「ん」
おもむろに差し出された掌に瞬き一つ。
なに、と視線をやれば掌の主は不思議そうな顔でこう言った。
「手、つなご。」
白石蔵ノ介という男はつくづく変な奴だ、とユウジは思っていた。
自分も普通平凡で括られるタイプではないとは思うがこいつもそうとうな物だ、と。
なんでと聞くと平然と繋ぎたいから、と言ってのけた。
だからその繋ぎたい理由が知りたいんや!とユウジは心の中で叫んだが目の前の白石はきょとんとした顔で早よう、と手を差し出すばかりである
「嫌や。何が悲しゅうて男同士で手ぇ繋がなあかんねん。」
「えー。ええやんか、手繋いで帰ろうや」
手を追い払うように振ったが白石は挫けた様子も無く、にこにこと笑って居る
「やって俺、ユウジと手ぇ繋いで帰りたいんやもん」
「は?」
「ユウジと、手、繋いで、帰りたい」
繰り返し、一語一句しっかりと区切って紡がれた白石の言葉を理解したユウジは殊更大きな声で断る!と叫んだ。
だって恥ずかしいじゃないか
面と向かってあんな真っ直ぐな目で、自分と手を繋いで帰りたいだなんて言われてしまったら。
叫んだきり俯いてしまったユウジの頭上で白石が小さく溜息を吐くのが分かりユウジの肩が一瞬跳ねた。
「……我儘言ってスマンかった」
また明日、とユウジの頭を軽く叩く
離れて行こうとするのが気配で分かりユウジは弾かれた様に顔を上げた
「白石っ、ちょお待って…!」
「…………。」
「…………くっ。」
暫しの沈黙の後、それを破ったのは白石の小さく吐き出された笑い声だった。
笑うまいとくつくつと堪えた声が規則的に耳に届き、徐々に恥ずかしさが込み上げて来たユウジは誤魔化すように白石を睨み付けた
「笑うなっ!」
「せやって、ユウジ、これはないやろ」
「うるさい!袖掴も思って失敗しただけや!阿呆!」
くい、と持ち上げられた白石の手にはユウジの手が繋がっていて、なぜか親指だけがぎゅっと握られていた
けらけらと笑う白石の手を振り払って今度はユウジが溜息を吐く
引き止めるんじゃなかった。ユウジはそう思った
なんで引き止めてしまったかも分からないのに、これではただの恥かき損だ
「ん」
悶々と悩むユウジの前に掌が一つ。
にこにこと笑った綺麗な顔が憎たらしい
素直に手を繋いでやるのはなんだか負けた気がしたので、ユウジは包帯の巻かれた白石の人差し指を、そっとにぎるのだった。