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龍神村唯一の老舗旅館、「龍神天守閣」今日も大勢の客で賑わっていた。

そして今日も、女将の佐伯つぐみによって、出雲彼方はボロ雑巾のように扱われていた。

「彼方ちゃ〜ん、今日は小夜里とカラオケ行く約束があるから、留守お願いねっ」
「…またかよ」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何もごさいません」
「じゃ、行ってくるね〜☆」
そう言ってつぐみさんは手を振りながら出て行った。
まあいいさ、俺にだって楽しみはある。
「彼方さん」
「どうした?しぐれ」
長い悪夢から解放された、龍神姉神こと北里しぐれ、身寄りのない彼女はこれから俺と龍神天守閣で一緒に暮らすこととなった。
今の彼女に角はない、最初に会った時と違い今はロングヘア、ノースリーブのセーターやミニスカートから今は着物姿となっている。
そんなしぐれも色っぽい。
「彼方さん、夕方、お客様が参られます」
「そっか、どんな人なんだろ」
「若い男女3名と聞いてます」
「若い男女3人かー、可愛い子なんか来たりして」
「彼方さん!」
「あ、ごめん」

実は俺としぐれはただのカップルではない、婚姻届こそ出してないがほぼ夫婦に近い関係だ。
最初、しぐれは何に対しても驚くばかりだった。機械にも、村にも、電気やTVにも。
しかし、一つ一つ教えてみれば覚えは早かった。今では現代人と変わらない、寧ろそれ以上の女性へと変貌を遂げた。

「しぐれ、お客さんの名前わかる?」
「お客様の名前は朝倉純一さん、白河ことりさん、白河暦さんです」
「おお、可愛らしい名前☆ことりちゃん、なんて」
「〜〜〜〜〜〜(怒)」
ドン!
「ぐわっ」
しぐれに強く突き飛ばされ、床に顔面を強打。鼻が痛い。

「いって〜、何すんだよぉ」
「彼方さんがいやらしいからです。顔なんか緩んでるし」
「いや、それはほら、若い娘を目の前にしたらデレデレするのは若い証拠って…」

ゴゴゴゴゴゴゴ

しまった、しぐれに年の話をしちゃ不味かった。

「か〜な〜た〜さ〜ん〜、橘診療所のベッドで誠史郎さんと暮らしたいんですかぁ〜」
「ぎゃぁぁぁ、それだけはぁぁ、お使い行って来まぁぁす!」

俺は逃げるように旅館を飛び出した。

人間不信のしぐれに色々してあげてた俺も、今では恐妻家になってしまった…、現代人になった彼女は、プロレスラーの奥さん並みに強く、尻に敷かれる毎日です。
でもそんな毎日が楽しい☆



俺はまず雪月雑貨店へ。お客さんに出す料理の材料を買いに。

「こんちは〜」

奥から澄乃が出てきた。
「あっ彼方ちゃん、こんにちは〜だよ〜、今日は何を持っていくの〜」
「えっと…」

おれはしぐれが書いてくれたメモを渡した。
それをみた澄乃はメモの通りの材料と数を用意してくれた。ちなみに少し時間かかったが。

「彼方ちゃん、しぐれさんとはどう〜」
「毎日楽しくやってるよ☆」
「彼方ちゃんが羨ましいな〜」
「でも、しぐれ時々怖い」
「えう〜、彼方ちゃん、しぐれさんの話になるとなんか顔がにやけてるよ〜」

そう言って澄乃が少し膨れっ面をしていた。

「じゃあ、澄乃、しぐれ待たせるとうるさいから、この辺で。またなっ」
「えう〜、ばいばいだよ〜彼方ちゃん」

俺は雪月雑貨店を後にした、少し長居してしまった為に外は夕陽で真っ赤に照らされていた。
「まずいな、早く帰らないと」

俺は少し歩く速度を速めた。
龍神天守閣へ向かう途中だった。
若い男女3人、正確には男1人、2人、道の真ん中で立ち往生していた。
道に迷ってるような感じだった。
手にはドラムバッグ、3人分全てを男が持たされていた。

「あの〜、どうかしましたか?」
俺は地図を眺める女性に話しかけてみた。
女性は桃色の髪に白の帽子が可愛い、年は二十歳前後といったとこだろうか。

「あ、すいません、旅行で来たんですけど、道に迷っちゃって、ね、お姉ちゃん、朝倉君」

朝倉?確かどこかで聞いたような…。

「でな、旅館の行き先がわからず、ここで立ちっぱなしなんだ」

そう言って溜め息をついた女性は同じく桃色の髪、こちらは眼鏡をかけていた。

「もしかして、お三方は龍神天守閣に向かいたいのでは?」
「そうそう、キミは話が早いね!」
「いや、俺龍神天守閣の従業員ですから」
「おお、そうか!ならついでだから案内してくれ」

眼鏡の女性の目が俺の両手を塞ぐ野菜に向いた。

「キミは買い出しの帰りかい?」
「そうですが」
「そっかそっか、重いだろう?ほら朝倉、ボケッとしてないで野菜を持つ!」
「ち、ちょっと、バッグだけで精一杯なのに、そんなの持てないって!」
「つべこべ言うな!それでもことりの彼氏か!?」

こういうの見ると、しぐれはまだ優しいほうか。世の中広いな。

三人を引き連れ、龍神天守閣へ向かう。

歩きながら自己紹介も済ませた、この三人が今日旅館に来る朝倉さん達だった。
しかし、しぐれも可愛いが、ことりさんも可愛い。きっとこんな美人だから学校でもアイドル的存在なんだろうな。

(しぐれもいいが、ことりさんもいいな)

「浮気現場、はっけーーーん」

ギクッ

この声は…

4人揃って後ろを振り向くと、そこには、奴がいた。

橘診療所の一人娘、橘芽依子だ。
こいつに会うとろくなことがない。

「ふぉっふぉっふぉっ、わし参上」
「くっ芽依子」

ドガっ!

「いでっ」

分厚い本で脳天を叩かれる。

「芽依子だと、芽依子様と呼べ芽依子様と、この浮気者が」
「彼方君、知り合いかい?」
「私は橘芽依子と申します」

軽くお辞儀をする芽依子。

「芽依子さんか、宜しく、私は白河暦、こっちは妹のことり、そこの荷物運びはことりの彼氏の朝倉純一だ」
「皆様、宜しくお願いします」
「おい芽依子、俺の時とは態度も言葉遣いも違くないか?」
「ふん、礼儀正しき者には礼儀正しく、無礼者には無礼で返す、それが芽依子様だ」
「…なんか、凄い人ですね…」

そう言いながらことりさんは苦笑いしていた。
とにかくこの3人を旅館まで連れていかないと。芽依子を追っ払わねば。

「芽依子、今日は大事なお客様を旅館まで案内しなきゃいけないから、この変で」
「それなら私も行こうではないか、彼方さんの浮気調査も兼ねて」
「浮気なんかしてません」
「顔が緩んでるのが気になるんだが」
「うるさい!」

いかん、芽依子のペースにはまりっぱなしだ。

「と、とにかく、お客様案内しなきゃいけないから、このへんで!白河さん、この辺暗くなると幽霊とか出るから早く旅館行きましょう!」
「えっ、お、お姉ちゃん、早く行こうよ」
「調べてみたい気もするが、疲れてるから旅館へ向かうか」
「暦先生、荷物…」
「引き続き頼んだ、朝倉」

俺達はその場に芽依子を残して旅館へと急いだ。正確には逃げたと言うべきか。

「もう、彼方さん、幽霊はいないがビッグフッドならいるぞ」


そして俺達はようやく旅館へとたどり着いた。

「いらっしゃいませ」

しぐれが深々とお辞儀をする。そしてその横には、横には……
「いらっしゃいませ、白河暦さんと白河ことりさんと朝倉純一さん」

芽依子がいた…。

「なななな、なんでお前がここにいるんだよ!」
「秘密〜」
「……」

嫌な奴ほどしつこい。
今日はつぐみさんがいないからしぐれと二人きりになれるチャンスだったのに。

と思った矢先……。
がらがらがら

誰かが入ってきた、玄関の方を振り向くと……

「たっだいま〜彼方ちゃ〜ん、しぐれちゃ〜ん」

コテ

何故帰ってくる……

つぐみさんの後ろには小夜里さんと澄乃までいた。

更に……

「こんにちは、彼方くぅ〜ん」

一番会いたくない変態医師までついて来ていた。

「せ、誠司郎さんまで!てか手術とかあるんじゃないの?あとつぐみさん、カラオケ…」
「それが〜、歌声喫茶が臨時休業だったのよ〜ん、それでぇ帰り道、誠司郎さんの車に会ったからぁ、乗せてもらっちゃったん☆だから今日は龍神天守閣でオールナイトよん!」
「いやあ、つぐみさんからのお願いは断れないからね、僕も混ぜてもらうことにしたよ、手術のことは気にしなくていいよ、バイトの高校生にやらせてるから」
「て、あんたそれでも医者かよ!?」
「医者だよー、でも嬉しいなぁ〜、つぐみさんといられて、彼方くんを抱けて」
「ぐわぁぁ、頬を寄せるな変態医師!」
「お、お二人ってそんな関係だったんですか(苦笑)」
「ち、違う!」
少し退いた感じのことりさんの一言を慌てて否定する。

「と、とにかく、お、お客様、中へどうぞ」
しぐれがお客の3人を部屋へと案内する。
しかし3人に変なとこを見せてしまった。
「彼方ちゃん、私達も上がっていいかな〜?」
「おう澄乃、よく来たな、もうこうなったらどうにでもなれだから上がってよし」


本当にヤケクソだった。


白河さん達3人を部屋へ案内し、後をしぐれとつぐみさんに任せ、俺は自室へ。ことりさんは澄乃や芽依子とこんな短時間ですっかり仲良しになり、3人で温泉に浸かりに行ってしまった。
俺は、なんだか体が疲れていたのでちと早いが寝ることにした。



温泉、ありとあらゆる病気に効くと言われている龍神温泉はまさに万能薬、その万能薬に3人の美女が浸かっていた。
澄「えう〜、いつ入っても気持ちいいね〜」
芽「そうだな、くつろげる」
こ「澄乃さんと芽依子さんは良いですね、こんな気持ち良い温泉にいつでも入れるんですから」
芽「いやいや、でも毎日入ると飽きるぞい」
こ「そ、それは確かにf^_^;」
澄「えう、ことりさんはどこからいらしたんですかぁ?」
こ「私達は初音島っていう島から来ました、朝倉君は私の恋人で暦はお姉ちゃん、お姉ちゃんは私と朝倉君が通う学校の先生をやってます」
芽「ほうほう、そうかそうか、初音島は確か年中桜が咲いてる島と聞いた記憶が」
こ「はい、その通りッス」
芽「朝倉君とやらは一見頼りなさそうだが、お姉ちゃんはしっかり者に見えるな」
こ「でも、朝倉君は強くて優しくて、私にとってとても大事な人です」
澄「うわ〜、なんだか彼方ちゃんに似てる〜」
芽「そうそう、ことりさん、ここに来る途中、あの男にやましいことされなかったか?」
こ「いえ、出雲さんはしっかり私達を旅館まで案内してくれました」
芽「そうか、それなら良かった。でもされたら言って良いのだぞ、そしたら私が彼方さんを袋叩きにして顔の原型を潰して、網膜を削ぎ落とし、明日になったらあの彼方さんだとは誰も気付かないぐらいにしてやるからな」
こ・澄「こ、怖い…」
芽「さて話題を変えよう、よく見るとことりさん、なかなかのプロポーションではないか」
こ「そ、そんなことないッスよぉ」
澄「えぅ、ことりちゃん、胸が結構大きい」
こ「す、澄乃さんだって」
芽「どれどれ、ちょっと感触を確かめさせてくれたまえ」
こ「め、芽依子さん」

ぷにぷにぷにぷに

こ「あ、はぅ…」
芽「なかなか大きいな、形もいい、さてはあの朝倉君と毎日組体操かね」
こ「ち、違います!私達はそんなにしてません!!」
澄「そんなにってことは、もう…」
芽「まあまあ、ここは女だけだからな」
こ「ぷー」


その後も3人のそんな他愛ない話が続いた。


美女3人が温泉を出て、彼方を除くメンバーみんなで食事をした後、事は起きた。


昼間から色々やって疲れた俺は自室で眠りこけていた。飯も食わずに。
気持ち良く布団に潜っていたその時だった。

ダッダッダッダッ

誰かが走ってくる。俺の部屋の方へ。

どんどん

部屋のドアをノックされた。
俺が「どうぞ」と言うと引き戸が開く。
立っていたのはことりさんだった。

「ことりさん、どうしたの?」
「出雲さん、大変なんです!」
「えっ、何が?」
「とにかく、部屋に来てください!」

ことりさんに連れられて部屋に行くと、そこはアルコールの匂いで充満していた。
つぐみさん、小夜里さん、暦さんが泥酔していたのだ。誠史郎さんは寝言を言いながら爆睡。

「いやあ、あたしの妹は学園のアイドルでして…」
「私の誠史郎さんは村一番のお医者でして…」
「私は昔、村一番の美女でして…」

酔っ払いの自慢大会が行われているが、これにはどうしようもない。
下手に割って入ると俺まで酔いそうだ。

結局、酔っ払い3人が眠りこけ、布団に移動させたのは深夜。
ちなみに誠史郎さんはそのまま放置しておいた。
他の皆をこの部屋に置いておくのは衛生上良くないと思った俺は、自室にことりさんや朝倉さん、澄乃、芽依子、しぐれを呼び、休ませた。
寧ろ寝るのが惜しく、皆でトランプをしたり、恋バナなんかしたりして寝たのは朝方だった。


こうして、龍神天守閣の長いような短いような一日は終わった。

明日は何があるのやら…。


続く


あきゅろす。
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