[通常モード] [URL送信]
※遊廓パロ。
白石→侍
ユウちゃん→遊女設定です





四天宝寺の街は商業の街だ
今日も各地の名産を携え色々な人がやってくる
それに紛れて入り込んだ良からぬ者、それをお上の命を受け成敗するのが蔵ノ介の任務だ

その日、蔵ノ介はいつものように頂いた任務を果たし街に帰る所だった
今回の山は大きかった
小競り合いの火種が飛び火して戦火になる恐れもあったがなんとか阻止を出来て良かったと同胞達と笑い合った隣街との境道
蔵ノ介はある一人の女を想う

一度目の出会いは偶然、二度目の出会いは運命だったと蔵ノ介は思っている


始まりはなんて事はないただ道でぶつかった、ただそれだけだった

人々で賑わう大通りで互いに少し気を散らしていただけ。
しかしそれだけで終わらなかったのは二人の脇を擦り抜けていった一匹の蝶の所為だ

「めんこいなぁ…お侍さんは蝶々好き?」

「嫌いじゃないな」

「ウチは好きやで最初は葉っぱの上だけなんにおおきなったら好きな所に飛んで行ける。…ええなぁ」

名残惜しそうに蝶が飛び去った方を見つめる少女の瞳は美しく澄んでいる

「自分禿か?」

「おん、もうすぐお座敷やねん。せやからきっとこれが最後のお使いやなぁ」

その澄んだ瞳に一瞬悲しみが揺らめくのを見つけて蔵ノ介はなんとも言えない気持ちにさせられた
ふと横を見やると簪の屋台が出ている
少女の髪には広い幅の緑色の布で慎ましやかに飾られているだけ
蔵ノ介がそれを口にしたのはそんな偶然が重なったほんの気紛れだった

「…どれがええ?」

「ええのっ?」

屋台を指差しそう訪ねる蔵ノ介に始め不思議そうな表情を浮かべる少女に祝いに一つ買ってやると言えばぱあっと顔を綻ばせ蔵ノ介の手を引いて屋台へ近付き、飾られた簪をうんうん唸りながら物色し始めた

暫くして蔵ノ介は少女が一本の簪とその他の簪とを何度も見比べているのに気付く
少女の手の中にあるのはいずれも小さな花をあしらった年頃の少女が使うには幾分慎ましい細工の物ばかり。
なんとなく少女考えている事がわかってしまった

「これなんかどうや?」

「えっ…」

かしゃりと音をたてて一つの簪を少女に見せると少し戸惑った表情を見せた

「でもそれ…めっちゃ高いもん」

やはりそうか、と蔵ノ介は笑った。
子供が遠慮などしなくていいと告げれば子供じゃない、と頬を膨らませる少女を純粋に愛らしいと思う

「嫌やないならこれにしよか」

返事を待たずに会計を済まして戻ると少し困った顔をした少女が蔵ノ介を窺っている
その髪に簪を差してやると思いの外良く似合った

「うん、よう似合っとるで」

「おおきにお侍さん!」

素直にそう伝えると与えられた簪を髪に差したまま嬉しそうに笑う少女
興奮のためか赤く染まった頬に煌めく揚羽が良く映えた
別れた後もその微笑みは蔵ノ介の心の柔らかい所で微睡む様にふとした拍子に思い出してしまう

そんな様子を見兼ねた直属の上司である渡邊に半ば強引に連れてこられた華街で
通された部屋で出会った女の髪には蝶の簪が有った。

二人が睦言を交す迄にそう時間はかからず此度の任命で手に入る報償金で女を水上げ夫婦になる契りを交わすに至った
多少手傷は負ったが街を護るという事、それが彼女を護るとという事に繋がっている。そして此処から繋がる幸福に蔵ノ介の胸は満ちるのであった

そんな中不穏な影が蔵ノ介の周囲を蠢く
がさりと音を立てて深く傘を被った浪人勢が蔵ノ介を囲んだ

「あんたがあの街に帰ると困る人が居てね」

あんたはこの戦で手傷を負って死んだ、そう言う事にさせて貰う
その台詞と共に男たちが臨戦態勢に入ったのを見て蔵ノ介も刀の柄を握った

「是が非でも押し通る。待たしとる奴がおるからなぁ」


ざわりと木々がわめいた


****


数日後華街―――――



街が俄かに騒いでいる
隣街との戦火の鎮圧に行った男衆が軒並み帰って来ない
はたまた変わり果てた姿で発見された
そんな話が街の彼方此方で囁かれている
事実そんな日数がかかる距離でも無いにも関わらず男衆は帰って来ては居らず役人達はその事実確認に奔走していた


「ユウさん。今ならまだ、俺はあんたを水上げる余力がある。」

「お医者さまにはえろうお世話になっとります。けれど妾は女やさかい」

惚れた男が此処で待てと言うんならばじっと待つのが女です。
そう薄く笑った女はゆるりと己の腹を撫でた
少し張った女の其処はとくり、とくりと密やかに生命を刻んでいる

「あん人は必ず、来てくれはります」

それまで待って見せます。妾も、この子も
じっと謙也を見つめる二つの瞳がゆらりと揺らめく
さながら炎の様だと謙也は思った。

「ほんなら俺も待とうか」

蔵ノ介は良くも悪くも目立っていた
今回の事もその実、蔵ノ介を狙って起きた事ではないかと謙也は思ってる。
そして幾日たっても戻らない蔵ノ介の代わりにせめてもの弔いにと彼の愛した女を守ろうと決めたのだった
しかし女は信じている。
蔵ノ介が生きて自分の元に戻ってくると
ならば親友として出来る限りをしよう
あいつを信じて待ちながら俺はあいつの愛した女を守ろう

その言葉に女は応えなかった
小首を傾げた拍子にしゃらりと簪が鳴る


蝶々を模した簪、それを差す女が飛び立つのはいつ?





戻る。


*ありがとうございました!*


あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!