どこが、と訊かれたら簡単には説明出来ないのだけれど。じゃらじゃら煩い所とか、こっちを馬鹿にしてるとしか思えないような態度とか、意味不明なエアギターとか。なんというか全てが勘に触る。
なのにどうして毎回毎回!


「……なんで居るんですか」
「なんでって、この事件は僕が担当だからね」
無駄に完璧な微笑を浮かべて彼は云った。ああ、この笑顔も嫌いだ、と私は心の中で悪態をつく。
現場の指揮をとるようになって数ヶ月。正直なところ未だ慣れない。アメリカで学んだのはあくまで科学捜査の方法であり、刑事になる方法では無かったのだから当たり前といえば当たり前なのだけど。
事件が起きたばかりの、未だ薄く血のニオイが漂う現場ではたくさんの同僚の刑事が必死で捜査に当たっている。早く切り上げてくれないかなあ。そう思うのと同時に鑑識科の男が薬品を片手に横を通り過ぎるのが目に入り、私は唇を噛んだ。割り切った筈なのに、些細な事で私は未だこんな気持ちになる。

「女の子が顔を傷つけるものじゃないよ」

不意に、そうっと目の前の男の手が私の頬に触れた。人差し指が私の唇を撫でる。大きくて骨張った男の手、それを私は迷わずに払い落とした。血生臭い室内に似合わない笑顔に無性に苛々する。今更になってほんの少しだけ唇が痛んだ。

「放っておいて下さい」
「やれやれ、つれないな」
「……」
「きみは、本当は鑑識になりたかったんだってね」
「、今でもそうよ」

突然の問いに少しの迷いもなく即答した私を、彼は目を細めるようにして眺めた。それは初めて私に向ける真剣な、法廷でしか見せたことのないような表情だったから、戸惑ってしまう。いつもは始終あの人を小馬鹿にしたような爽やかスマイルを貼りつけてるくせに、どうしてそんな顔をするの。ねぇ刑事クン、と彼は囁くように云う。

「もしきみが鑑識になろうとするなら、ぼくは全力でそれを阻止するよ」
「なんで、」
「刑事の方が、理由をつけて会いに行くのが簡単だろう?」


じゃあ後で現場検証の結果をよろしく頼むよ、と再び爽やかスマイルを貼りつけて彼は現場を後にした。私の頭の中では未だ彼の鎖がじゃらじゃら鳴る音が響いていて、もう一度軽く唇を噛む。頭がくらくらするのは不愉快な金属音のせいだと自分に言いきかせて。





茜さんは鑑識志望でいいのかしら…カガク捜査官て鑑識さんと違うのかな
2007.4.28



あきゅろす。
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