(軽く3話と4話のネタバレ有り)
(4話の法廷終了後の話)





心身共に憔悴した僕が法廷を後にして溜め息を吐いた瞬間に何かがこつん、と額のど真ん中に命中した。地面に落ちようとするそれを慌てて拾う。矢張りというかなんというかカリントウだった。気付けば目の前にはカリントウの袋を握り締める白衣の女性。いつも通りの不機嫌な顔のオプション付き。
ただでさえ精神的に大きなダメージを負ったばかりなのに、いよいよ彼女は本気で僕にトドメを刺すつもりらしかった。


「何がそんなに不満なのかな」
「……別に」
おや。珍しい事もあるものだ。いつものパターンならばほぼ百パーセント「あんたがじゃらじゃら煩いから」という答えが反ってくるのに。或いはエアギターに対しての文句とかその他諸々の文句とか。
……思い出したら悲しくなってきた。矢張り彼女は今日ここでトドメを刺すつもりだ。


彼女の中の僕はどちらかというと嫌われてる部類に入るらしいのは感付いてはいたが、こんな日にイヤミを云われる程嫌われているとは知らなかった。何かある度に呼び出してはちょっかいをかけるのがそんなに嫌だったのだろうか。
「傍聴席で見てました、今日の裁判。その、」
「気を遣わなくていいよ。最近の僕は身近な人間に裏切られる運命らしい」
自嘲気味な僕が珍しいのか白衣の刑事は目を丸くする。僕だって自暴自棄にもなるさ。ダイアンの時もショックだった。何事もなかったかのように振る舞ってきたけど本当にショックだったのだ。それからようやく立ち直ったと思ったら今度はアニキ。なんなんだ。二人揃って僕を人間不信にでもしたいのか。


「ひょっとして次は君の番かい?」
「私は裏切ったりしません」


僕の八つ当たりに対してそう答えたときの彼女の目はとても澄み渡っていた。真っ直ぐな目。射抜かれる、そんな気がした。
動揺を隠そうと、冗談めかして「てっきり君は僕を嫌ってると思っていたよ」と云うと、「まあ好きではないですけど」。
……どうして僕は自分から地雷を踏みに行くんだろう。

「でも、好きじゃなくたって裏切ったりしません」
悪い人じゃないのは知ってるから、と仏頂面で付け足す彼女を見て心が安らぐのを感じた。彼女ならば。信じても大丈夫だろうか。


「でもその割にはたまに僕に証拠品の鑑定結果を教えてくれないよね」
「う、」
「で、おデコくんにはしっかり教えてるんだよね」
「ううう……!」
「いいよ。これからもう少し協力的になってくれたらね」


ついでにもう少し友好的に接して欲しいなと笑うと、そのじゃらじゃらした飾りを外したら考えてもいいわ、と彼女。どうやら一筋縄ではいかないらしい。それでも多少は進展したと見るべきか。
「ああ、そうだ」
「?」
ずい、と目の前に差し出されたのは先ほど僕の額を狙撃したカリントウの袋。どうぞ、と云われたので有り難くひとつ頂く。ひょっとしてさっきの一発も単にカリントウをくれただけだったのだろうか。
「ありがとう」
そう云うと彼女は少しだけ仏頂面を緩めて、お疲れ様でしたと初めて僕に向かって笑いかけた。
前言撤回、彼女相手にすごく進展したようだ。



2007.5.5



あきゅろす。
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