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夜。
街は静けさを増す。
昼間、元気に遊んでいた子供達も今ではきっと夢の中だ。

そんな中、静まり返った万事屋の一室で未だに眠れないピンク頭の少女が一人居た。



…薄暗いのはどうも苦手で。
時折、自分が住んでいた故郷を思い出す。
四六時中お日様が出ない灰色の空。
そこで過ごした日々に良い思い出はあまり無かった。

少女…神楽は、自室である押し入れの襖をガラリと開けるとフローリングに足をつけた。
窓から照らされる月明りの眩しさにマリンブルーの瞳を細める。

地球は明るい。
夜になってもネオンの光で輝いている。

そんな事を考えながら彼女が向かう先は、万事屋の主でもある銀髪の侍の部屋だった。

ただなんとなくだった。
彼と居ると有りのままの自分で居られる。
すごく安心する。
いつしか彼の存在は彼女の中で知らずに大きいものになっていた。




「銀ちゃーん」

…襖を開けると想像していた通り銀髪の侍…もとい銀時は、大の字で大口を開けて、グッスリ眠りこけていて。

彼女は少し助走をつけると躊躇う事も無く、彼の腹部へと飛び込んだ。

「ぐぇっ」

実に起こすのは手慣れたもので。
うなされる銀時の腹に全体重をかけると「おい、天パ。起きるヨロシ」と更に腹部で何度も跳ね上がる。
痺れを切らした銀時はピンク頭をバシッとひっぱたくと渋々上体を起こした。

「…んだよ、こんな夜中に。銀さんものっそい眠いんだけど」

「眠れないアル。だから一緒に寝てもいいアルか?」

返事を聞く前に彼女は銀時の布団に潜り込もうとする。
銀時は慌てた様子で待ったをかけると説教が必要だ言わんばかりに少女を目の前に正座させた。

「眠れないからって年頃の娘が野郎の布団で一緒に寝るのはダメだろ」

「大丈夫アル。銀ちゃんにそんな度胸ないネ」

アッハッハと軽く笑う神楽に心の中で「どんな度胸ォォォォォ?」とツッコミを入れる。
コイツは無防備にも程がある。
そして無知過ぎる。
銀時は目の前に居るまだまだ純粋な少女を見て頭が痛くなった。

それでも尚、一緒に寝るとこだわる神楽と会話が堂々巡りになりそうだと察した銀時は仕方ないとばかりに片側の布団を上げる。
ただし隅で寝ろよ、と軽く念を押す言葉を発すると、神楽を招き入れるのだった。




お互い背中合わせで横になると、暫く沈黙が続く。


「…なぁ、銀ちゃん」

ウトウトしていた銀時の耳に未だに眠っていない神楽の声が響いた。
また面倒な事には巻き込まれたくないというのが正直な気持ちで。
彼は狸寝入りを決め込む事にした。

…だが、そうも簡単に事が運ぶはずがなくて。
神楽は思いっ切り銀時の背中を抓る。
その衝撃に銀時が向きを変えて罵声を言おうとした瞬間…突如ピンク頭が視界いっぱいに入った。

神楽は銀時の胸に頬擦りするように顔を埋めていて、気持ち良さそうに目を細めている。
まるで小動物のように。

「…眠れない時にマミーによくこうして貰ったネ」

そこは母とは違って大きくて、ガッシリしていて。
男の人特有の匂いがする。
甘い香りがして、暖かい。
母とは違う安心感に包まれ、自然と瞼が重くなった。


「…俺はおめェの母ちゃんか」

「違うネ。銀ちゃんは…」

言い掛けて彼女の瞼はとうとう塞がった。
心なしかその寝顔は笑っているように見えて。
銀時もつられるようにフッと顔を緩めると、小さな背に腕を回して彼女を引き寄せた。


「…ったく。これだからしゃーねぇな、ガキは」

神楽の幸せそうな寝顔を一見しつつ、呟いた言葉は夜の闇に溶けていった。














End.


★あとがき
今回初めてお祭に参加し、作品を提出させて頂きました。
桃色受け祭という素敵なお祭に参加させて頂き、誠にありがとうございます。
お題に沿ってきちんと書けているのかが心配ですが、自分なりに楽しく書けたので良かったです。
ではでは、お粗末様でした!

2008.6.20 葉山愛羅



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