5.一歩を踏み出す勇気
謙也は走った
身体中の全部の力を脚に込め風を切ってユウジを追う
追われるユウジがぐん、とスピードを上げるがじわじわと距離を詰められついには謙也の腕がユウジを捕えた
じたばたと暴れて逃げようとするユウジを宥めようとするが謙也の言葉は届かずわぁわぁ喚くユウジに少しずつ謙也の苛々が募る
「…っああもう五月蝿い!」
「!?」
元来せっかちな性格の謙也だ
考える先に体が動いていた
ちゅう、と唇をくっつけるとじたばたともがいていたユウジの体がピタリと止まった
「す、すまん!」
やってしまった、と慌てて肩を掴んで距離をあけると大きく見開いたユウジの瞳からころりと涙が零れた
しだいに嗚咽がまじりになり本格的に頭が冷えた
「わ、わぁあごめんごめんユウジごめん!」
謝ってもぶんぶんと頭を振るだけで応えてくれずただ焦燥だけが募る
ユウジがまるで子供のようにぐずるのでもうどうにでもなれ、という気持ちで謙也はユウジを抱き締めた
びくりと大袈裟に体がはねひゅうと息を飲むのがわかった
けれど抵抗はない
ユウジの背中を一定のリズムで叩くと強張った体から力が抜けていく
だらりと下がっていたユウジの腕がゆっくりと謙也の背中に回りか細い力が加えられた為、今度は謙也の体が震えた
「……ユウジ?」
少しでも動けばぎしりと体が軋む音が聞こえてきそうな位に固まってしまった謙也の心臓はばくばくと五月蝿くてたまらない
「けんや。」
すき。
耳まで赤くしたユウジがとても小さな声で呟いた時不覚にも涙が零れた
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