愛とはなんでしょうか。女は男に向かって吐き出した。吐き捨てた、その方が正しいのかも知れぬ程に女は苦しくて哀しかった。その様に男には見えた。けれど男にはどうする事も出来ない。資格が無い。否、資格が無いと男はそう思い込んでいる。
愛とか恋とか、其れは一体なんですか。女の声が空気を震わせる。然して変質した空気は耳を抜けて神経を通じ脳へ達して、自分というモノを掻き乱す。自覚は有るのか。有るとするなら止めてくれ。俺に答えられる問いじゃない。適当な言葉で誤魔化して繕える程に俺が大人でないことは一番良く知っているだろうに。


ハルはツナさんが好きでした。大好きでした。過去の事ですけどそれだけは確かなんです。細胞が揺れる。耳が女の声でいっぱいになるのを男は感じた。瞼で視界を塞げば、女の声だけがこの世界に存在しているような錯覚。
でも、とまた空気が世界が、揺れる。今ハルが好きなのは獄寺さんなんです。獄寺さんの筈なんです。なのに獄寺さんへの「好き」と、あの時のツナさんへの「好き」は、違うんです。確かに本当に、獄寺さんが好きなのに。
叫びだ。男はそう思った。淡々と淀みの無い口調で話しているのに、男にはそれが叫び声に聞こえた。声は静かに男をえぐる。


ハルはどこかで間違えたんでしょうか。正しく愛せなかったんでしょうか。何がいけなかったんでしょうか。それは俺だ。間違えたのも正しくなかったのもいけなかったのも最初から全部、俺だ。お前を好きになったのもこちら側に引き込んだのも抱き締めたのも。全部俺が悪かったんだ。
目を開けると女は震えていた。肩に触れると、一瞬だけ体を強張らせて、男から目をそらすように俯いた。間違ってしまったら、もう無理なんでしょうか。淡々と述べる女に既視感を覚えた。その態度は女が産まれて初めて人を殺した日のそれと同一な事に男は未だ気付かない。気付かないまま、そんなこと無ぇ、と男は云った。それは答えでは無く只の願望であり祈りだった。


そうですよね。女は同意の言葉を口にする。そして笑う。女がこの数年で覚えた中でも一番得意な演技だ。肩を抱いている男にはそんなことはわかり切っていた。けれど、そうだよな、と呟いて強く女の肩を抱いた。女の肩の震えにまるで気が付いていないような笑顔で。




息をするように恋をした
(間違えただなんて、そんなの、今更)





悲恋なんだか良くわからない。

2006.1.29
お題は9円ラフォーレ様より


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[管理]

無料HPエムペ!