「何してる……」


 まっくらやみと、ふかふかのおふとんと、目のまえにはさっきまで長いまつげを伏せていたはずなのに、今しっかりとこちらをみあげている表情。それは、ちょっとだけ呆れた様子である。でもぼくは、いたってしんけん。

 む。何してるだって、おうさま。


(なんでわかんないの!)


 ぼくは今、まよなかのおうさまのお部屋とつにゅう中である。いつもよりも音を立てないようにさいしんの注意を払って、おうさまのねむるお部屋におしのびし、いざ、おおきなおふとんに乗り上げておうさまをみた。

 そうしたら、おうさまがおきちゃった。そして、ねぼける様子もなく、すぐ開口一番にそんなひとことである。

 おうさま、おどろいてない!

 というわけで仕方ないから、ぼくはおうさまに、ねたばらし、した。


「さんたさん……」



 いうと同時に、ずりっ、と、頭にくっつけた赤いぼうしがずりおちた。ロビンとブラウニーが用意してくれたぼうしだったんだけど、ぼくにはすっぽりとおおきい。



 だって、ロビンとブラウニーがいっていたんだよ。ふゆになると、さんたさんがきて、プレゼントをくれるんだって。でも、おとなになったらもらえないんだって。ぼくはもらえるのって聞いたら、もらえるっていってた。でも、おうさまはもらえないんだって。

 だから、ぼくがおうさまのさんたさんになることにした!

 ロビンとブラウニーは応援してくれて、さんたさんのぼうしと、いいことを教えてくれたんだあ。

 今日がその日っていうからきたんだけど、おうさま、ぜんぜんおどろかない!


「……おうさまもしかして、さんたさん知らないの? あのねえ、冬になるとプレゼントしにくるひとのことだよ!」

「で、なんでおまえがサンタなんだ」

「おうさまにはさんたさん来ないから、ぼくが代わりにきたの。……ほら、クツシタも持ってきたよ?」

「それ、おまえがこの間履いてたやつだろう」

「ちゃんとごしごし洗ったから、きれいだよ?」


 片手にプレゼントを入れて持っていたそれを出して、おうさまのまくらもとに置いてあげた。とはいってもぼくがおうさまのために用意できるものってあんまりないんだよ。だから、おうさまがニコニコになるもの、がんばって考えたんだ。

 なんだかフクザツそうな顔をしたおうさまは、それでもベッドに乗り上げていたぼくをだっこして、あったかくしてくれる。


「……また裸足だな。床は冷たいから歩くなと言っているだろう」

「おうさまのクツシタにしたから」


 はだかの足を握ったおうさまの手は、いつもよりもあったかい。おふとんのなかにいたからかなあ。ぽかぽかしていて、気持ちいい。

 でもたしかに、ふゆのおうさまの城はちょっとだけつめたかった。ここまでくるのに、床が冷たくていつもよりも大股あるきになったよ。だから、おうさまといっしょにいるとぬくぬくするなあ。


「あのねえ、さんたさんがプレゼントするのは、くりす……なんだっけ?」

「クリスマス」

「うん、くりすます。くりすますっていうんだって、でね、そのときにはね、だいすきなひとといっしょのおうちに、おおきなふさふさの木を置いてね、きらきらのものでかざりつけをするんだって!」


 ロビンとブラウニーが教えてくれた。……絵本で見せてくれたんだけど、ふさふさの木には赤や、青、緑、黄色……いろんな色のかざりがたくさんで、きれいだったんだあ。

 やがて、おうさまは、ぼくのからだをぎゅってして、おふとんのなかに入れてくれた。おうさまが眠っていたところを開けて、そこにいれてくれたから、たいおんが残っていてぽかぽか。ぴやぴやだった足も、ぬくぬくだ。


「ねえ、おうさま?」

「なんだ」

「つぎは、いっしょにくりすます、しよう? おおきなふさふさの木で」


 おうさまが頷いて、白いぽんぽんが先についた赤いぼうしごと、ぼくの頭をくしゃくしゃ撫でてくれた。

 つぎのくりすますは、いつになるんだろう。

 すこしだけ、先であってほしいなあ。ずっと来ないのは、いやだけれど。

 でもね、先のことだったら、それまでおうさまといっしょにいられるよ。……つぎの約束をしてしまったから。


(つぎは、いっしょに、くりすます)


 ふふふ、と、思わず笑い声がこぼれた。ふしんそうにぼくを見たおうさま。でも、ぼくは、たのしくて仕方がない。


「あ、あのね、おうさま。あとひとつだけ、おねがい」


 ぴったりとくっつきながら、おうさまを見つめる。くらがりに目が慣れていたからか、くらがりでもさわりがないほどに近くにおうさまがいたからか、夜色の瞳が映し出される。きれいな瞳は、おしゃべりのぼくとはちがってしずかにこちらを見つめるだけ。


「さんたさんは、プレゼントを置いたら、つぎのこのところにいくんだよ。……えんとつ? ていうところから外に出てっちゃうんだってね。さむいねえ」

「そうだな」

「でも、あのね、ぼくがさんたさんするのは、おうさまだけだよ?」

「ああ」

「だから、えんとつから帰らなくていい? 朝まで、ここにいてもいい?」


 もう何度も、さむい夜はおうさまのところでぽかぽかしてねむったけれど、どうしてもこんな日ははなれたくなくなるんだ。つめたい部屋で、ひとりでねむりたくない。

 さんたのぼくも、わがまま。


「えっと……だってね、えんとつないよ? なきゃかえれないよ?」

「どっかにあるぞ」

「え、そうなの? で、でも、きっとお掃除していないよ、ぼく、きたなくなっちゃうよ?」


 それでも必死にせっとくする。おうさまはしばらく黙ったままうなずいてくれないけれど、ぼくがせっとくのためのおしゃべりに疲れたころにようやく頷いてくれた。

 よかったあ、もう、ぴやぴやの足でかえりたくないよ。

 ていうのはたてまえで、おうさまのそばがいい。


「えへへ」


 おいで、といわんばかりにひろげてくる両腕につつまれに、からだをよせた。おうさまのここが、世界でいちばん安心するんだ。ほっぺと鼻をすりつけながら、居所のよいところをさがして、落ち着く。


「エル……もう寝たのか」

「ん、ねてないよ……」

「眠いか」

「んーん……ねむく、ないよお……」


 うそ、ちょっぴりねむいや。


 目を瞑れば、脳裏にきらきらのくりすますの木がやってくる。その周りを、かざりのいちぶみたいに溶け込んだロビンとブラウニーが飛んでいる。

 ぼくとおうさまは、となり同士になってあったかいばしょでそれを眺めながら、ふふ、って、笑っているんだ。……あれ、これは、来年のぼくたちかなあ。ゆめのなか、かなあ。

 かたっぽのクツシタはおうさまの、もうかたっぽはぼくのものだったけれど、それはお部屋におきざりにしてきちゃった。ぼくがおうさまのさんたさんしている間に、ほんとうのさんたさんがぼくの部屋に訪れたら、びっくりしちゃうかな。

 プレゼントをくれないかもしれない。

 それでもいいんだ。おうさまとこうしていられるなら、それがいちばん嬉しいくりすますのプレゼント。 今日もぼくの、とってもしあわせな日になった。


「ん……おーさま。おやすみなさい……」


 明日は、おうさまと、どんなおしゃべりしようかな。

お う さ ま と さ ん た さ ん


――End――

何かと理由をつけてはおうさまと一緒に寝たがるエルちゃん。
おうさまはエルちゃんの言い訳を可愛く思っているので、ひととおり聞いてからうなずくのです(笑)

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