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構成要素
・雌幸村政宗
・だと言いたい
・けれど殆ど、だてさな
・すみません!
以上お許し下さるのならば、どうぞ↓


















幸村は困っていた。
ほとほと、困っていた。

何が彼女を困窮させているかといえば、それは幸村の恋人である、政宗である。
いや、困っているというか、焦っているというか。
とにかく、幸村はこうして小一時間、机に頭を抱えて座ってはうんうんうなっているのだ。

というのも、最近政宗がそっけないというか、なんというか。
付き合い始めた当初は、幸村が照れて押し返そうが何をしようがぐいぐい迫ってきていたキスやハグが、最近ではぴたりと止んだのだ。

それと時を同じくし、春の体重測定があった。
そこで幸村は、驚愕の事実を知る。

―――体重が、5キロ増えていた。(佐助に指摘されて初めて気が付いたのだが)

政宗のそっけなさ、そして己の体重の増加。
この二つの事象により、幸村は極めてマイナスな解答を導きだした。

「政宗殿が、某に愛想を尽かそうとしている!!!」

青ざめた顔でそう叫んでからここ5日ほど、幸村はこうして頭を抱えているのである。
頑張って食事を制限するも、いつも最後は猛烈な空腹に負けてはより多く食べてしまう。その結果全く体重は減らず…。
ここ最近は、授業の内容もまるで頭に入らない。

(叱って下されお館さばぁあ…!)

心中、我が師を仰ぐも精神は一向に穏やかになることはなく、幸村は幾度めか知らぬため息をついた。


「…はぁ、政宗殿…」


政宗はもう自分に興味をなくしてしまったのではないか。

体重が増える以前にも、幸村はやはり子供っぽいやらガキ臭いやらはよく言われていたし、何より二つしか歳が違わないのに、とても大人びて見える政宗に自分が釣り合っているのかすら、それまでも不安に思えてくる始末。

考えれば考えるほどに、どつぼにはまっていく思考をいよいよ持て余し、幸村は曲げていた背を後ろに反らし、そのまま畳に倒れこんだ。

大の字になり、天井をじっ…と見つめる。

(……駄目だ…)

やっぱり何の打開策も思いつかない。

仰向けから、横になる。
きゅっと、胎児のような格好で、ぼんやりと、視界に広がる畳を見つめた。
と、

(む……あれは…)

幸村からは離れた場所に、雑誌が積まれているのが見える。

(そう言えば……慶次殿や元親殿が…)

以前、幸村がまだ政宗と付き合い始めて、まだ間もない頃。
恋愛のれの字も知らない幸村に、友人たちは(応援半分冷やかし半分で)様々な相談に乗ってくれた。
その中で二人の友人は、それらの雑誌類を幸村に譲ってくれた。
もう読まないからと言って渡された量はけっこうなもので、お下がりと言う割りには、恋愛関連のページに付箋が張ってあるという丁寧さには驚きである。

しかしそれを読むのは幸村。
いくら二人の計らいがいたく彼女の心に染みたとて、内容が内容である。
ある意味、学校で教わる座学よりも実感の伴わぬ恋愛に関する記事たちは、どうにも目が滑って滑って、結局一言も身にならないまま寝息を立ててしまったこと幾数回。
だがそこは幸村、持ち前の努力と根性、それに政宗への熱くたぎる思いで、幸村の方から手を握るという奇跡を起こす事ができたのだ。
ただ、幸村自身もうその事に満足している節があり、以降その教本(雑誌)は部屋の隅にきちんと積まれたまま、読まれていなかった。

「……そうだ…」

今こそ、この力を借りるべきではないか。
がばり、ずざっ、素早い動作で寝転んでいた姿勢を正座に直し、幸村は膝行して雑誌の山の前に座す。

「……」

ごくり。
幸村は山の上から一冊手に取る。
―――――これを手にするのはいつぶりか。
政宗と恋人同士になったのは、蝉の音降りしきる去る年の夏だった。

だからかれこれ、半年は経っているのだろうか。

緊張した面持ちで、幸村は一番若いページに付いた付箋をつまむ。
めくってみれば、そこにはっかでかと、ショッキングピンクの見出しでこう書いてあった。


「彼をその気にさせる10の方法」


幸村には、その活字が、光り輝いて見えた。




















「いいいらっしゃいでござるぅううまさむねどどの」

インターフォン越しに、いやに焦ったような幸村の声が聞こえた。

次いで鈍い地響きと騒音、叫びが家の中から鳴り響き、直後政宗の目の前の扉が開いた瞬間の台詞は、異様に噛み噛みだった。

「………アンタ、大丈夫か?」

不審な様子の恋人に、政宗は心配半分怪訝半分の視線を送る。

「いッ、いいいえ?べ別に!何もござらんよぉ」

変に語尾が裏返っている。
誰がどう見ても絶対変だ。
これは幸村が何か隠し事をしているときだ。


(ッつってもま、大したことねーんだけどな)


こんな幸村には以前にも見覚えがあるが、事の顛末と言えば結局――――――――――
やれ政宗のお菓子を空腹に負けて黙って食べてしまったとか、政宗に買ってきたはずの肉まんを食べてしまったとか、バレンタインに貰ったチョコが箱の割に異様に小さかったのは実は(というか案の定)、作っている最中につまみ食いをし過ぎて、気が付いたらボウルのチョコが半分になっていたとか……

(って全部食べ物関連じゃねェか…!!!)

まあそんなかんじで、今回の挙動不審の原因も、きっと絶対、どうでもいいことに違いない。

心中セルフツッコミを噛ました政宗は、さっさとそう結論付け、案内されるまま幸村のあとをついていった。



















「ま、政宗どの、は、そそそこに座ってく、だされ!!」

幸村の自室に案内された。
大股で先に入った幸村は、ぎくしゃくと振り向きながら、これまた軋む音が聞こえそうな程に、指を差した。

「…………」

幸村が指差したのは、彼女の布団だった。
…いや、というか何故部屋の真ん中に布団が敷いてあるのだ。

万年床ならいざ知らず、政宗が幸村の部屋に遊びに来たいつ如何なる時でさえ、布団が、しかもこんなに堂々と敷いてあるのは見たことがない。

政宗は閉口した。

「ま、政宗どどの!何を、っげほげほ、ぼんよりしているのでござるかっ」

むせたり噛んだり、いよいよ挙動も超不審極まる幸村は、政宗の背中を押した。

「Ouch!!」

割と強く。

ちなみに、幸村の割と強くは、並み居る女子の最強に近い。
政宗は布団に突っ込んだ。

「ぐぶっ」

「わ、わ、あ、政宗殿っ!」

飛び上がった幸村はどたどたと、顔面から布団に突っ伏した政宗に駆け寄った。

「申し訳ござらん政宗殿…あ、あの…大丈夫でござるか…?」

「………」

幸村が不安げに覗き込んで来る中政宗はのそりと、緩慢に起き上がり、ため息をひとつ。

「…アンタの方がよっぽど大丈夫じゃねェだろ……何かまた隠し事してんなら早く白状して楽にッ痛ェエ!!」

ぱちん!

政宗の言葉の途中で小さく、乾いた音が鳴った。

「…あ」

それは何かが、弾けて飛んで、勢い良く当たった音だった。

かかんだ幸村の、胸元のボタン。
それがはち切れ、鋭く飛び、政宗の頬を直撃したのだ。

「え、あ、あぁ!?ぎゃ、す、すみませ、まさ、あ、」

混乱極まったと言わんばかり、頭から煙でも出しそうな幸村は、あわてふためき政宗の頬をごしごしこすった。

「…………」

痛い。
そんなことをされても、ボタンの形に赤くなっているだろう患部は治まるどころか悪化する。
しかしもうなんだか、振り払う気にすらなれず、ついでに隠し事を吐かせる気力も一気に失せた。

呆れながら、政宗はぼんやりそこら辺を見ていた視線を件の幸村に移した。
と、

(おっ)

必死に謝罪を重ねながら頬を擦る幸村の、その胸元、第一ボタンが無惨に取れ、開いている。
だがそれだけではなく、そこからは谷間が、見えていた。
幸村の胸は同年代の女子の平均値を遥かに越え、男子たちの夢と希望を掻き立てる力たるや絶大。
そのむっちりとした二つの柔らかい凶器は、今何故か、特にむっちりとし、しかもよりこんもりとしているようだ。

(なんだァ…?)

よく見れば、今幸村が着ている服のサイズも、少し小さい気がする。
第一ボタンに続く、第二第三も、今にもはち切れんといった風に、左右に引きつれる布の皺が危うさを物語っている。

多々すぎる程におかしな所はあったが、そのおかしさだけは政宗の機嫌を持ちなおさせるに十分だった。

「……ま、何でもいいが、今日はアンタに勉強を…」

「あっそうだ政宗殿某何か飲み物を持ってくるでござるぁああああ」


政宗の言葉を見事に遮り、幸村は言い終わらぬうちにまた部屋を飛び出していった。
いつもはきちんと閉めて出ていく障子を、開け放したまま。

「Ha…、」

政宗は、深いため息をついた。



















幸村が戻って来たのは、それからだいぶ経ってからだった。

勧められたのだからと、幸村の布団ですっかり横になってうとうとしていた政宗は、幸村の大音声に鼻ちょうちんを割る様子で起こされた。

「…………」

そして、政宗、本日幾度目か知らぬジト目である。

幸村が、盆に乗せて運んで来たグラス二つ。

麦茶が入った、爽やかな切子のグラス。
但し、氷が山盛り、入っていた。

「いや……」

今は3月だ。
もしかして、幸村は隠し事云々ではなく風邪ではないのか?
熱で頭がおかしくなっているのかもしれない。

「おい、アンタ…熱」

いよいよ心配になった政宗は、幸村の額に触れようと手を伸ばした。

「政宗殿!」

しかし、その手をぱしっと取る者が。
そう。他でもない幸村である。

赤くなった頬に、鬼気迫る瞳が、半ば政宗を睨む勢いで見つめる。
やはり熱が――――、

「む、麦茶を用意しましたので、おの、お、お飲み下され」

有無を言わさず幸村は、氷たっぷりグラスを政宗の手に押しつけた。

「さあ!」

「………ゆき「さあ!!!」

政宗は天井を仰いだ。
――もはや何を言っても無駄だ。

一度こうなった幸村には、どんな言葉も制止も効かない。

おとなしく、もう政宗は幸村のしたいようにさせてやることにした。

「んじゃ、」

グラスをついと上げると、政宗は麦茶を呷る。
ただ、氷が今にもグラスから落ちそうで、唇で何とか押し留めながら飲む。

(何だかなぁ)

政宗がかつて、これほどまでに非スタイリッシュに飲み物を飲んだことがあっただろうか。
いや無い。


幸村は時として、政宗の完全無欠の格好良さに簡単にヒビを入れてしまうことがある。
幸村のペースに巻き込まれてしまえば、政宗すらもその体裁を危うくする。

だがそれは、政宗を決して退屈させることのない、スパイスとなるのだ。

そんな味の効いた人間はなかなか居ない。
特に女と言えば、皆一様に政宗に媚び、命じれば何でもする、無味乾燥な者ばかりだった。
その点で幸村は、政宗自身ですらも知らなかった部分を曝け出させてしまう。
まあそれが居心地良いとは言えないが、それでも未知を知るおもしろさを、幸村は多分に味あわせてくれる。
退屈しない。
だからそこも含めて、政宗は幸村を好いている。








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