[携帯モード] [URL送信]




教会へ行く前に爪を切ってあげると言いだしたのは兄さんだし、確かにエイミーの爪は不潔なくらい伸びていたし、引っ掻かれて痛かったから俺も「切れよ」と怒ったのだけど、どういう訳か兄さんがエイミー(後ろから抱き込むようにして)の爪を切ってあげているのを見ると、突然ぐるぐるべとべとぎとぎとした気持ちになってきたので不思議だなぁと思っていた。ぱちんぱちんとリズムよく、でも慎重に音を鳴らす爪切りと、兄さんの膝に座ってご機嫌なエイミー。ふん、知らないだろう。と、俺は密かに心中で毒づく。知らないだろう、兄さんは実は膝に座られるのが苦手なんだ、と。
エイミーが何か言って、兄さんが笑っている。俺は本を読むふりをしてちらちらと2人を覗き見た。窓の外で雨がさぁさぁと音をたてている。教会になんて、行きたくなかった。退屈で死んでしまいそうになるもの。ねぇ兄さん?そんな話をいつかしたのを思い出して兄さんの方を見るとエイミーとくすくす笑い合っていたから腹が立ってきてまた本に視線を戻した。さっきからそんな事の繰り返しだ。あぁキャッチボールがしたいなぁと思ったけど、すぐに外の雨の事を思い出してまた1人で腹を立てた。本当に、繰り返しだ。
エイミーなんか女なのに。妹なのに。キャッチボールも出来ないのに。すぐ泣くのに。兄さんは最近エイミーの事ばかり。一体何が楽しくてあんなにもエイミーに構うのか理解できなかった。俺の方がよっぽど兄さんの気持ちを分かってるのに!俺といる方がずっと楽しいのに!それなのにエイミーも兄さんもなんだか2人で嬉しそうだ。俺はこんなにもぐるぐるでべとべとでぎとぎとなのに。ぱちんぱちん。あぁもうなんだかとっても耳障り。兄さんも兄さんだ。俺だって兄さんの弟なのにほったらかしにするなんて。ばーかばーか。兄さんなんかエイミーと結婚してどこかに行ってしまえばいいんだ!
そんな事を考えていたらとんでもなく悲しくなってきて悔しくなってきてやりきれない感じになってきた。情けない。恥だ。でもしょうがない。
エイミーがまた笑っている。兄さんが「じっとしてろ」と嗜めたけど、それもなんとなく嬉しそうだった。俺は相変わらずぐるぐるでべとべとでぎとぎとだった。
教会なんて行きたくない。雨も嫌だ。本が全然面白くない。早くキャッチボールがしたい。エイミーの馬鹿。だいたい爪くらい自分で切れよ。兄さんにくっつくな。俺の、




「俺の兄さんにくっつくな」






ぱちん。





あ。
と、思ったときには言葉が口から飛び出していた。俺は最初その事に気付かなくて、断続的に続いていた爪切りの音が聞こえなくなった事で初めて自分がやってしまった事に気付いたのだった。
俺がはっとして顔を上げると、兄さんとエイミーが同じタイミングで瞬きをしながら俺を見ていた。
さぁさぁという音がする。雨がやまない。

そう長くはない沈黙の後、でも居たたまれない空気の中、最初に口を利いたのはエイミーだった。大きな目を瞬かせて、何かに納得したような(大人みたいな)口調で彼女はこう言った。




「ライルはニールに恋してるのね」







その後、俺が部屋から飛び出していったのは言うまでもない。
そうしないと、恐ろしい事に俺は、泣いてしまいそうだったのだ。キャッチボールもできない泣き虫なただの妹に泣かされそうになったのだ。俺が兄さんに恋だなんて恋だなんて恋だなんて!

その日俺は教会には行かなかった。退屈なだけならまだ良かったのに、とさえ思った。















fin.





thank to 僕の世界は君のもの! and 猫野様



2008.12.06
ひお 愛を込めて。







あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!