距離で言うならたった5センチ。貴方は届きそうで触れられない関係。
曖昧で一番怖い距離。
貴方が無邪気に笑うから汚れの知らない漆黒の瞳が真っ直ぐだから…護りたい。
貴方の心を。
忠誠を誓う心と貴方を恋焦がれる心が葛藤する。
必要以上にユーリの心をかき乱したくないんだ。
お願いだからこれ以上…俺に心を開かないでくれ。
歯止めがきかなくなる前に…限界がくる前に。
最近俺はユーリを避け続けている。俺の中で貴方への感情の意味に気づいてしまった以上、一緒にいることはできない。
避けることしかできない自分の不器用さにうんざりする。一日のほとんどをユーリと共に過ごしていたのに、今では護衛として外に出かける以外は一緒に過ごすことはなくなった。
これでいい。
自分に言い聞かせる。
好きだから…護りたいから、一緒いてはいけない。
貴方を愛しているから…
「なあ、コンラッド〜城下町に行きたいんだけど連れてってくれない?」
ユーリはいつもお忍びで城下に出たがる。街の人々と触れ合うのを好んでいた。バレバレの変装ではあるけれど、街の人も陛下としてではなくユーリとして接していた。
それだけユーリは国民に愛されているのだ。そう、俺だけではない。
「すみません…これから少し用事があるので。ギュンターかヴォルフラムに頼んでみては?」
大きな漆黒の瞳が不安げに揺れた。ユーリが一瞬傷ついたのがわかった。恐らく俺がユーリを避けていることを本能的に悟ったのだろう。
「何で…おれ、コンラッドになんかした?」
「別に俺はこれから用事が…「本当は用事なんてないんだろう!」
ユーリは俺に掴みかかってきた。
「陛下、落ち着いてください」
それでも瞬間湯沸かし器的な性格を持つユーリは、爆発した怒りはおさまる訳がなく…容赦なく拳を俺の胸辺りに叩きつけてきた。
「おれは知っているんだからな。理由を付けてすぐに俺の傍から離れるし。あんたわざと地方の仕事ばっか入れるし」
怒鳴りながらもユーリの顔がどんどん歪んできた。
「キャッチボールはつき合ってくれないし、俺の目を見てくれない…どうして名付け親がおれを避けるんだよ」
俺は貴方をそんな泣きそうな顔をさせたくて避けていたわけじゃない。
錯覚しそうになる。
俺とユーリはは一歩進めるんじゃないかって
…忘れそうになる。
ユーリが魔王陛下で俺が臣下であることを。
「すみません、陛下」
「陛下ぁって呼ぶな!名付け親のくせにおれを避けるな!」
深々と頭を下げると、ユーリの目尻には今にも涙が溢れ出しそうだった。
「ユーリ、俺は…」
するとユーリは俺の胸の辺りで叩きつけていた拳を止めた。
「おれはコンラッドが好きなのにっ一緒にいたいのに!」
一瞬、時が止まった。
ユーリが俺のことを?
進んでもいいのか?
もう一度幸せになっても。
愛する人をこの腕で抱いても…
「いいんですか…?俺は臣下だし、魔族の血も半分しかないし、ましてや十貴族でもない」
「バカだなぁ…そんなこと関係ないだろう?おれはあんたを地位や身分で好きになったわけじゃない」
少し赤くなりながら、それでも真っ直ぐ俺の目を見てそう言った。
…ああ、5センチの壁を作っていたのは俺のほうだっんだ。貴方がそんな人ではないってわかっていた筈なのに。
俺の選択は間違っているのかもしれない。
貴方を不幸にしてしまうかもしれない。
だけど…
手を伸ばし指先でユーリの頬をなでる。たったこれだけのことで5センチの距離が埋まっていく。
あとはもう片方の腕であなたの腰を引き寄せる。
簡単なことだ。
「俺も貴方を愛しています」
そうして貴方はおれの服に温かいシミを作っていった。
只今、0センチメートル。
End
ゆか様からのリクエストでした。
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