3 Hallo Hallo
おれは山形の部屋でブルーマンデーなんかを聴いていた。
山形は美人だったが、左腕が傷だらけだった。
ノースリーブなんて着ているものだから、傷が露わだった。
おれはファミリーマートで買ったトリスを飲みながら、28にもなって、リストカッターもないよな、と笑った。
山形はファミリーマートで買ったカンパリを飲みながら、「うるさいな、趣味なんだよ」と笑った。
カンパリはどんな赤よりも赤くて、真っ昼間だというのにやけに薄暗い山形の部屋では、唯一色のついているものに思えた。
おれはもう働いていたし、会社に行けばいやな上司に成り下がっていたから、山形が愛おしかった。
山形はというと、延々と自分の書いた詩のすばらしさを語っていた。
とるに足らない、よくある風景だったが、おれにとっては、最も詩的な瞬間に思えた。
真理を相手に出歯亀しているやつらを、愚かだと思った。
おれはこの瞬間が好きで、おれにはこれが似合っていた。
4 ICHIKAWA Tribe EPISODE 0
あたしは葛西の駅で西船橋行きの地下鉄を待っている。
携帯電話の時計をみると、すでに午後2時を過ぎていた。
今日は谷崎美子とららぽーとへ行く約束をしていたから、どうしても地下鉄に乗らなければならなかった。
地下鉄はもう15分位は遅れているだろう。
ホームの端に立った駅員はマイクを持ち、何かをわめいている。
その声は電気に変換され、ホームの屋根にあるスピーカーから放たれていた。
先ほど大手町で発生したクーデタにより、電車は全線で運行を停止しています。
運行再開の目処は立っておりません。
クーデタ。
隣に立っていた女子高生は、携帯電話が使えないと取り乱している。
あたしはなぜか、ああ、この子もららぽーとへ行くんだな、と思った。
あたしも谷崎美子に少し遅れるかも、と連絡を取ろうとした。
だが、携帯電話のディスプレイには"しばらくお待ちください"というメッセージが出ていた。
らちが明かないので、あたしは改札をとおり、駅前に出た。
駅前の広場は人で混雑していたが、お誂え向きの自転車を見つけたあたしには、さほど気にならなかった。
あたしは自転車で浦安までたどり着いた。
地下鉄の高架沿いに進んできたから、さほど迷いもしなかった。
そうだ、市川も誘おう。
あたしは浦安魚市場の通りを、住宅街に向けて横切る。
思い切り自転車をこいで、後もう少しで市川のマンションだ、というときに宙を舞った。
考えた事もない風に巻き上げられたのだ。
そうしてあたしは気を失った。
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