現実感が無い。なんだか全てが作り物のようだった。誰も居ない公園、舞い落ちる木の葉、軋むブランコも全てが嘘っぱちのジオラマのようにしか思えなくて神楽は笑ってブランコを漕いだ。
先程まで居た子供達は迎えに来た親と帰ってしまったので、今はこの広い公園で神楽は一人だった。ブランコの鎖を強く握ると、錆びた鉄特有のにおいが手についたので神楽は小さく舌を打った。
その苛立ちをぶつけるように地面を強く蹴る。そして、少し近付いてまたすぐに遠ざかってゆく空を見上げながら、神楽は左手の中でぐしゃぐしゃに丸められている一枚の紙切れを思い出すのである。

紙切れは見慣れた筆跡で書かれた手紙とともに同封されていた。封筒は真っ白で、やはり見慣れた筆跡で宛名が書かれていた。それが神楽の手元に届いたのは昨日のこと。その癖に紙切れに印刷されたのは明日の日付だった。気が早いのか、それとも単にこちらに届くまでのタイムラグを考慮に入れなかったのか。恐らく後者だ、呆れて溜め息すら出ない。
銀ちゃんがこれを見たらどう思っただろう、と考えかけて止めた。そもそも銀ちゃんが居ればこんなもの送られてこなかった訳だし。


誰も居ない筈の公園に足音が響いた。枯れ葉を踏んだ時の独特の、冬の始まりの時期の音。音の方向はわかっていたし、足音の主にも見当はついていたけど、目を向けるのも癪な気がしたので前方に浮かぶ薄紫に染まった雲を睨みつけた。音がこちらに向かっているのに気付いて、神楽はまたブランコを大きく漕いで風を切る。空気はとても冷たかったが、指先も剥き出しの膝小僧もとうの昔に冷気を感じるのを放棄していた。
足音は一度も止まらず、一直線にこちらへ向かう。ブランコの側に辿り着いたところでようやく止まって、挨拶も無しに突然切り出した。

「いつ出発なんですかィ」
「明日の昼ネ」

神楽は目線は空に固定したままで、また風を切る。足音の主であった男は神楽の視線の先を追って「何ですかィ、あの雲、親の仇か何か?」と、笑う。何だか無性に苛々して、ブランコを漕ぐのを止めて沖田と向き合うと、まるでそれを待っていたかのようにとても優雅に、けれど顔だけは普段のあの右の口角だけを上げた悪戯っぽい笑顔で沖田は右手を差し出して、そして言った。

「一緒に、どこか遠くに行きやせんか?」
「…お前とカ?」
「二人きりで、いわゆる駆け落ちってさァ」

笑い声がいつもより澄んで聞こえたのは冬だからだ。冬の澄み渡った空気のせいに違いない。神楽は右手をそろそろと沖田のそれに重ねた。冷たい、と沖田は小さくこぼしたが、それでも繋いだ手を離すことなくそっと神楽の手を引いたので、神楽は余った左手でぐしゃぐしゃになった航空券を近くにあったくずかごに投げ入れた。



My sweet home
(また帰る場所ができたよ)


fin

銀ちゃんは死んでしまったらしいです(えぇー?)
なのでお父さんが帰ってきなさいってお手紙を出しましたが帰らなかったよ、という話(…)
お粗末さまでした!(逃げた!)



2006.12.28


あきゅろす。
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