あの殿様ゾンビだ。
ボサボサ頭に無精ひげ、ボロボロになった装束、殿様と言うより盗賊だ。

彼方「お前はあの時の!」
純一「出雲さん、知ってんの?」
彼方「ああ、こいつのせいで俺は酷い目に遭ったからね」
芽依子「お、お前は!」

そう言って一歩後ずさった芽依子の表情少し引きつって怯えているようにも見えた。

「芽依子、知ってるのか?」
「ああ、こいつは、遥か昔に私達を襲った野盗どもだ」
「なんだって!」

「久しいのお、小娘、暫く見ないうちに随分変わったようだが」
「ふん、数百年も経てば嫌でもどっかすら変わるさ」
「まあよい、お前の変わり映えなど興味ない、わしらが興味あるのは龍神姫だからな」
「残念ながら龍神様はここにはおらぬぞ」
「なにぃ?」
「龍神様はもう龍神様ではないのだ」
「はぁ?貴様は何を言っておるのだ、龍神が龍神じゃないだとぉ?じゃあなんだ、龍神が人間にでもなっちまったのか?それともわしらのような姿にかぁ?」
「龍神様がどんなお姿、形をしていようと、お前達のような外道には関係のないこと」
「小娘がぁ!」

野盗の頭は一つ舌打ちすると、刀を持つ右手を天へと突き上げた。
周りの仲間達がいっせいに臨戦態勢に入る。

「はっ!!!」

驚いたことりさんが一つ後退りし、そのままその場へへたり込んでしまった。

「えう〜〜」

側で震え上がる澄乃。

「ことりさん!」

俺はことりさんの側へ寄り、そしてゆっくりことりさんを両手で抱きかかえた。

大事なお客様を危険な目に遭わせてしまった、旅館閉鎖は免れないかもしれない。ただ、旅館の主として俺はお客様を守り通す。

「朝倉さん…」
「出雲さん、」
「ことりさんと澄乃を連れて逃げてください、と言っても逃げ場なんてありませんが、森を抜ければ必ずどこかすらに出るでしょう」
「でも!」
「お願いします!これも旅館の従業員としての仕事ですから」
「……、わかった。」

俺は抱きかかえたことりさんを朝倉さんの両手へと乗せた。

「彼方ちゃん!」
「澄乃、もし帰れたらしぐれに伝えてくれ、時間外労働だから気にするなって」
「えぅ、でも彼方ちゃんはどうするの?」
「ここで芽依子となんとかするさ、今思い出したんだが、俺はこいつらを知ってる。夢ん中で一度戦ったからね!確か花火にビビって逃げ出したんだったかな」
「彼方ちゃん…」
「心配するな、信じろよ」

そして俺は朝倉さんの方へと向き直る。
「朝倉さん、澄乃もお願いします。コケたら引きずっていいからさぁ」

「わかった、出雲さんも気をつけて」

俺は澄乃の背中を片手で軽く押した。

澄乃は一度俺の方へ心配そうに振り向きながらも、朝倉さんと来た道を走り抜けていった。
やがて姿は見えなくなった。


「さて、芽依子、俺達自分から任されたけど、どうすっか?」
「こんな森じゃあ、戦うに戦えんし、武器も防具もなければ太刀打ち出来ん」

そう言って芽依子が辺りを見回す。
そして近くに落ちていた棍棒のような太い木の枝を拾い上げた。

「そんなの武器になるのかよっ!?」
「わからん、ないよりはマシだ、それともなんだ?彼方さんは腕っ節に自信あるのか?」
「いや、ない」
「じゃは文句なしだな」

そう言うと芽依子はその太い枝を両手で持ち構えた。

俺は何か武器がないかとポケットを探った、武器になる物はなかったが、ライターとマッチが見つかった。

こんな時に花火があれば…。

「うらぁぁ!」
1人の野盗が襲いかかってきたが、芽依子はヒョイとかわし、棍棒を野盗の脳天へと振り下ろした。
野盗は伸びてその場へ突っ伏した。

「彼方さん、ここは私がなんとかするから、彼方さんは森のどっかで武器になる物を見つけるのだ!」
「わ、わかった」

俺は森の奥へと走っていった。

走りながら辺りを見回しても、やはり何も見つからない。
大木の太い枝を折ろうにもビクともしない。

(くそっ、俺は女の子も守れないのかっ)


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