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チュンチュン

雀の鳴き声が聞こえてくる。
窓から照らされる明かりが眩しい。

俺は疲労で重い身体を起こした。
周りを見ると、朝倉さん以外誰もいなかった。おそらく早起きしたのだろう。
枕元の時計を見ると朝9時を回った所だった。

「ふぁぁ〜」

欠伸をしながら大きく伸びをする。
きっとみんな暦さん達の部屋に集まってるのだろう。

ガラガラ

引き戸を開ける音、引き戸の方を振り向くと、そこにはことりさんが立っていた。何やら慌てた様子。

「出雲さん、大変、お姉ちゃんが」
「え、暦さんが?」

俺は慌てたことりさんに連れられて部屋へ。
すると暦さんが顔を真っ赤にして布団に横たわっていた。
横には誠史郎さんやつぐみさん、小夜里さん、澄乃や芽依子もいた。

「彼方君、おはよう」
「誠史郎さん、これは」
「どうやら暦さん、風邪を引いてしまったらしい。熱が40度近くある。おまけに咳も酷いし喉もやられてる、これでは明日に帰るのは無理だね」
「じゃあ、暦さん、治るまでここに泊まるんですか?」
「そういうことになるね」

俺と誠史郎さんが話していると、つぐみさんが会話に割って入った。
「彼方ちゃん、大丈夫よ、芽依子ちゃんが調合してくれた風邪薬を飲ませたから」
「お姉ちゃんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫、よくあるのよ、ほら龍神村は万年雪で夏でも寒いでしょ、他から来る人は村の寒さに慣れてないから…、だから風邪引いて寝込んじゃうお客様も少なくはないわ」
「そうなんですか、ごめんなさい、お姉ちゃん、昨日から迷惑かけちゃって」
「いいのよことりちゃん、仕方ないわよ、治るまで泊まっていって、お代はいらないから」
「ありがとうございます」

ことりさんの顔から深刻な表情が消え和らいでいた。

「あ、つぐみ、私、これから仕事だから失礼していいかな?澄乃、あんたは彼方君達と一緒にいたら?」
「えう、そうするよ〜」
「じゃあ、私はこれで」

そう言うと小夜里さんは部屋を出て行った。
強いな、昨日かなり飲んでたみたいなのに。

そんな時、俺はしぐれがいないことに気付いた。

「つぐみさん、しぐれは?」
「しぐれちゃんなら厨房よ、仕込みしてくれてるわ」
「そっか」
「彼方ちゃん、ここは私と誠史郎さんに任せて、彼方ちゃんは澄乃ちゃん達と一緒にことりちゃんに村のことを教えてあげて」
「わかった」
「出雲さん、澄乃さん、芽依子さん、ヨロシクッス」

俺たちはことりさんに村のことを教える為、天守閣を出た。

と言ってもまず何を教えればいいのやら…。






ことりさんを連れて俺たちはだいたい一通り回った。
雪月雑貨店、橘診療所、龍神湖、龍神の滝、龍神学園など。

そんな感じで回っている時、最後に訪れた龍神の社で一つの光景を目撃した。
小学生くらいの子供二人が猫を虐めていたのだ。

A「この猫、変な鳴き声するんだぜ!」
B「楽しいよな!ほれもっと鳴け!」

子供達の猫虐めがエスカレートし、たまらず俺が止めに入ろうとした時、ことりさんが子供の前に躍り出た。

「やめなさい!こんなことして、自分達恥ずかしいと思わないんですか!猫をこっちに渡しなさい」

子供達がお互い向き合う。

A「そうだな、虐めるのももう飽きたしな」
B「やってもいいけど、ただじゃあなぁ…」

それを聞いたことりさんが徐に財布を取り出した。

「目的は何ですか?お金ですか?」
A「ち、違うよ!」
B「俺達そんなの欲しくないよ!」

「じゃあ何をあげれば良いのだ?」

芽依子がことりさんと子供達の間に入る。

A「そうだな、じゃあ、この村にある廃墟になった大昔の城に現れる幽霊を退治してくるってのはどうだ?」
芽「幽霊?」
A「そうだ、夜になると現れる幽霊だ」
B「そいつを退治してきたら猫はやるよ」
澄「えぅ、幽霊なんて怖いよ〜」
芽「しかし、澄乃、幽霊を退治しなきゃ猫は助けられないぞ?」
澄「えぅぅ」
彼「また厄介なことを…」
芽「彼方さんは来なくていいぞ、臆病者は足手まといだからな」
彼「誰が臆病者だよ!」
こ「わかりました、幽霊をやっつけてくればいいんですね」
彼「ちょっ、ことりさんまで…」
こ「出雲さんは猫を助けたくないんですか!?」
彼「いや別にそんなわけじゃ」
こ「出雲さんが行かないなら私と芽依子さんと澄乃さんと朝倉君で行きますから」
彼「…」

大変だな、朝倉純一君、きっと将来、君は尻に敷かれるよ…、もう敷かれてるか。

そんなこんなで、幽霊退治をやくそくしてしまったことりさん、結局今晩、その城へ幽霊退治に行くこととなった。

寝静まった龍神村は昼間と違い不気味だった。
様々な動物の鳴き声が聞こえてくる。
幽霊より寧ろそっちが怖い。
向かうのは俺とことりさんと朝倉さんと澄乃と芽依子の5人。
城へは龍神の社の裏の道を通る方が近いらしい。
なんでもその城は大昔、土砂崩れによって埋まってしまったらしい。
それがつい最近、他から来た学者達によって城に侵入する為の穴が掘られ、中に入れるようになったとのこと、しかし学者達はその城内の血なまぐさい空間に恐れをなして調査を止めたとのこと。
穴はそのままらしい。

そして俺達はその洞穴へとたどり着いた。

澄「えぅえぅ、本当に入るの〜」
芽「ここまで来たら入るしかないだろう」
こ「そ、そう…ですよ…ね」
朝「かったりぃ(こんな所に眞子でも連れてきたら面白かったかも)」
彼「祟られないかな」

何百年も手付かずの城、どんな恐ろしい目に遭ってもおかしくはない。
亡霊か、ゾンビか、はたまた人魂か…、考えただけで恐ろしい…。

そして俺達は意を決して中へ入ることにした。
しかし、芽依子だけは平常心を保っていた。
アイツはこんなことに慣れてるようにも見える。



それから、奥まで行くと、まず一つの部屋に着いた、中には当然灯りなんてない、だからライターで照らしながら周囲を見渡すことしかできない。

部屋の壁に穴が空き、そこから地上へと繋がっている。

こ「あ、朝倉君」
朝「こ、ことり」

よく見るとことりさんは朝倉さんの腕にギュッと掴まっていた。
おそらくかなりの恐怖があるのだろう。

俺は部屋を見渡したが特にめぼしい物も人影もなかった。
ただ、ネズミの死骸やらボロボロに擦り切れた畳と見るに満たない部屋となっていた。ここは殿様の部屋だろうか。
今いる場所は城の最上階に当たる場所。
畳が敷き詰められ、なんとなくお偉いさんの部屋のような気がした。
そう、三村けんのボケ殿のセットみたいな感じで。

「なあ芽依子、この城については何も知らないのか?」

俺は芽依子に城について聞いてみることにした。
彼女は実は長くこの地にいるのだ。
何百年も。

「知らん」
「へっ?」
「知らん」
「な、なんで?」
「知らんもんは知らん、私は確かに長くこの地におるが城があるなんて知らなかったぞ」

芽依子はきっぱりと言った。

じゃあ、この城は誰が何の為に…。

「出雲さん」

声のほうへ振り向くと声をかけてきたのはことりさんだった。

「ごめんなさい、私がこんな危険なお願い受けちゃった為に迷惑かかってしまって」
「いやいや、いいんだよ、猫を助けないとな」
「…」

ことりさんの表情は深刻だった。
危険な場所へ俺らを引っ張ったことに責任を感じているのだろうか。
俺はことりさんに「別に気にしてないよ」と言いながら帽子の上から頭を撫でてあげた。


それから殿方の部屋から下へ、ライターの灯りを頼りに先へ進む。
廊下には燭台みたいなものがあり、蝋燭が立っていたので火を灯しておいた。
そして先へ進んでいく。
広い部屋に出た。
当たりには刀や衣類、剥がれた天井の板などの残骸が散らばっている。

「……せ……て」

朝「あれ?今何か聞こえなかったか?」
彼「俺も聞こえたよ」
澄「えぅ、怖いよぉ」
こ「私も聞こえました」
芽「私もだ」

やはりみんな聞こえていた。
この声、一体どこから……

「眠らせて……」

また聞こえてきた。
その時だった。

蝋燭の灯が消え、辺りが真っ暗になった。

5人「うわぁぁぁぁぁぁ」

暗闇に包まれ、俺たちはパニック状態。

そして、静かになり、突然灯りが戻った。
辺りを見回すと、さっきまで一緒だったはずの4人の姿がなかった。

「お、おい…、嘘だろ」

朝倉さん、ことりさん、澄乃や芽依子の姿がない。
そして、蝋燭に灯が着いてないのに、部屋中が明るくなっていた。
じっとしていてもしょうがない。
進みながら探すことにした。

下へと進む。流石にこんな墓場に近い廃墟で独りになれば不安も強くなる。
既に足も竦んでいる。
いなくなった人の名前を叫びたいが、何か得体の知れない物が出てきそうで叫べない。

(うぅ、猫一匹の為に命なんて賭けたくねーよ、てかそのうち飽きて逃がすだろう)

そんなことを頭の中で囁きながら進む。
進んでいくと、また長い廊下に出た。
いくつもの部屋が並んでいる。

「一つ一つ調べていくのか…、大変だなこりゃ」

俺は一部屋ずつくまなく調べていったが、誰の姿もなかった。
消息を掴む手掛かりすら見つからず。

俺は、今外はどうなってるのだろうかと考えた。
掛け時計は当然のこと、腕時計もない為、時間の感覚がない。
外は朝になっているのだろうか、昼に幽霊は現れないとは言うものの、ここは地の底深く、陽の光など届かない為、夜と変わらないのだ。

「さて、部屋も調べたことだし…」

俺はまた先へ進むことにした。

下へ降りると、一面畳の部屋に出た。
そして驚くべき光景を目の当たりにした。
着物を着た骸骨が舞を踊っていた。
周りにはやはり骸骨、舞いに酔いしれて騒いでいる。

そんな異様な光景を見た俺は、関わらず、下へと進んだ。

下へ進むと、そこは一面畳の部屋、畳には段差があった、これは位によって座る段が違うやつだろうか。

一番高い段には、ゾンビのような生き物が座っていた。
格好からして殿様だろうか。

(あれがリーダーか、早く澄乃達を助けなきゃな)

俺は恐る恐る殿様ゾンビへと近付く。
そして俺は澄乃達を助けるべくゾンビへ

「あの〜、女の子達を見かけませんでしたでしょうか?」

と尋ねた。

(何やってんだ俺…)

「なんだ貴様!どっから入ってきた!?」

殿様ゾンビが声を荒げて言った、口調には怒りが混ざっているのか。

「あの、洞窟から入ってきました」
「洞窟!?そんなとこがあるか!この城は地上に位置するのだぞ!何故洞窟から城に繋がるのだ!?」
「いえ、それは私に聞かれても…」
「まあ良いわ、不審な者、生かしては帰さぬ」

そう言って殿様ゾンビは壁に掛かっていた長刀を手に取り、刃の先端を彼方の方へと向けた。

「ひぃ」
「若造、たった独りでこの城に忍び込んだ、その度胸は認めよう。だが、その度胸故の末路だな」
「ちょっ、まままま待ってください、僕は友達の誘いに乗ってしまったんです!忍び込むつもりはサラサラありませんでしたぁ!」
「問答無用!」

ブンっ!

ゾンビが長刀を振り回す。
彼方の前髪がパラパラと落ちる。

「ま、マジかよ…」

彼方は一歩後ずさる。
これはもう逃げるしかないと確信した彼方は今来た階段を上がろうと考えるも足が竦んで上手く歩けない。

「若造、どうした、なた一振りで臆したか?」
「うぅ…(みんないなくなるし、ゾンビには追い詰められるし、幽霊退治なんか引き受けるんじゃなかった…)」

彼方はもう一歩後ずさった時だった。

メキメキメキ

「えっ」

バキバキ

バシャァァァ

「うわっ、うわぁぁぁぁ」


突然床が抜け落ち、彼方と床の残骸が下へと吸い込まれる。彼方の姿は闇へと消えた。

「こんな罠を仕掛けた覚えはないのだが、朽ち果ててきたかの我が城も」

その頃、龍神天守閣では…


トントン
部屋の戸をノックする。
しかし返事はない。

「彼方さん、もうお休みになられましたか?」

返事はない。

不審に思った私は戸を開けた。
しかし、そこに彼方さんの姿はなかった。
深夜にもかかわらず、布団を敷いた形跡もない。

「か、彼方さん!」

私は風呂、厨房、庭と旅館内のあらゆる場所を探し回ったが彼方さんの姿はなかった。

「しぐれちゃん!」

声の方を振り向くと、そこにはつぐみさんがいた。
慌てた様子だ。

「つぐみさん!彼方さんが!!」
「彼方ちゃんもなの!?」
「彼方さんもって?」
「それが、白河さんの部屋を覗きに行ったら、ことりちゃんと純一ちゃんの姿がなくて…」
「そ、そんな」
「それだけじゃないの、さっき小夜里から電話があって澄乃ちゃんと芽依子ちゃんも帰ってないみたいなの!」
「こんな夜分にどうして…」
「どうしましょ…」

つぐみさんはただオロオロするばかりだった。

「つぐみさん、暦さんは?」
「ぐっすり寝てるわ」
「そうですか、つぐみさん、暦さんを絶対に起こさないでください!今から私が探しに行ってきます」 「しぐれちゃん!今はもう11時を過ぎてるのよ!女一人で外に出たら危ないわ!」
「大丈夫です、夜中の村や山には慣れてます、動物も平気ですから」
「でも!」
「大丈夫です、すぐ行ってきます」

私は自室へと急いで戻りトレーナーとGパンという動きやすい恰好に着替えた。

そして、つぐみさんの静止の声も聞かずに私は旅館を飛び出した。



続く


あきゅろす。
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