みんなが眩しかった。みんなは綺麗だった。それはまるで冬の善く晴れた朝に燦々と降りそそぐ光のよう。或いはこの間絵本で読んだ、海の底にひっそりと眠る美しい宝石達のよう。
それはあまりに美しかったので、幼い心でもはっきり解った。これは私が触れていいものではないのだと。たくさんの人が私に差しのべてくれた手に、私は気付かないふりをしていた。下手な芝居だ、迚も。けれどそれでみんなが綺麗なままなら良かった。誰かの手に応えられないのは悲しかったけれど満足でもあった。
これからだって、そうである筈だった。そうするつもり、だったのに。



他人の眼が酷く恐ろしかった。無論過去の話である。真選組に入隊して、直ぐの頃。眉ひとつ動かさずに人を斬り殺すこどもは人殺し達の中でも更に異質だった。他人の眼に浮かぶそれは畏怖や同情、若しくは憐憫。あの近藤さんですら、悲しそうに俺を見た。悲しそうに。哀しそうに。
お前はこっちに来るべきじゃなかったのかもな。酔った勢いだったのか一度だけそう云った。近藤さんは酔いが醒めると忘れていたし俺も何も云わなかった。けれど俺は今も覚えているし、これからだって忘れない。忘れられない。
疎ましいとすら思っていた。手を差しのべた、その相手に浮かぶ感情が。他人に触れる事をしなくなったのは何時からだろう。手の繋ぎ方すらも忘れた。そんな感情は捨てた、筈だった。



「何ヨお前。気持ち悪いネ。キャラじゃないアル」
「そんなこと云って、アンタだって嫌なら振りほどきゃあ良いでしょう。何、これが今流行りのツンデレってヤツかィ?」
「うっわ、お前キモイ。死ね。今すぐ死ぬアル。大丈夫、お前の愛刀は私が責任を持って質屋に預けてやるヨ。心配御無用ネ」
「そいつは困った。俺はコイツが気に入ってましてね、そんなこと聞かされたら死んでも死に切れねェ。ついては死んだ後アンタにつき纏ってやりまさァ」
「キモっ!お前今すぐ手ェはなすアル。鳥肌が立ったネ」
「じゃあ振りほどいて下せェよ」
「……寒いから嫌ヨ」


(知らなかったよ、)
(忘れていたよ、)
(人肌とはこんなにも、)




fin



沖田くんの口調が掴めない。

2007.1.26


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