(だいたい3年後設定)


辺りは薄暗くなっていた。街灯もないこんな町外れを女一人で歩くのは些か危険だった。しかも女が向かう方角は自分と同じで、更に言うならば自分は一応警察でもあった。つまりこの状況は警察として当然な訳で、何ら不自然なものではない。
ただ一つ想定外だったのは、その女が自分の顔見知りであったことだ。

「ホラ、さっさと歩くネ」

そう毒づきながら自分の数歩前をずんずん歩いている女とは数年前からの腐れ縁である。
昼間はぎらぎらと夏の日射しが照りつけていたものの、今は日も落ちて少し肌寒い。
女の剥き出しの肩が目について、自分の隊服の上着を投げつける。女は少しだけ振り向いて上着を受け取り、何も言わないで袖を通した。
数年間の付き合いで当たり前になった光景のひとつ(昔は上着を差し出しても、にべもなく拒否されていたものだ)。


数年、というのは短いようでとても長い。数年前ならば女がこうして自分の上着を受け取るなんてあり得なかったし、そもそもこの女と会って喧嘩にならない、なんて事態があり得ないことだった。

今では会っても多少の口喧嘩で終わるし、互いに機嫌の良い時は 一緒に茶を啜ることもある(結局、どちらが奢るかで一悶着起こすことになるのだが)。

女の背も大分伸びたし、所作も、まあ昔に比べれば落ち着いていた。
女だけでなく、万事屋の旦那はますます目が死んだ魚のそれに近くなっているし、土方さんは年齢を気にしてかマヨの量も煙草も少なくなった。屯所も少しばかり古くなった。


時は流れる。当たり前のことに、昔、自分はずっと気づけていなかった。時の流れがふと恐ろしくなるときが無いと言えば嘘になる。けれど。


「あ、流れ星!」


何年経っても、未だに流れ星なんかに視線を奪われるような、この女がいれば良いような気がしてしまうのだ。


組曲:夕凪流星群




2008.4.12
サイト再始動記念
お題はニルバーナ様より


あきゅろす。
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