互いに何も言わずに汽車に乗りこむ。車掌に一等車両のコンパートメントに案内される頃には、空は夜の帳に包まれていた。
ぽつぽつと街灯の明かりが見えるだけの窓の外を、リナリーはずっと眺めていた。手持ちぶさたになって彼女の横顔を見つめていると、視線は夜景に固定したままで、「ねえ」と唐突に彼女は口を開いた。


「ラビは私のことよくわかっているでしょう。でもね、私だってラビのことわかってるつもりだったのよ」
「うん」
「ラビは、私は最後まで何も言わないって思ってたでしょう」
「…うん」
「でもね、私だってラビは何処にも行かないって思ってたのよ」
「そっか」
「今だってね、夢だと思ってるの。ラビはずっと私達と一緒だって。今は悪い夢を見てるだけなんだって」
「リナリー、」
「お願いだから死なないでね」


他には何も言わないから、行かないでなんて言わないから、お願いだから何処かで元気でいてね。祈るように彼女は言って、そしてそれきり口を閉ざして目をつむった。
窓の外には相変わらず街灯の温かな光が浮かんでいた。



彼女の頭が、コトンと音をたてて壁に凭れたのはそれから数時間たった後だった。眠ったんだと認識すると同時に、自分が大きく息を吐いたのに気が付いて、意外だとしみじみ思った。まるで他人事のように。
やはり、自分で思っている程には俺は周りを拒絶しきれていなかった。いつか全て捨て去るモノだとはわかっていても、多分心の底から俺は皆が好きで、教団は居心地が良かったのだ。
どれだけ拒絶したつもりでも、後一歩の所で拒絶することが出来なくなってしまう位に。
ただただ時間は流れて行くのだと気付かされたのはいつだったろうか。このコンパートメントの中みたいに世界が狭ければ俺達は何も見なくて良かっただろうか。緩やかな振動に心地好さを覚えながら、緩やかに生きることが出来たのだろうか。

何よりもこの世界が広すぎた。それだけだったのかも知れない。




***


もうお分かりかと思いますが最近の原作とはかけ離れたオチになります
それも同人の醍醐味(逃避)



2007.7.5


あきゅろす。
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