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笑顔ぐしゃ





笑顔のきれいな人だった。
強い人だと思ってた。

人の心を汲む気遣いの出来る女性であることをもっと深く考えておけば、もっと早くに気付けたのかな。





*笑顔ぐしゃり*





空からの贈り物が、しとりしとりと純粋な世界に降り注いだ。
ふんわりと降り積もっていた冷たい雪はぐちゃりべちゃりと雨に汚され、静かに嘆いた。

「こんな時期に雨なんすね」

修兵は処理しても処理しても終わりが見えない書類仕事を片づけながら、隊主室の外のよごれていく世界を見やり嫌そうに眉根をよせた。
すると目の前のソファに身を沈める彼女は楽しげに笑いながら、承認の印を押してもらうために自隊から持参した書類をテーブルに置く。
その動作一つをとっても彼女は艶やかで思わず見惚れてしまう。

「確かに冬なら冬らしくって思うけど時期はずれの雨って、貴重、なんだから」

違和感を感じた。
修兵の方を見ていたのに、ちらりと動いた視線が誰が作ったんだかわからない雪だるまを追って、微笑。
雪だるまは雨に打たれて歪んでいた。ぐしゃりとひしゃげている。


「それより修兵、お茶とかお茶菓子とかないの?」

寂しそう、に見えたのだけれどきらりと輝く笑顔は一級品。
自身の見間違いだろうと頷き溜息をついた。


「……乱菊さん、サボりにきたんすか」
「まあ、書類が建前なのは確かね」

くるりくるりと表情を艶美に変えた彼女に今日も白旗。

「……左から2番目の棚に急須とカップ、お茶菓子は一番下の引戸開けたらあります。ポットはそこ」

降参だ。時たまふらりとやってきては惑わしていくのは故意か無意識か。匂いたつ芳香と美しい笑顔を纏ってやってくる彼女に頭が上がらないのは惚れた弱味なのか。

全てがどうでもよくなるほどに愛しくて堪らないのは、頭がおかしくなったからではないのは修兵自身よく理解している。
恋愛経験は少なくはないと感ずることができるのだから。

「わっ、ありがとう」
「まあ隊長に怒られない程度の時間に帰ってくださいよ?」

仕方がないと口許に笑みを浮かべると、彼女は嬉しそうに頷いて居た。


******

目の前には一口しか食べてないお茶菓子と温くなった煎茶があり、山のようにあった書類もふもと付近まで減らしていた。
こきこきと肩を鳴らし、すっかり静かになった彼女を見やれば体が横になっている。
待ちくたびれたのか、眠りにきたのか、いやサボりにきたのだから仕方ないが。

「乱、菊さん?」

近付き声をかけても目覚める気配はない。

睡眠という誘惑で、長い睫毛が瞳を隠すのを見たのは初めてだったのだが。

「涙?」

勘違いだろうと思い込みたくても睫毛についた雫はきらりと光って、頬を伝いソファに染み込んでいくそれは紛れもなく。

「……ギ、ン……」

はっと息をのんだ。彼女が長い長い恋をしていた相手。今は敵になってしまった相手。
その名前に全てが込められている気がした。ずっと未だ好きだと叫ぶ気持ちに嘘をついていたんだろう。
先刻、ぐちゃぐちゃになった雪だるまを見たときの、寂しそうな微笑が脳裏を過ぎる。

「……俺には貴方自身をみせてくださいよ」
大切な人が消えた似たもの同士じゃないっすか。

呟いた声音は淡雪のように儚く消えていく。
堪えるように涙を溢す彼女は、夢のなかでも自身の感情を隠しながら泣いているのだろうか。
今も崩れた雪だるまは外でにたりと笑っている。
修兵はそれが彼女の弱さに気付けなかった自分を責めているように感じていた。

だってそうだろう。
彼女もあの雪だるまのように、ずっとずっと壊れた笑みを浮かべていたのだ、きっと。



「らんぎくさん……」


返事はない。だけれど強く握った掌を少しだけ握り返してくれた。
修兵は少しでも彼女の心が晴れるようにと願う。





まだ、純粋な白を汚す雨は止まない。







(にているから、ねむってしまうほどあんしんするの。

あなたはあたしを好きだから。
あたしはあいつが好きだから。
お互い、叶わない恋だから。)






*おわり**


久しぶりに修乱!
たのしかったなぁ。内容は切ないけどっ。

修乱だいすきっ(*´`)vv




**********


あきゅろす。
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