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幸福論
著:葵 藍様








怒ったり…

泣いたり…



貴方に振り回されてばかりの日々



でも…



多くの喜びも

与えてくれたのは貴方だった










【幸福論】










西の都にある、カプセルコーポレーション。

「こうしてブルマさと逢うのも何ヶ月振りだべ…。トランクスも随分大きくなっただなぁ」
「チチさんこそ。すっかりお腹も大きくなって…。もうそろそろ?」

ブルマにそう訊かれ、大きくなったお腹を摩りながら、チチは嬉しそうに微笑む。
少し離れた場所で悟飯と一緒に遊ぶトランクスは元気に成長している様で、以前逢った時よりも大きくなったのがよく解る。それと同時にチチのお腹に宿る命もまたすくすくと順調に育っていて、間もなく臨月を迎えようとしていた。
あのセルゲームからもう数ヶ月が経ち、何処も元の活気を取り戻してはいるが…。そのセルゲームで死んだチチの夫である悟空だけは、もう戻って来る事は無い。
ブルマはトランクスが出来るまで、チチに対して苦手意識を持っていた。何故息子の悟飯に対してあんなにも執着するのか、それが理解出来なかったからだ。しかしトランクスを得て母親とゆうものを実感し、今ではチチを尊敬している。
だからだろうか。悟空を失っても、母として懸命に生きるチチを応援したいとゆう気持ちが強い。そして生き返るのを拒んだ悟空に対しては、世界を救った感謝よりも非難の気持ちでいっぱいだ。

「チチさんが妊娠して大変な思いしてるってゆうのに…。…ったく、生き返るのを拒むなんて…。孫君ったら一体何考えてんだか…。チチさんも大変よね。あんな旦那と結婚しちゃって…」

ブルマの遠慮無い、悟空への罵声。チチは苦笑しながら聞いていたが、新しい命が宿るその腹を愛しいそうに見詰める。

「そうだなぁ…。おらも昔はとんでもない男と結婚しちまったなって、そう思ってただ…」

働かず、修行ばかりし、しまいには悟飯まで戦いに巻き込んで…。チチは悟空に怒鳴ってばかりいた頃の自分を思い出す。

「怒ったり、泣いたり…。悟空さには本当に振り回さればっかりだ…」



本当にとんでもない男だった、とブルマはうんうん頷くが…。口ではそう言いながらも、チチの表情が穏やかで優しい事に気付く。

「だども…。おら、本当に幸せだった…」
「チチさん…」
「おら、あんなに口喧しく怒ったりしてたのに…。悟空さは愛想尽かせねぇで、優しく…大きな愛情でこんなおらを受け止めてくれてた。何があっても必ずおらんとこに帰って来てくれた」

あんな良い夫は他にはいない、と…。チチは穏やかに微笑みながら、ブルマにそうはっきり言った。
悟空を心底愛していたのだと、そして今もその想いは変わらないのだと…。チチの表情から解るその気持ちに、ブルマも自然と表情が穏やかになる。

「そんな悟空さの血を継ぐ悟飯と、そしてこのお腹の中の子を授かった…。おら…、本当に幸せもんだと思うだよ…」

ブルマはもう何も言わなかった。慈しむように命が宿る腹を撫でるチチを、ただ見守る様に見詰め続ける。

「(おら、本当に幸せだった…。悟空さ、ありがとうな…)」

心の中でそう思いながら、チチは幸せそうな笑みを浮かべた。










「…チチ…?」
「どうした?悟空」
「あ…、いや…。何でもねぇ」

チチの声が聞こえた気がして、悟空は思わず立ち止り振り返った。
気のせいかもしれない。けれどチチが笑ってくれている、そんな気がして…。悟空もまた幸せそうな笑みを浮かべて、再び歩き始めるのだった。










END






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